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2章 のんびり

33話 選ばれし者

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「やっぱりこうなりましたか」


予想していたらしいジューネさんは、怒っていると言うよりも呆れていて、どうして分からないのかと言われたわ。
それはこっちのセリフなんだけど、戦場に行ってない人には分かりにくいから、あの男の危険性を語ったわね。


「だからね、あの力を使って襲ってきたら、こちらに勝ち目はないのよジューネさん」
「そうだぜ、戦争に勝てるって力なのは、この目で見て痛感した」
「マーレの言う通りよ、だから警戒するなと言うのが無理な話なのよジューネさん」


戦いに身を置いているアタシ達は、そんな力を持った男の近くで力なんて抜けないわ。
ジューネさんもそこは納得してて、だから心配だったと困った顔が更に増し、ここに来る前に出来るだけ説明してくれたそうなのよ。


「ですが、あの大きな人形を見て、ダメかな~っと思いましたよ、ははは」
「はははじゃないよ~あれは怖かったんだよ~」
「そうですねジャミさん・・・ですが、命を取るだけならチャンスはいくらでもありましたよ?」


大きな藁人形で最初に攻撃する案から始まり、ジューネさんは食事や案内の時にもあったと伝えて来た。
姿を見せないあの男は、村の者たちに慕われていて、怒った村人に襲われてもおかしくなかったらしい。


「そ、そんな事は無いでしょう」
「いいえカレルさん、実際危なかったんですよ、リーナ村長はやる気でした」
「えっ!?」
「分かりませんでしたか、そうでしょうね~」


村長は殺気を溜め込んでいて、それが最後に爆発したらしく、それを止めたのもあの男だったそうだ。
藁人形を使い、村長を正気に戻したらしく、肩にいなかったかと聞かれたよ。


「そう言えば、いたような?」
「いたんですよ、だからお酒を飲むだけに留まっています」
「酒なんて、好きなだけ飲めるわよ」
「ここではそうじゃないんですよ」


やれやれっと、ジューネさんに酔いつぶれるとどうなるのかを教えられたが、食事抜きとかかなり普通だった。
それ位ならと言いたかったが、その後にあの男が作る料理が食べれないのはとても辛いと、泣きそうになったんだ。


「そ、そんな顔をするほどなの?」
「皆さんは知らないんですよ、宴会で出されるあの素晴らしい料理のさらに上を行く味、あれは至福なんです」


前はそればかりが宴会に出たと、ジューネさんは残念そうに言ってきて、今日はそれが食べれなかったと怒り出した。
アタシ達が嫌われ遠くに隔離された為で、ほんとなら夜の秘密の話し合いで食べれる予定だったと、とても残念そうだ。


「そんなになの~?」
「そうなんですジャミさん、エルフのおふたりもきっと虜ですよ」
「それは」
「食べてみたい」


皆の視線がアタシに集まり、あの男に謝れと訴えて来た。
しかし、アタシも言いたいことはあり、みんなに忠告だ。


「あなたたちだって、武器に手を付けていたでしょ、あれを止めれるの?」
「「「「それは無理」」」」


アイツが男と言う事実がそうさせるし、だからアタシたちは警戒しないなんて無理なのよ。
ジューネさんもそれが分かり、だからこそアタシたちに付き合ってくれているみたい。


「どうしたら止められますか?」
「そう言われても」
「そうだぜジューネさん、あたいたちの仕事は戦いだ」


ここにそれがなくても、アタシ達が気持ちを緩める事はないわ。
そう伝えると、納得したジューネさんは、少し待つように言ってきて家の外に飛び出したよ。


「何だったのかしら?」
「あたいに聞くなよカレル、分かるわけねぇ」
「そうなんだけど、怖くない?」


何をして戻って来るのか、アタシは凄く心配になったわ。
ジュミたちは、不安そうにはしなくて、期待してる感じよ。
でもね、警戒を解く何かをして来る訳だから、一体何を思いついたのか疑問なのよ。


「武器を取り上げるとか、そんな感じかしら?」
「そんな簡単じゃねぇだろ」


皆と意見を交わしていると、ジューネさんが藁の鞄を持って帰って来て、それのどこが?っと思ってしまったわ。
でも鞄の説明を聞いて、注目する目が離せなかったわよ。


「「「「「しゅ、収納鞄!?」」」」」
「そうですよ、し~か~もぉ~アオ君の料理が入ってます」
「「「「おお~」」」」


アタシ以外が驚いて、早く食べたいと言って来たわ。
またそれかと呆れてしまい、ジューネさんが鞄から料理を幾つも出して来ても、アタシのその気持ちは変わらずで、何が違うのかと言ってやったのよ。


「見た目同じだよね~」
「ふっふっふ、それが違うんですよ皆さん」
「ん」
「匂いが少し違う?」


流石エルフとジューネさんはニコニコで、スプーンとフォークを鞄から出して味見をする様に勧めて来たわ。
アタシは遠慮したけど、ジュミたちは2つ返事で食べ始め、そのうまさに無言になって食べ始めたわ。


「そんなになのっ!?そんなにうまいの?」


アタシの質問にも答えず、ただひたすらに食べていて、アタシも仕方なく目の前の黄色い塊を食べたわ。
口の中でとろけるその物体は、この世のモノとは思えないうまさで、気づいたらみんなと同じ感じだった。


「カレルさん、どうでしたか?」
「お美味かった・・・これがあいつの料理なのねジューネさん」
「そうです、カレルさんが食べたのは、宴会でもあったオムレツですが、品質が全然違くて、アオ君の思いが籠っています」


気持ちが籠っているだけでこんなに?っと、アタシは品質だろうと指摘したわ。
でもね、食べて見て何かが違うのも分かっていて、それがジューネさんの言う気持ちなんだろうと感じたのよ。


「皆さんを思ってくれるアオ君が、皆さんを傷つける訳ありません」


これでもダメですか?っと、ジューネさんの視線が腰の剣に向いたんだ。
いつでも抜ける様に持っていたから、まずは外して置く事から始めようと、アタシは決心したのよ。


「リーダー」
「良いの?」
「この料理分だけ譲歩するのよ」


あの優しい気持ち(味)は、アタシにそこまでをさせた。
これで襲われ、命を落としても本望とまで思ってしまう程だったけど、そこは言わずに次の料理に手を付けたの。


「このオムレツ、中に穀物が入ってるけど・・・赤くて平気なのかしら?」
「それはオムライスと言う、オムレツとは違う料理で・・・実はその二つ、卵が使われてます」
「「「「「卵っ!?」」」」」


卵と宣言され、アタシたちは料理を凝視してしまったわ。
卵とは、貴族や王族しか食せない超が付くほどの高級品で、こんな量を使うなんて信じられなかったの。


「どうですか?信頼されてるでしょ」
「「「「「た、確かに」」」」」
「ふふふ、だから心配ないんですよ」


ジューネさんがスプーンを持って一口食べ、その美味しさにウットリしていたけど、宴会でも出していた事を思い出し、胸の奥から何か暖かなモノが溢れて来たの。
どうしてそこまでしてくれるのか、聞かずにはいられなかったわね。


「それはですね、ワタシを守る護衛だからです」
「そんなの、仕事なんだから当然じゃない」
「でも、裏切ったりする冒険者はいるでしょ?アオ君はそこを心配してくれたんです」


思いやりのある子供で、アタシ達が思っている様は男ではないと、最後に一喝されてしまった。
アタシたちの心は、あの素晴らしい料理を食べてから変わっていて、もう警戒する気持ちは無くなっていたのよ。
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