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1章 生き甲斐

2話 最初のクエスト

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「報酬の半分って、それはねぇよおっさん」


ジャケルが代表して言って来るが、全てを教えるのだから有料なのは当然で、それ位妥当と教えたよ。
初歩だけなら冒険者ギルドでも教えてくれるが、応用に入ると自分たちで工夫するのが普通で、学校の教師等と同じだろうと注意したんだ。


「でも、さすがに半額は」
「そうよ、その後5人で別けたら全然残らないじゃん」
「ドールソにサイカル、お前たちの不満も分かるが、何も知らない5人と俺が教えながらの稼ぎでは、天と地ほどに差があるぞ」


ちょっとだけ教える為に、テーブルに身を乗り出して指をクイクイとさせて耳を向けてもらった。
5人が聞いたのは、俺が他の冒険者の後を歩いている時の話で、いつも不思議だった事だ。


「採取ポイントの光が消えない?」
「そうなんだジャケル、更に言うとな、どれくらい採取できるか試したんだが」
「ど、どうなったのよ」


俺が途中で止めた為、サイカルが更に身を乗り出して聞いて来て、みんなの緊張が高まったが、50回を超えてもまだ光は消えなかったと教えた。
冒険者の愛用している初期の収納装備【収納ポシェット】を使っている時の話で、それだけでもみんなの気持ちを変えるには十分だったが、更に俺しか知らない事を教えると驚きの声を上げてしまったので、静かにするように注意したよ。


「す、すみません」
「秘密の話は小声でするモノだ、今後は止めてくれよなみんな」
「わ、分かったけどよ、ほんとなのか?」
「まぁ誰も最初は疑った、そんな事をしてるのは見た事無いからな」


それならどうして?っとアケミが首を傾げ、乗り出していた身体を戻して椅子に座り直したが、みんなもそこで落ち着いて椅子に座ったが、そこは採取ポイントを見れば分かると教えた。
皆が驚いているのは、採取ポイントの光に手を入れると言う通常の方法でないからで、普通は薬草などの採取品が1つ手に入るからだ。


「俺の方法は、手を入れずに指一本でツンツンと突く事で、地面にポトリと落ちてくれて品質も最上級になる事がある」
「それが本当なら」
「そうだよリーシア、普通薬草は銅貨2枚だが、最上級はその上の硬貨にまで繰り上がる」
「ん、最高品質は通常の10倍」


貨幣には【銅貨・中銅貨・銀貨・中銀貨・金貨】っと言った種類があり、それぞれ10枚で次の硬貨1枚と同じ価値になる。
金貨だけは特別で、中銀貨100枚でなければ同じ価値にはならないが、今話しているのは銅貨2枚が銅貨20枚になると言う事で、それが50個も手に入った事を意味していた。


「しかもだ、俺はそれで取れなくなったとは言っていない」
「ももも、もしほんとなら、凄い額ですよね」
「そうだぞドールソ、そしてそんな俺に指導を受けられるわけだが・・・高いと思うか?」
「ななな、なるほど」


酒場の店員に銀貨をホイっと渡したのもそういった事で、俺は金には困っていない。
そして、そんな冒険者を辞めた理由も稼ぐ理由が無くなったからだ。


「そんなに稼いだのおじさん」
「そのおじさんってのは止めてくれ、これでもまだ25なんだぞ」
「いやいや、25なら十分おじさんでしょ」
「じゃあ、先生とか師匠って呼べよサイカル」


これから指導されるんだからと、おじさん呼びを止めた貰い、どこまで降りたのかを聞かれた。
別に隠す必要はないので、ダンジョンの最下層まで行きボスも倒して来たと軽い感じで伝えたよ。


「だ、ダンジョンの最下層って」
「た、確か、今は80階だったはずですけど」
「80階はヒュドラだな、俺が見たダンジョンコアは300階だったが、そこにあった超大型の魔石も全部取ってるぞ」
「「「「「うそ」」」」」


気持ちは分かるが嘘ではなく、本来なら栄誉な事なので報告するんだが、俺の心はそこで崩れてしまい、そんな騒ぎに付き合いたくなかった。
ボスはまた出現するし、本人が言わなければ誰も気付かない。


「だから俺は言わなかったんだよ」
「ででで、でも300階ですよ」
「言ってもな、金が貰えて国に仕えるだけだぞドールソ」


そんな分かりきった結果を受け入れられなくて、俺は故郷に帰るつもりだった。
ジャケルたちにそこまでは求めないが、一人前と判断したら卒業してもらい、その時は俺が帰る事になると伝えたよ。


「まぁお前たち次第だが、数年は掛かるだろうな」
「で、でもおっさん・・・先生は、レベルが1って」
「その事か、詳細は言えないんだが、俺のユニークスキルのおかげさジャケル」


そう言う訳だっと、みんなには納得してもらったが、そもそもユニークスキルは持っていること自体隠す物で、そこも注意したよ。
そして、こういった情報を聞くのもそれなりに親しくなってからで、いきなり聞くのは失礼にあたる。


「まぁ俺はみんなの指導者になったから教えたんだが、次からは気を付けろよ」
「「「「「はい先生」」」」」
「良い返事だ、じゃあ今夜は祝いだ、俺のおごりで何でも食え」
「「「「「やったー」」」」」


そこからは、店員に沢山の料理を注文し、酒を店の客に奢った。
知らない奴らでも、奢りと分かるとみんなが祝ってくれて、楽しい宴になる。


「い、良いのか先生」
「良いんだよジャケル、これも必要な事だ」
「そ、そうなのか?」
「ああ、新人の時は無理だが、新たな場所に行ったときはこうすると、ある程度名前が広がる」


変な奴が警戒し、注意してくれる連中も出て来る。
さっきまでヒソヒソ話していた連中も、俺が助けた事を喜んでくれた。


「それで先生、明日はどんなクエストを受けるんですか?」
「リーシア、明日は10階のボスを倒すから、ラミアとナーガ討伐だな」
「そ、そんな!いきなりすぎます」


そう言われても当然ではあるが、俺のユニークスキルがそう告げていて、陣形と戦技や魔法を有効に使えば勝てるんだ。
それだけ5人の未来は無限に広がっていて、最適な道に導くことが俺のユニークスキル【テキパキ】なら出来る。


「その初めが、10階のボスなんですか?」
「そう言う事だが、無理そうなら引き返せば良いし、それもまた訓練だ」
「そう言う事ですか、分かりましたベルトロン先生」


納得してくれたリーシアとグラスをぶつけて乾杯したが、全員が飲み過ぎで寝てしまい、宿に運ぶことになったんだ。
5人を抱えるのは無理だったので、店員にチップを払い手伝ってもらったが、宿の場所を聞いてなかったので俺の借りていた宿に連れて行くと、店員は驚いて俺を見て来たよ。


「まぁ言わないでくれよな」
「チップも弾んでいただきましたし、言いませんわ」
「そうっすよ、またご贔屓にしてくださいっす」
「ありがとう、また寄らせてもらうよ」


俺の部屋まで運んでもらい運賃も弾んだんだが、全員分のベッドが無いのでソファーも使う事になったよ。
明日ダンジョンには行く予定だったが、この分だと無理そうと思いながら、俺は明日の為の準備をして椅子に座って寝る事にした。


「うぅ~頭がいだいぃ~」
「し、しぬぅ~」
「この世の終わり~」


朝になり、全員が木製のオケを抱えて悲惨な状況で、水を飲ませたりしているが誰もその場から動けない。
これも大人になった証と言う事で、良い経験とタオルを5人の頭に乗せて行ったよ。


「す、すみませんベルトロン先生ぃ~」
「気にするなリーシア、ジャケルも無理して起きなくて良いぞ」
「は、はいぃ~」


うぷっ!と桶に顔を入れるジャケルの背中をさすり、今日はゆっくり休む様に伝えたんだ。
出来るだけ水分を取る様にも伝え、フルーツでも良いので1人ずつ食べさせていったよ。


「ベルトロン先生は、どうして平気なんですか~」
「まぁ慣れだろうな、ジャケルもその内分かる様になる」
「そうなんでしょうか」
「ああ、そこも教えてやるから、今は休め」


ジャケルを寝かせて、1人ずつ落ち着き始めたのは昼食の時で、やっと起き上がれる様になった。
そして、昼過ぎからは明日の為の時間で、リーシアに伝えたクエストを宣言だ。


「そ、そんな!ボクたちには無理ですよ先生」
「そうだよぉ~アタシたち死んじゃう~」
「ドールソにサイカル、やってもいないのにそんな事を言うな、無理だったら撤退すれば良いんだよ」


逃げるのは簡単で、40階からは扉が開かなくなるが、それよりも前なら逃げる事が出来る。
そこも知らなかったようで、納得はしてくれて陣形などの解説を始めたんだ。
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