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1章 生き甲斐

7話 生産依頼

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「じゃあ行ってくるからな」


は~いっと、とても弱弱しい声がベッドから聞こえ、俺は昼に宿を出る事になった。
それは、昨日話していた依頼をする為で、途中で食料なども買い込んで行った。


「ここか・・・相変わらずに荒れてるな」


俺が訪れたのは、この街の西にあった教会跡地で、人は滅多に寄り付かない。
そんな場所に集まるのは、身寄りの無い子供たちで、黒いローブを纏ってフードをして入って行った。


「たまに食事と金を持って来ていたが、生きてるかな?」


奥に進むと明かりが見えて来て、まだ無事なのが確認は出来たのでホッとした。
しかし、俺の姿を見て集まって来てしまい、ちょっと困ったな。


「フードの兄ちゃん、来てくれたんだな」
「ああ、フィオも元気そうだな」
「兄ちゃんのおかげだよ、いつもありがとうな」


ここに来て数ヶ月、付け焼き刃と分かっていても、俺は彼らを見ていられなかった。
食料や金を渡しただけでなく、加工石の明かりや藁で出来た布団など、日用品もしっかりと譲っていたんだ。


「奥に座ってくれよ、今茶を出すからさ」
「ありがとうなフィオ、みんな元気そうだな」
「ああ、おかげで仕事も貰えるし、ここの暮らしも良くなったんだ」


ある程度ではあるが、フィオたちの身体を洗ってやり、それ以降は皆で続けているからか、紹介した仕事にもちゃんと就いているらしい。
俺は断られたのに羨ましいと思ったが、それよりもここからの移動を勧めたんだ。


「まだそれだけの稼ぎは貰えてねぇからな、もう少し先だ」
「そんなフィオたちに仕事の依頼をしたいんだが、聞いてくれるか?」
「兄ちゃんの頼みだからな、勿論良いぜ」


フィオの返事を貰い、お茶を貰ってから加工石を取り出し床に置いた。
フィオは、火や水や明かりにも使っているので、不思議そうに見て来たよ。


「いつものだよな兄ちゃん」
「ちょっと違うんだよフィオ、これは無属性状態の加工石で、ここから属性を付けるとフィオたちが使っている状態になる、その状態にしてほしいんだ」
「へぇ~・・・どうやるんだ?」


そこは簡単で、寝る時に1つを持って寝るだけと伝えた。
フィオも、それなら良いと了承はしたが、報酬に中銅貨1枚には反対されたよ。


「安かったか?」
「逆だ逆!高すぎだってんだ」
「しかしな、作り方を黙って貰っているのもあるし、金は欲しいだろ?」


もう少しで借家が手に入ると言う状態で、今は少しでも欲しい所と、フィオが唸って悩み始めた。
本当なら、俺が借りても良いのに、そこまでは頼れないとフィオに断られたからこうなっていて、今ここにいない子たちは仕事に出ている。


「小さな子が5人もいるだろ、丁度良くないか?」
「オイラが世話をしてるから平気なんだって、だから貰い過ぎだ」
「じゃあさ、俺が家を借りたらそこで働くってのはどうだ?」
「また突然だな」


フィオが嫌がるので、ジャケルたちの訓練の事を教え、家事全般をしてほしいとお願いした。
勿論、今雇われている仕事に支障の無い程度と条件は付けた。


「今は宿生活だが、ずっとそうしているわけにもいかないんだ」
「それだけ長く暮らすんだな?」
「ああ、だからどうだろうか?」
「まぁ借りなくても良いなら」


了承は貰ったが、フィオたちは全員で15人もいて、それだけの部屋のある家となると、屋敷になるとフィオがツッコんで来て、俺はそのまま当然と答えたよ。
それだけの稼ぎは十分にあるし、フィオたちが掃除をしてくれれば問題は無い。


「本気かよ兄ちゃん」
「ああ、俺も手伝うが、恐らくダンジョンに長期入る事が増えるからな、信用できる者に任せたいんだ」
「信用って、オイラ達はまだそんなに長い付き合いじゃないだろう」
「加工石を黙っている時点で信用できるさ」


そう言う事でフィオたちを雇う事になり、今日渡した加工石を貰う日、屋敷の場所を知らせる事になった。
報酬も屋敷で払う事を約束して俺は外に出たが、フィオたちが手を振ってお見送りをしてくれたよ。


「まったく、見送りは良いといつも言ってるのに」


フィオたちに良くしていると思うかもしれないが、根本的な助けにはなっていなかった。
これもジャケルたちのおかげで、俺はそこまでする気は無かった。


「謝らないといけないかな」


出来る事を全てやってからフィオたちに謝ろうと決めて、丁度良さそうな屋敷を借りた俺は、宿に戻ってジャケルたちに聞こうとしたが、いまだに唸っていたよ。
辛そうだが話は聞けるので、俺はそのまま話して屋敷での生活が待っている事が分かって驚いているが、生活の補佐に子供を雇ったと聞いて、みんなは納得してくれた。


「やっぱりベルトロン先生は良い人だな」
「ほんとにそうね」
「そうじゃない、君たちが俺を止めたからこの結果が生まれた」


だから、俺はジャケルたちに感謝の言葉を贈ったよ。
そして、みんなを強くすると改めて宣言した。


「そんな事言わなくても、オレたちはそのつもりですよ」
「そうだなジャケル・・・だけど言いたかったんだ」


やる気をなくした俺だったが、ジャケルたちがそれを作ってくれて、俺は蘇った気分で嬉しかった。
これから彼らがどうなるのかは分からないが、十分に育てて旅立っていくことを願ったよ。


「さて、感傷に浸るのはここまでにして、みんなはこれから屋敷の資金を払わないといけない」
「流石、先生」
「ほんと、スパルタだわ」
「アケミにサイカル、褒めても何も出ないぞ」


褒めてないっと全員から言われたが、俺はみんなが動けなくなる前に言っていた事の復唱だ。
この街のダンジョンを制覇してもらう、それが最大の目標で明日は10階のボスの討伐だ。


「ランク上げの為とは言え、つまらないよな」
「ジャケル、簡単そうに言うが、一人で倒して貰うんだからな」
「「「「「えっ!」」」」」
「当然だろう、みんなのレベルは20にまで上がっているのだから、それ位は出来なくてはいけない」


勿論、その為には途中のモンスターとの戦いを一人で行う必要があり、俺がサポートをして危険が無い様にする。
全員が倒せるようになる頃には、きっとランクも上がって次にいけると俺は感じていたんだ。


「あ、あの・・・ワタシもですよね?」
「リーシアは回復魔法士だから心配なのは分かるが、出来ないわけじゃない」
「ど、どうやって倒すんですか?」
「それはね、みんなの戦いを見ていれば分かるよ」


最後がリーシアになる事は分かっていて、それが一番の難所とみんなも理解していた。
しかし、そんなに難しい事ではなく、みんなの戦い方を見る事で分かる様になる。


「まぁ明日は、ステータスアップが成された後だから、訓練に使うつもりだ」
「そんなに変わったんでしょうか?」
「ジャケル、明日になれば分かる、それまではゆっくり休め」
「はい、ベルトロン先生」


夕食は皆が少し動ける様になり沢山食べて休んだが、そこで重大な事に気づいたドールソがそろそろっと手をあげたんだ。
それを聞いて、全員がとても嫌そうな顔をしてきて俺を見て来たよ。


「仕方ないだろう、レベルアップはこの後もするんだ、5レベルなんて直ぐに上がる」
「じゃ、じゃあオレたち」
「そうだよジャケル、また動けなくなるのは確実だ」
「そ、そんな」


ジャケルたち男子は、それで良いかと軽い感じだが、リーシア達女性陣はトイレを気にして俺をジッと見て来たよ。
トイレの中にまで入ってないのに、やはり女性だから気にするのかと、次からは子供たちがいると知らせたんだ。


「その為に雇った訳ですね」
「そう言う事だ」
「なぁ~んだ、先生がエッチなだけじゃなかったんだね」
「音は聞かれたくない」


俺が変態みたいに言って来るが、正直そんな気持ちは全然なく、ジャケルたち男子はちょっと赤くなっていた。
そんな時期が俺にもあったかと思えたが、無かったかもしれないと、ちょっと枯れた自分に笑ってしまったよ。
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