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3章 スキル

47話 藁の持ち主

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「ヴェール様お願いします、アタシも同席させてください」


アタシはアジュラ、閃光のアジュラと呼ばれた、この国最強の騎士の1人で、仕えているヴェール様に一生の願いを申し出たんです。
それは、助けてくれたアオと言う男に会いお礼を伝える為で、貴族のアタシが平民にお礼を伝えるだけでもはばかられるのに、相手が男と言う事で許可が降りません。


「ダメと言っているでしょうアジュラ」


とてもお怒りなヴェール様が睨んできますが、死神部隊のシリューにも頼まれた事で、何としてでも会ってお礼が言いたいんです。
でも、最強騎士が男に助けられたという事実、それは公には出来ないから却下されているんです。


「ですがヴェール様、相手が誰であれ、アタシは命を助けてもらったのですよ」
「それは誰も知らない事です、つまりなかった事なのですよ」
「そんな・・・それではアタシは」
「あなたとシリュー隊長は、勇者を撃退したのです、それ以上は何もありません」


アタシたちの功績になっているらしく、だからこそアタシもシリューも納得がいっていないのよ。
公になっていないのも分かっているけど、今回の話し合いもアオと言う男を表に出さず、ただ戦争の事後処理と言う名目なのだから、お礼を言っても問題ないはずと、アタシも反論したのよ。


「話し合いの場で良いんです、お願いします」
「まったく、頑固者ね分かったわ」
「ありがとうございます」


戦争から帰って来て、この事実を知ってから半月、ずっとお願いしたかいがあったと、ヴェール様の後に続いてテンションが上がったわ。
やっと命の恩人に会える、そう思っただけでも天国に行けそう。


「そんなに喜んで、相手は男なのよ」
「関係ありませんよヴェール様、アタシはお礼を言いたいだけですからね」
「男にお礼なんて」


ヴェール様はそう言いますが、勇者に負けた悔しさよりも、助けて貰った喜びの方が大きかったのだから、これは夢の時間なの。
話し合いをする会議室には、既に他の公爵家が陣取っていて、シリューのお願いを断り退任させたササカ様がこちらを睨んできたわ。


「おいヴェール、どうしてそいつがいる」
「ササカ、それを決めるのはわたくしよ、あなたがシリューを辞めさせたのと一緒でね」
「っち」


すごく嫌そうだけど、シリューを失った死神の部隊が解散したのは、誰でもないこの人のせいなのよ。
噂では、アオのいる地方に全員が向かったと聞いたけど、それがほんとかは分からないわ。


「もしほんとなら、アタシも行きたかったかもね」


救われた仲以外は何も接点のないシリューの頼みだったけど、アタシの心もそうしたかったから諦めたくなかった。
それが叶い、アタシはヴェール様の後ろに立っている、もう喜びで叫びたいわ。


「あらあら、随分空気が張り詰めてるわね」


部屋に入って来たのは、王族のシャンディー様で、全員が敬礼して挨拶をします。
でも、その後ろにタバサ殿とラランディア様が入って来て、その後ろにいた人を見て、身体が勝手に動いてしまったわ。


「な、ななな何ですか」


その人の前に来たアタシは、跪いてお礼を伝えたの。
誰もが驚き、ヴェール様は止めろと言って来たけど、アタシの身体はその声に答えなかった。


「あらあら、アオ答えてあげなさい」
「シャンディー様・・・あのアジュラ様、気持ちは受け取りましたから、頭をあげてください」
「君がそれを望むなら」


彼の声を聞き、アタシは顔をあげて彼の顔を見た、その顔はきっと一生忘れない。
とても凛々しく、とは言えない怖がった顔だったけど、アタシにとってはキラキラしてる様に見えたよ。


「シリュー殿も感謝していた、命を救っていただき感謝する」
「それは良かった」
「アジュラ、もう良いでしょ、こっちに戻って来なさい」
「はい、ヴェール様」


もう十分、そう思える言葉を彼に伝えられた。
ヴェール様の後ろに戻り、アタシは彼から目が離せなかったな。


「それで、こいつが例の男か」
「ササカ、こいつではないわよ」
「ですがシャンディー様」
「今日はいがみ合う為に集めたわけじゃなく、将来の事を話し合う為にいるの」


良いわねっと、シャンディー様が全員に徹底させたわ。
その内容は、藁人形を使った全国に向けての支援で、男も女も関係なく広げると宣言したわ。


「シャンディー様、それはいけません」
「どうしてよササカ」
「どうしてって、そこまでする必要がないじゃないですか」


ササカ様の意見に、シャンディー様は生活基盤の底上げを提言したわ。
それは全世界で行う事で、我が国がそれを手伝う事を宣言したの。


「世界の食糧事情は、少しの不作で傾く弱いモノよ」
「それは仕方ないですよ」
「今まではそうだったわ、だけどアオの作った作物ならそうじゃない、ワタシはそれを広めて安定を与えたいのよ」


シャンディー様は、噂通りの優しい方なのが伝わって来る。
その性格から、ヴェール様たちは嫌がっていたけど、アタシはそうじゃなかったわ。


「まぁアオに助けられる前は同じだったけどね」


それだけ強さが全てだったし、だから誰も賛成はしないけど、その強さをアオは持っている事に誰も気付かない。
勇者が何も考えずに逃げる程の力なのに、どうして認めないのか、それはアオが男だからだ。


「姫、そんな事をして何になるのですかな」
「それはねインジューラ、この国がトップになる為よ」
「はい?」


全世界のトップとは、世界制覇と言う事で、それは我が国が長年追い求めている事だった。
アタシはそれが真剣な言葉に聞こえたが、インジューラ様たちはそうじゃない。


「正気ですか姫様」
「まぁ普通に考えたら、大国ゼフォルトに尻尾を振っている小国ですものね」
「ひ、姫様!」


ゼフォルト国の援軍がアタシたちだけだったのは、勇者が落とした国が友好国だった事もあったが、他の大国が落ちるのを待っていたからでもあった。
奪われた後、攻め込んで奪い返し自分たちの国にしようとした、それがシャンディー様の口から伝えられ、だからこそゼフォルトを守ったのよ。


「だからね、これからゼフォルト国と一緒にそいつらを見返してやりましょ」
「可能なのですか?」
「不可能なわけないじゃない、どれだけの力を持ってると思ってるの?」


認めさせるのではなく、シャンディー様は見せてやるから付いて来いと言ってきていたわ。
国王様でもなく、継承権も持たないシャンディー様だけど、アタシは付いて行きたくて仕方なかったわね。


「では、その力をお見せ下さい姫様」
「良いわよインジューラ」


インジューラ様は付いて行く様で、アタシは前に座るヴェール様に視線を向けました。
でも、ヴェール様は反対していて、ササカ様もそうでした。


「ついてこないの?」
「当たり前です、そんな夢物語、ごめんです」
「そうなの?・・・でも、インジューラが付いて、シリュー率いる軍もいるのよ?」
「「え!?」」


それは初耳と思ったけど、どうやらシリューは探していた人を見つけていたみたい。
これは決まったと、アタシはアオの傍にいられるから嬉しく思ったわ。
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