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2章 のんびり

32話 普通じゃない

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「「「「「な、なんだあれは!?」」」」」


遠くの方に見えるそれは、人でもモンスターでもない、とても巨大な力に見えた。
大きな藁の人形なのは、村に近づいて分かったけど、とんでもなく大きかったわ。


「どうなってるのよこれ」
「驚きましたか?ここは国を支える場所です」
「支えるって」


ジューネさんの言葉には、とても多くの事が詰まっているのが分かったけど、そこからの説明は更に驚かされたわ。
この村から広がった物は、周りの村を巻き込みかなりの成果を出しているそうよ。


「だがよ、ここら辺だけだろ?」
「いいえ違いますよジュミさん、既に周りの領地まで広がっています」
「嘘だろそれ、オレたちそこ通ってここに来たんだぜ」


ジュミの言う通り、アタシたちは戦場からここまで、3つの領地を通って来た。
その中で、ここで食べた品を見た事が無かったと指摘したよ。


「確かに、料理は広がってないですね」
「だったら違うだろ」
「では聞きますがマーレさん、小麦が少し味が良くなっていたと思いませんでしたか?」


ジューネさんの質問に答えたのはエルフのふたりで、頷きながら涎を垂らし始めたわよ。
そんな事、アタシはふたりに聞いてなかったんだけど、どうやら聞かれなかったから言わなかったそうなのよ。


「味にうるさいエルフだけで、アタシ達が分からなかったくらいの差と言う事か、それでも違うって言うのかジューネさん?」
「ええ、何せ小麦が少なかったんですからね」
「「「「「えっ」」」」」


ジューネさんの話では、今年は不作で食料が無くなっていたはずだったそうよ。
だけどね、どこの領地にも小麦は沢山あって、それがこの村のおかげだったと話してくれたわ。


「だから気付かなかったのね」
「そうですよカレルさん、そして聞きます、戦争は勝てると思いますか?」
「それは・・・まず勝てないだろうな」


その理由もあり、アタシたちは早々に戻って来る理由が出来て、何かあると分かっていても戻って来たのよ。
そんなに差がある戦いに勝てるとジューネさんは言って来て、アタシは否定したわね。


「食料があっても勝てない、そう言いたいんですよねカレンさん?」
「それはそうよ・・・もしかして、あの大きな藁の人形とか言わないわよね?」


不安そうなアタシの質問に、ジューネさんは肯定して来て、だからこその護衛だったと教えてくれた。
それにしては、ここに来るまで何事もなかったけど、どうやらアタシたちの様に誰も知らないだけらしいわ。


「じゃあ、いつか来る事を予想してか?」
「そうですよマーレさん、だからこその凄腕の護衛です」
「なるほど」


それだけでも、護衛にするだけの事がある、だからこその貴族が仲介人になっていると理解したわ。
これから起きるからいつなのか分からず、それが今から始まるだけだったと言う話なのよ。


「だからって、戦争には勝てないわよ?」
「その為のあれですよ」


藁人形がそれにあたり、だからこそ護衛を今から付けたと教えてくれたわ。
つまり、戦争に勝ち世間に知られるという訳で、それが分かる前だからアタシたちをここに呼んだの。


「今から彼に会ってもらい、ここがどれだけ凄くて大切な場所なのかを知ってもらいます」
「「「「「彼?」」」」」
「ええ、この村での最重要人物は男なんですよ」


敵である男で、アタシたちはかなり不機嫌になって、やる気も消え去りそうでした。
しかも、そいつがここにいるという事は、その男は奴隷で、恨みを持った危険分子と言う事だったのよ。


「カレルさん安心してください、彼は安全ですよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「笑顔がね、凄く可愛くて素敵なのよ」


ジューネさんが変な事を言ってきて、それのどこが証拠になるんのよ!っと、男の笑顔を思い描き、吐き気がしそうだったわ。
そんな男と今から会うと思うと、余計気持ち悪いけど、仕方ないからアタシたちは村に入りそいつと出会ったわ。


「なんだよあれ」
「女の子の後ろに隠れてるよ~」
「まぁ確かに、あれなら危険はなさそうだけど、あれが最重要人物なの?」


とてもそうは見えず、力が抜けてしまったわ。
その後に自己紹介をお互いに済ませ、村の中の案内が始まったけど、抜けていた力を入れる羽目になったのよ。


「何だよここ、知らない作物しか植えてないぞ」
「ほんとだね~」
「ここが始まりの場所というのは納得かしら?」


ここで実験をして外に流す、しっかり考えられた工程に危険を感じて、アタシはアオと言う男を睨んだの。
その視線を受けてか、あいつは震えていて、油断は出来ずに臨戦態勢を取ったアタシだったわ。
でも、それが発散される事はなく、昼食の時間となったわね。


「収穫を一挙に出来るトラクターに、水を自動で蒔くスプリンクラーか」
「スプリンクラーは広まり始めてますが、まだまだなんですよ」
「そうなのね・・・それをあなたが作ってるのね」
「は、はい~」


口調が強かったからか、アタシがジロリと睨んだ時、向かいに座ったアオが横の子供の後ろに隠れてしまったわ。
ジューネさんの話では、人見知りと言う事だったけど、ただの怖がりなだけにも見えたわね。


「それで、今後外に出す量を増やすのよね?」
「は、はい~」
「っち、怖がるんじゃないわよ」


いちいちビクビクしててイラっとして来たのもあり、アタシは声に出してしまった。
それを聞いてなのか、アオが隠れてた子供から殺気が溢れ睨まれたわ。


「何よ、ほんとの事でしょ?」
「アオがどれだけ進歩したのかも知らないくせに、ふざけないでよっ!」
「良いんだよミドリ怒らないで、やっぱりまだ早かったみたいだ」


後はよろしくと隣にいた村長に伝え、アオは席を立ち子供たちの集まる場所に歩いて行った。
ミドリと言う子供も一緒に退出したけど、そこで周囲の視線にアタシは気づいたわね。


「睨まれてるわね」
「それはそうだよ冒険者、アオはここでは特別だ」
「なるほどね、悪く言ったから怒ってる訳ね」
「その通りだ、実際ワタシもイヤだな」


村長までなのっと、ため息が口から漏れたんだけど、村長だけでなくジューネさんまで怒っていて、ため息を飲み込んでしまったわ。
申し訳ないと謝ったけど、村長はかなり不機嫌でどうしたものかと悩んでしまったわ。
昼からは、そんな重い空気のままで村長によって案内がされたわ。


「ここが家畜の小屋だ、さっきのバイオマス施設で電力を貰い、家畜のエサは自動で供給される」
「え、ええ・・・ねぁ悪かったわよ、男を見たから気がたってしまったの、そう怒らないで」
「その気持ちは傭兵だったワタシも分からないでもない、だがな、相手は子供だ」
「そ、それはそうなんだけど・・・あの力を見た後だから、警戒して当然じゃない?」


アオと言う男は、確実にユニークスキルを所持してるから、危険な気配もしていたわ。
そのせいだと言い分を伝えると、村長がそれで納得するわけもなく、余計怒りだしてしまったわね。


「村長、元傭兵ならあれを感じるでしょ?」
「感じるからこそだ、あんたたちは子供を守ろうとは思わないのか?」


男でなければ守ろうと思う、だから村長の気持ちも分かるのよ。
でもね、男というだけでどうしても抵抗があり、男を守るなら女の子を守るわ。


「その為に、ずっと剣を握ってるのか?」
「こ、これは!?クセと言うか、身体が勝手に」
「ワタシたちはな、それが気に入らないんだよ」


アタシ達が武器に意識が向いているからピリピリしてて、そのせいで村長たちが不快に思っていたらしく、ここに呼んだサーシュたちがイヤそうな顔をしてた訳ね。
更に言うと、あの男はそんな状態の人が相手だと、姿を見せないのが普通だったらしいわよ。


「本来なら、アオは家から出ない、それだけの気配をお前たちは帯びていた」
「た、確かにそうかもしれないけど、護衛なんだから仕方ないでしょ」
「そうだな・・・だが、そんなアオの頑張りに文句を言うのは違うだろう」


そこは男の気配のせいだと、結局そこに戻ったのよ、それで村長が納得するわけもなく、あの男の生い立ちを聞かされたわ。
それは確かに同情する内容だけど、そんな子供は沢山いるから、そこは判断材料にならないと返したの。


「そうだな、沢山いるな」
「それに村長さんよ、アイツは奴隷だろう、どうして首輪をしていないんだ」


マーレの意見にアタシも乗っかり、従属の首輪をしていれば、アタシ達もこんなに警戒はしなかったと付け加えたの。
それだけの拘束魔法がアイツに掛かるからで、それを付けてないから危険だと説得したわ。


「ここまで言っても、まだお前たちは必要だと思うのか?」
「必要でしょ、アイツは男で敵なのよ」
「そうか・・・それなら、もう案内は終わりだ」


村長は、その言葉を最後に何も話すことが無くなり、ジューネさんの待つ荷運び所に直行したわ。
そして、夕食は村の端にある家で取る事になり、対応が激変したのは直ぐに分かったのよ。
そして、ジューネさんにどうしてこうなったのかと聞かれ、アタシたちは嘘偽りなく全てを話し、深いため息をつかれました。
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