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3章 1年1学期後半

66話 野望

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「よし!みんな行くぞ」


みんなにかけ声と共に槍を掲げると、みんながそれに合わせ武器を掲げてくれたよ。
俺の名はザード、本来家名のある高貴な者なのだが俺にはない、家が没落したからと言うわけではなく、国自体が無くなったと言った方が良いだろう。


「いよいよねザード」
「ああロロフィ。いよいよ始まるぞ」


この国に負け、俺たちの国が従属国になってしまったからだが、そんな事を気にしてはいなかった。
俺は、この国の言いなりになっているのが気に入らなかった、それを無くしてやるんだ。


「先頭はどうするのザード、アタシでも良いけど、いつものようにあなたが行く?」


双槍使いの女性エルフ、ロロフィに言われ俺は先頭を歩いた。
俺のPTは4人ともエルフで、みんな俺と同じ目標を持っている。


「暴れたかったけど、あなたがそう言うなら良いわ」
「指揮は俺がするんだ、戦うのはロロフィが軸だぞ」


俺たちは故郷に戻りたいんだ!この国に攻め落とされ、今は植民地になっているが別にそこはどうでも良い、俺たちは帰って家族に会いたい。
この国は人口がほしくて領地を広めた、普通に統治しているから苦しい訳じゃないが、10歳になると兵士としてここに連れてこられ、許しが無ければ故郷には帰れない。
ここを卒業すれば、どこかの貴族の騎士になる事が決まっていてそこでやっと許しが出て帰れるが、大抵は帰れない。


「分岐だ、みんな注意していくぞ」
「さて、どんなモンスターかしらね」
「どんなのでも良いぞ、オイラたちは同じぞ」
「ん」


俺たちはこの国の為に働きたくなかった、ダンジョンに入るのも生活の為だけで、それほど積極的ではなかったんだ。
しかし今は違う、同じような境遇の者が、ただの1人で頑張っているのを見たからだ。
彼の名前はアレシャスと言って、平民からダンジョンヒューマンになり、二度と家族に会えない孤高の者だ。


「手前にはいないが、奥だろうな」
「ちょっと見て来るわ」
「頼んだぞロロフィ」


俺たちよりもひどい事に、彼の故郷に帰る許可は絶対に降りない。それなのに、彼はダンジョンを学年1のモノにして頑張っている、だから俺たちも考えを変えたんだ。
ロロフィが見に行った分岐の左右にはモンスターがいたが、50センチほどの二足歩行のトカゲで、剣と盾を持ってウロウロしているだけだった。


「彼のダンジョンならば見た目以上に注意が必要だが、ここは他の者のダンジョンだから違うだろう」
「トカゲマンって事ね」
「ああ、いつも通りのスタイルで行くぞ」


別に俺が調べた訳ではないぞ、アレシャス殿がくれた資料に載っていたモンスターだ。
なんでもコボルトよりは強いらしいのだが、今の俺たちなら敵ではない。弓士のフィーンと魔法士のリューンに目で訴え、遠距離から攻撃してもらった。


「遠くからの攻撃、これで相手がどう出るのかで俺とロロフィの次の動作が決まる」


そう思っていたんだが、相手のモンスターはそれを受けて消滅してしまった。
アレシャス殿のダンジョンならば、その攻撃はダメージにならず地面に落ちるだけだが、ここでは倒す程の威力と言う訳だ。


「当たった」
「さすが我の魔法ぞ、楽勝ぞ」


無口なフィーンと、故郷の方言を使うリューンがモンスターを倒して喜んでいる。
だがこれくらい出来なければ、アレシャス殿のダンジョンではやっていけないぞ。


「2階層のあのダンジョンでは、こいつらよりも強い奴がウジャウジャ出てくる。当たったとか倒したと喜ぶ暇などはないからな」


だからなのか、二人はここぞとばかりに喜んでいる。
今の内だけだから、しばらくはそのままにしているが戻ったらそれも出来ない。


「ほらほら二人とも、それくらいにして先行くわよ、これからが長く・・・って、そんなことないんだったわね、どうもいつもの癖が」


ロロフィが後頭部をさすり、恥ずかしそうにしているが俺も同意見で、どうも余裕がありすぎて調子が出ない。
まだスキルも使ってないし、本気を出していないから余裕がありすぎる。先ほどから見ていたダンジョンより、ここは更に程度が低いみたいだ。


「だが油断はダメだ、みんな指名されたことを忘れるな、ここでやられては元も子もない」


ダンジョン公表会で、代表に出るなんて他種族ではあり得ない事だった。
1年生のダンジョンではあるのだが、それでもあり得ない、それなのに俺たちは今ここに立っている。


「これに出た生徒は、この後に長期の休みで遠出の許可が下りやすくなる。俺たちはそれがどうしてもほしい」
「そうよね、今はお金にも余裕があるし、許可を勝ち取るためにもがんばらないと、行くわよフィーン、リューン」


ロロフィが俺を抜いて先頭を歩き出した、それだけみんな故郷に帰りたいんだ。
前の俺たちでは帰ることが許可されても旅費がなかったが、今は十分に資金があるし良い報告だって出来る、これもアレシャス殿のおかげだな。


「また倒したぞ」
「ん、簡単」
「う~ん、なんだか拍子抜けね、ほんとにこれって優秀なダンジョンなの?」


しばらく進んでいると、先頭のロロフィがつまらなそうに言ってきた、フィーンとリューンも同じ感じだ。


「確かに、トカゲマンばかりだし、部屋に入っても小だからグリーンコブラが多数いるだったな。あれなら、広範囲攻撃が得意なフィーンとリューンがいるから余裕だな」


コブラ系は毒を持ち強さ的に言えばゴブリンくらいで、それが10匹は生息している部屋だったんだが、普通苦戦する場所でも、フィーンのメイン武器である弓矢を雨のように降らせる武技や、リューンのファイアーサークルと言った範囲魔法の敵ではない。


「ん、弓最高」
「調子に乗りすぎよフィーン」


フィーンが握り拳を胸の前で作りガッツポーズを取っていると、ロロフィがフィーンの頭をグリグリしていた。
リューンが抑えているが女性同士仲が良いのを、俺はやれやれって顔して笑顔で見守っているよ。
そして、しばらく同じ感じでダンジョンを進んでいると、どうやら大物の登場だ。


「中部屋ね、ザード中に何がいるかしら?」


ロロフィが俺に聞いてきたが、俺は部屋をのぞきながら生唾を飲んだぞ。
中のソイツはそれほどまでに強敵で、前の俺たちだったら手も足も出ずに負けるだろう。


「エキドナがいる、奴はコブラよりも強い毒を使うから、ゴブリンキングよりも厄介だぞ」


俺の答えを聞き、みんなもかなり緊張し始めたぞ。
エキドナは2種類の毒を使う、持続的にダメージを与える物と身体の自由を奪う物だ。


「持っている槍に付与されているのが自由を奪う毒で、エキドナの唾が持続ダメージだ、皆注意していくぞ」
「良いじゃない、やっと面白くなってきたわ」


ロロフィが双槍を鞘から抜き、早くも戦闘体勢を取る、そしてフィーンもリューンも杖を構えてやる気だ。
だが3人とも忘れているぞ、ここはアレシャス殿のダンジョンではない。
だから、やっと面白くなったのでは無くこいつで最後なんだ、つまりはボスって感じだな。


「こっちよヘビ女!武技【双槍蓮華】」


ロロフィが部屋に入るなり、エキドナに連撃系の武技をお見舞いした。
エキドナが悲鳴を上げ反撃も出来ずに倒れ、そこにフィーンの弓武技である【サイクロンアロー】が入り、エキドナの身体を3本の矢が貫いていった。


「ギャギャーー!!」


エキドナは悲鳴を上げ、激しい痛みのせいで地面に暴れ出すがまだ消滅はしなかった。
それを確認して、リューンが風の魔法を放ち、風のハンマー【エアープレッシャー】でエキドナを押し潰しとどめを刺したんだ。
俺の出番は無く、圧勝と言って良い成果だが、ロロフィが怒り出したぞ。


「なによ、全然弱いじゃない、ザードどういう事よ!」


話しが違うと俺に迫ってきているが、俺に言われても困ると思ったぞ。
返しが怖いからそこは言わないが、ドロップ品を回収しながら俺は当然だと応えて置く。



「何よ当然って、どう言う事よっ!!」
「言っただろロロフィ、注意するのは毒だったんだ、相手がそれをする前に倒したから何事もなかった。俺たちが先制できたおかげだ」
「ま、まぁそうね・・・じゃあ次も同じ感じで行きましょ」


そう言って先頭を歩いて行くが、この先にあるのは恐らく出口で、戦いは終わったんだ。
そしてそれは直ぐに現実になり、ロロフィが怒り出す。
俺たちはまだ本気を出していない。武技は使ったが、俺たちの得意な魔法との合わせ技を使わずに終わってしまった。司会者が俺たちを賞賛してくれたが、正直俺たちとしては不完全燃焼だよ。
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