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1章 生き甲斐

19話 見つからない

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「どうなっていますの」


俺の雇い主だった男爵が怒っているが、それもそのはず、包囲した区域で獣人たちは見つからなかったからだ。
俺はその話と怒鳴り声を天井裏から聞いていて、まだ捕まっていた子供たちが逃げた事は知られてなかったよ。


「いったいどこに行ったというのです」
「そ、それが分かりません・・・痕跡は建物の中だけで、その後は一切見つかってないんです」
「これはプロの仕事ですわ、その線で調べなさい」
「もう調べました、彼女らは知らないそうです」


どうやら、先に置いた布石が役に立ったようで、情報は流れないのが確認できた。
これなら、予定していた10日は持ちそうと思いつつ、話の先を聞くことにしたんだ。


「まったく使えませんわね、あの男の様ですわ」
「彼はちゃんとやっています、じきにあのネコは見つかります」
「おだまりっ!そういう事は、ちゃんとできている者が言う事ですわ」


男爵はかなり怒っているが、そもそも話している執事はこちら側で、情報をくれたのは彼だった。
これで最後のチャンスも不意にしたわけだが、後5日で男爵はおしまいだ。


「それでは、ワタシは調査に戻ります」
「早くお行きなさい、使えない男ね」
「失礼します」


執事が出ていくと、男爵は怒ってワインを扉に投げつけ、その場でイライラしていた。
そして、次の作戦を口にしてきて、襲撃する種族が分かったんだ。


「ネコの次はワンコかよ」


隣の領地と仲の良いホワイトウルフ族を狙っている様で、これは更に罪が増えそうだから急ぎでする仕事が増えた。
男爵が寝付いた後に証拠を盗んで屋敷を出た俺だが、屋敷に戻ってみたら寝てない子がいたんだ。


「おいおいエメラ、こんな夜更けまで起きてると、サニャニャたちに怒られるぞ」
「あなたにお礼が言いたかったんよベルトロンさん」
「それならこんな夜中でなくても良いだろう」
「いいえ、みんながいるところじゃダメや、だってウチの感謝の気持ちを伝えたかったんやもん」


エメラは、俺の首に腕を回して来て、そのまま口付けをしてきた。
かなり濃密なキスだったから、これをサニャニャたちに見られたら殺されると思ったよ。


「んん~どうかしら?」
「凄い光栄なんだけどエメラ、こういったお礼は必要ないよ」
「そう言うと思ったから今の時間にしたんよ、せやからお礼じゃなくてお願いや、ウチと番になってほしいんや」
「つ、番って、結婚するって事か?」


俺の問いかけにエメラは頷いてきて、更に口付けをしてきたんだ。
助けただけなら断るんだが、目の前で性格が好きとか口説かれてしまった。


「本気なのか?」
「当たり前やろう、ウチはその場限りの気持ちでこんな事しないんや」
「エメラの気持ちは分かったが、サニャニャたちは反対するんじゃないか?」
「せやから、今はまだいわへんよ」


しっかりと準備をしてからとか言って来て、今言ったら確実に俺は殺されるのが分かった。
そして、その為にもここで訓練をさせてほしいとお願いされた。


「俺が指導して信用を得る訳か?」
「そう言う事やな、頼むわベルトロンさん」
「それは良いが、集落の方はどうするんだよ」
「それもお願いなんやけど、ここで暮らすのはダメ?」


首から手を離し、わざわざ上目遣いでお願いしてきて、俺に断れない様にしてきた。
スキルでも問題ないようだし、安全を考えればそれでも良いのだが、素直に従うのは嫌だったんだ。


「サニャニャが言っていた、逃げてる集落の人達はどうするんだ?」
「合流はしたいんやけど、出来なくてもみんなはウチの幸せを願ってるんや」
「ああ~・・・そうすると、合流してもここで暮らす感じかな」


そう言う事やっとエメラが言ってきて、俺の選択は1つしかない事が分かった。
仕方ないからあきらめたんだが、訓練もすることになったからビシバシ行く事にしたよ。


「サニャニャたちは優秀やから、平気やよ」
「ジャケルたちとは違うからな、きっと良いライバルになる」
「あの子たち、そんなに強いんか?」
「ああ、この街で俺の次に強いだろうな」


レベルが90を超えてる者なんていないし、2つ星ではあるが優秀だ。
冒険者たちの中核となるのもすぐだが、その為にサニャニャたちを相手にするのも良いと思ったよ。


「そういえば、学園から教師の依頼もあったな」
「もしかしてベルトロン、それもあの子たちにさせるんか?」
「それも経験だ、きっと良い刺激になるよ」
「出来るとは思わへんけど」


エメラが心配してきたが、今日の訓練姿を見ればその考えは変わるだろう。
何せ、回復魔法士でも前衛で戦える実力を持っているんだ。


「戦ってみれば分かる」
「ベルトロンがそこまで言うのなら、ウチは信じるわ」
「それは良かった・・・この後朝食を作るが、エメラも一緒にどうかな?」
「ウチは遠慮するわ、眠いんよ」


一緒に寝ようとか言われないだけ良かったが、俺も一睡もしてないから眠かった。
しかし、みんなに提案しないといけないし、証拠も引き渡す準備もしなくてはならない。


「やる事が沢山やな」
「まぁそうだが、早く終わらせないと11階の探索が出来ないからな」
「ダンジョンに行くんやね」
「ああ、今はトカゲの克服中なんだ」


やっと触れるようになり、戦うだけなら出来そうな状態になっていて、これが済んだから行く予定でいた。
ジャケルたちも楽しみにしていて、それが済めば3つ星に昇格が約束される。


「大変なんやね」
「ああ、だけど大変な方が楽しいんだよ」
「良く分からへんけど、ベルトロンが楽しいなら良いんとちゃう?」


ジャケルたちの頑張り次第だが、それを見るのがとても楽しく、今日の訓練もきっと楽しいと思っていた。
眠いからどこかで仮眠を取るだろうが、みんなの戦いを見てからなのは確実だった。


「じゃあ、ウチは寝るわ」
「朝食は取らないのか?」
「起きたら貰うわ、ウチは告白したからもうお腹一杯や」


確かに告白以外にも色々としてくれたので、思いを伝えたのは大きかったが、それでいいのかと言いたかった。
サニャニャたちの説得が待っているのだから、俺に告白するよりも先にそっちと思って見送ったよ。


「まったく、身内が反対するのが確実なのに、先に俺に告白ってないだろう」


キスだけだからまだいいが、その内夜這いとかもありそうで心配だ。
朝食を作りながら、ちょっと心配になったが、ジャケルたちに提案した訓練はお互いの了承を得て行う事になり、思っていたよりもやる気を出して来たよ。
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