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3章 1年2学期

88話 ケリーの失敗

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「やはりジャケンも気づいていますのね」


わたしくケリー・メイルトバレンは、今笑顔が絶えません。
ジャケンの作ったダンジョンは、エマルの作ったものとほとんど同じだったからですの。


「中ボス部屋の活用法。長年ダンジョンヒューマンが研究して、誰も出来なかった事をやってのけたのです。それも本人は出てこないで裏に回った、もうわたくしの相手にふさわしいですわよ」


それだけの余裕があると言う事で、中ボスがその程度と思える男性なんて彼しかいません。
結婚は決めているのですが、学園にいる間は決めるのは無理だと思っています。


「学園側がどうしても彼を認めてません。前のテストの時も今回も、彼は90点台を出していたのですわ」


本人がそれを主張すれば少しは変わるかもしれませんが、裏に回ってしまった。


「あれは恐らく、学園を見限ったのですわ」


誰も文句を言わない成績を収めても彼を認めてもらえなかった。わたくしでもショックを受け諦めますわと、同意の気持ちが押し寄せましたわ。


「だからアレシャスは、自ら派閥を作り引っ込んでしまったのです。何とかしなくてはいけませんが、結婚の為にも仲良くなるのが先ですわ」


彼を気にかけ始め、あの時意見を聞いたのも探りを入れる為でしたが、もっと仲良くなっておきたいですわ。
彼の性格なども把握し、嫌われないようにしなくてはなりません。1年の今ですらこの成績ですから、卒業するときには、きっともっととんでもないことになっていますわよ。

「もしかしたら、ボス部屋もドラゴンの秘密も解明するかもしれませんわね」
「ああっと!分岐にアルラウネが出現していて通れないぞー!!狭くてやりにくそうだぁー!」
「っとと、今はそれどころではなかったですわ、ダンジョンを見なくては」


考えが声に出ていたことに気づいて、わたくしは大画面に集中しましたわ。
騎士たちは通路の戦いで苦戦していて、わたくしはそれを見て「しまった!?」と思いましたわ。


「植物系のキングクラスは、大きなモンスターばかりでしたわ。人数を入れた事で通路が狭すぎましたわ、ジャケンもそれを考えて広く変えていましたが、失念していますわ」


エマルのダンジョンの調査と検証に時間をかけすぎましたの。こんな初歩的な失敗をするなんて、わたくしとしたことが迂闊でしたわ。
その後も騎士たちは、何とか戦闘をして進んでいますが、なかなか苦労していますわ。


「これでは中ボスのアルラウネクイーンは倒せないかもですわね。ジャケンよりは部下の騎士が強いからまだ助かってますが、それがなかったら終わっていますわね」


ジャケンの家臣はケーニットだけ、他の騎士たちは適当な方からの借りものですから弱かったのです。
わたくしは、イサベラたちのPTを使わせて貰って実力は満足いく強さを持っています。
優秀な部下がケーニットしかいない、ジャケンより有利と思っていたのもいけませんでした。


「慢心と言うのでしょうか、わたくしもまだまだですわね」
「かなりの疲労を見せています、さぁーここで大きな部屋に入ったが、中にいるのは・・・フラワージャックだぁー!」


司会の方が叫んび紹介してくれます。大部屋には壁に触手の様な根を張りくっつき、天井から吊り下がっている大きなひまわりのモンスターがいましたの。
花の中心部分に大きな口があり、茎の部分を伸縮させて食いついて来るのです。


「しかも数は5匹ですわ、これはまずいですわね」


壁のフラワージャックが茎を伸ばし、大きな口を開けて攻撃を仕掛けましたわ。前衛の騎士は避けたのですが、後方にいた魔法使いは、その大きな口にぱくりと行かれました。
一瞬の出来事で、観客からは悲鳴も起きませんでしたわね。


「これはまずいぞぉー!上下からの攻撃になす術がない、このままやられてしまうのかぁー」


司会の方はそう言っていますが、わたくしは騎士たちを信じていますの、これしきではやられませんわ。


「おおー!?騎士たちのスキルで敵を薙払った!これは【衝撃】ですねぇ」


衝撃スキルは初級で、一定距離相手を吹き飛ばす事が出来ますの。
その後は、騎士たちの反撃が始まり、魔法士が火の魔法を放ち敵を分散させ、騎士たちが個々で武技を使って何とか切り抜けましたわね。


「でも、スキルを使い果たし武技も使ってしまった、そろそろきついですわね」


休憩の後は進軍は散々でしたわ、メンバーを失ったPTは段々数を減らしていきボロボロです。
中ボスに到達する頃には2PTしか残らず、あれでは勝てないと思わされる戦いでしたの。


「惜しかったですねケリー様」


バトルが終わり昼休憩を挟んで、わたくしはイサベラたちと部屋で食事を取りましたの。
イサベラがお茶を持ってきてくれて、励ましの言葉を貰いましたのよ。


「ありがとイサベラ、みんなもそんな顔しないでくださいまし、何も負けが決まったわけではないですわ」


紅茶を飲みながらわたくしは言いました。ジャケンは通路を広くしていた以外、エマルのダンジョンと変わっていませんでした。
恐らく、わたくしと同じで検証に時間を掛け、改造の時間が無かったのです。


「なるほど、対してケリー様は中部屋を増やしたり、大部屋まで使っていた。それは高く評価されても良いですね」
「そうですわよイサベラ。エマルだって、先生に論文を書けと言われダンジョンに手が回っていないでしょう」


そう結論づけて、わたくしは今話題のパンケーキという甘味を食べましたわ。
これは大商会の長女であるライラに頼んで買ってきて貰ったのです。


「時間が経っているのに、ほんとに美味ですわね」
「そうなんですよケリー様、ワタシも好きなんです」
「それよりケリー様、あいつを奪い取る作戦を決めましょうよ」
「マリアル、それは止めておきますわ。彼はきっとそう言ったことが嫌いですわ、優しく接して仲良くすることから始めます」


仲良くするには、まず嫌われないことですわ、今度お茶会に誘い仲良くなるのです。


「でもでも、アタシ最初にあいつをとっちめたけど、仲良くなれるかな?」


マリアルがハチミツを口に付けて言ってきて、わたくしはかなり動揺しましたわ。危うくティーカップを落とすところですわよ。


「へ、平気じゃない?この前ケリー様がダンジョンの方向性を聞いたとき、笑顔で答えていたし、あまり気にしてなさそうだったわ」
「そうかなぁ~イサベラだって顔に出さない時あるじゃん、何だっけ?しゃこうじかいだっけ?」


マリアルに「社交辞令でしょ」っと訂正していましたが、わたくしもその可能性を考えかなり焦ってしまいます。
ライラも心配そうな顔をしてわたくしを見て来ましたが、これは謝罪をすべきですわね。


「イサベラ、この公表会が終わったら彼をお茶会に誘う手はずを整えてください。そこでちゃんと謝罪いたしましょう、そのタイミングで仲良くなるのです」
「分かりましたケリー様・・・それと、耳寄りな情報を」


イサベラがわたくしに耳打ちしてきましたその内容は、彼らが3学期の学園祭で、何か出し物をするそうなのです。


「出し物ですか・・・それもお茶会で話題にさせて貰いますわ」
「それがよろしいと思います」


イサベラに紅茶を注いでもらい、わたくしは公表会の最中ですが、お茶会がとても楽しみになってきました。
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