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4章 1年3学期

116話 壁の補強

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わかりやすくする為に、地面に数値を書き始めます。
それを書いているうちに、ブルーたちもこちらに歩いてきて、みんなで覗き込んできます。
授業みたいになってしまったと、僕はちょっと恥ずかしさを抱きながら進めます。


「いいですかみなさん、先ほどのエメローネ殿の【アルティメットブレード】を2万とした場合、ライジングスラストは5000くらいです。当然ですけど、前者の方が強いですよね」


僕の当然の答えに、みんなが揃って頷くのを見て、僕は更に絵を描きます。
盾の絵を書き、その下にはいつもの様に数値を書いたんだ。


「鱗の防御力は20万だから、それ以上の威力がないと壊すことが出来ません。でも、これは壊すのに必要な数値であり、ある事をすれば2万で済みます」
「「「「「え!?」」」」」
「さて、それが何か分かりますね、エミリーさん」


エミリーに答えを求めるために、字を書いていた棒で当てると、エミリーは突き攻撃と答えてくれます。
良く分かってると、正解した事を誉めてあげて更に進めます。


「では、初級の戦技を使って、2万まで上げるにはどうするのか・・・まず、1つや2つでのスキルや補助魔法では、そこまでの数値にはなりません」
「「「「「それは分かる」」」」」
「そうですね、どんなに頑張っても1万が良いところです。ですので、先ほどのスキルと武技を同時に使うんです」


エメローネ様たちは、そこで分からなくて唸ってきます。
腑に落ちないことがあるんでしょうけど、エメローネ様が手を挙げたので僕は当てました。


「白騎士、どんなに頑張っても1万と言っていたのに、その言い方だと初級の武技を3つとスキルを2つ使えば、アルティメットブレードを越える威力が出せる事になるぞ、そんなことが可能なのか?」
「可能です。ある一点においては可能です」


即答してから地面に丸を描き、縦に並べて列を作っていきました。
みんなは何をやろうとしているのか分からず、書き終わるのを待ってくれてて、お茶が欲しいとシャルティルが言い始めたよ。


「この丸は、鱗をものすごく近くで見た場合の絵と考えてください。この世の物は、すべてこう言った小さい細胞という物で出来ています」
「「「「「細胞?」」」」」
「はい、1つ1つが1人の兵士だと仮定して、それはとても小さくて、1つだけにダメージを与えるのは、ほぼ不可能です」
「「「「「ふむふむ」」」」」


大きな剣の絵を書いて、マルの細胞兵士に矢印で攻撃してる風を描くと、3から4体に当たる様に見えます。
みんなはそれを見て頷いてくれたけど、問題はここからなのを強調します。


「この小さな細胞兵士たちに【アルティメットブレード】の衝撃を与えるわけだけど、隊列を組んだ細胞兵士は盾を持って構えて来る。その防御力は1人2万で、衝撃よりも高いです」
「なるほど、3体から4体に当たるから威力が足りないわけだな」
「じゃあどうするのよ?」
「姫様、だから突きにするんですよ」


ああそうかと、突きにする理由を理解してくれた。
でも、ここで突きにしても問題がある事を伝えると、ダメなのかよっと睨まれました。


「剣を突きにしてもね、細胞1つだけに攻撃は出来ないんだ、2つから3つを相手にする事になる」
「なるほどな、つまり2体なら4万、3体なら6万の威力が必要なわけだな白騎士」
「そうですよエメローネ殿、だから威力が足りないというわけです」


僕の絵とエメローネ様の説明で、みんなは何とか分かってくれたようで、頷き合い始めたんだ。
ここで僕は、答えを導き出して貰うために、スキルの用途を加えて説明を始めます。


「狙いを一カ所に絞る為にスキルの【必中】を使い、3連撃の【トリプルアタック】を一カ所に纏める。その攻撃がずれないよう【集中】で精度をあげるんだ」
「ふむ、一ヵ所に3連撃か・・・かなりの精度が必要だな」
「そうですねエメローネ殿、更に【瞬歩】を腕に使って【トリプルアタック】の連撃速度を上げる必要もあります」
「それはどうしてなのよ?速度なんて上げなくても同じじゃない」


当然の質問がシャルティルから出たけど、それは他の騎士たちも同じに思っている事の様で、僕の答えを待っていました。


「それはですねシャルティル様、1撃で与える衝撃が収まる前に、次の衝撃を起こす必要があるからです。これが出来て、初級の武技はやっと2万を越えることが出来ます」


僕の説明を聞いて、みんなが黙ってしまい、分かったのかな?と気になってしまったよ。
その中で、ブルーだけが頷いていますけど、彼が分かるのは当然ですよね。


「あんた、白騎士って言ったっけ?言うだけなら誰でも出来るのよ。でもね、いくら初級でも武技を3つも使って、更にスキルを2つですって?出来る訳ないでしょ!ねぇエメローネ様」


9人の女性騎士のうち、赤髪をトゲトゲさせてる人は、指を指して反論してきた。
ふつうの人では出来ないと、エメローネ様をみて答えを待ちました。


「確かにアタシなら可能だ、しかしほんとに貫く事が出来るのか?」
「それはエメローネ様の腕次第です。スキルの瞬歩だって、腕に使った事ないでしょ?練習はそれなりに必要だと思います」
「ああ・・・それに一番難しいのは、武技の【トリプルアタック】だ、1ミリの狂いもなく当てるのは神業だろう」


良く分かってるエメローネ様に、鱗を貫いて貰う為に協力する提案をします。
賛成してくれたエメローネ様と鱗の前に立ち、構えてもらったんだよ。


「良いですか皆さん、この鱗はそんな神業を使わないと貫くのは難しいよ。それほどに強いドラゴンの物で、だからこそ王都を守る壁に使おうと考えた。やってみてくださいエメローネ殿」
「う、うむ」


僕に言われエメローネ様が1歩前に出て、突きの姿勢に構えを変えました。
僕は力が入っていると思い、横に行って小声で助言をする事にしました。


「エメローネ様、力が入り過ぎです。まずは構えを解いて目を閉じ、深呼吸をしてください」
「あ、ああ・・・わかった」


エメローネ様が剣を下に下げ、自然体の姿勢をとって深呼吸を始めます。
落ち着いたところで、スキルの【集中】を使って貰い、まずはあそこに誘導して入ってもらう事にします。


「どんな感じですかエメローネ様」
「不思議な感じだ、すごく静かで落ち着いている・・・これなら針の穴にも通せそうだ」
「さすがですよエメローネ殿」


普通は深呼吸をしただけじゃ、領域に入る集中は出来ません。
僕が誘導しているからでもあるけど、それ以上にエメローネ様の実力だと感じます。


「では、目を開けて目標を見ましょう。そして、いけると思ったら武技を使ってください」
「分かった」


僕は助言をした後、ゆっくりと後ろに下がり離れます。エメローネ様は、かなり集中してるから問題はないけど、手伝って領域に入ったから、少しの衝撃で解かれてしまう。
そして、エメローネ様は武技とスキルを使い、見事に鱗を貫く事が出来たんだ。


「で、出来たのか?」
「やりましたね、さすがエメローネ殿」


静かに僕の声だけが響き、みんなの方に振り向くと、凄すぎたのか黙ったままです。
少しして、みんなから大きな歓声が上がり、エメローネ様は皆に囲まれたよ。


「すごかったわよエメローネ」
「ありがとうございます姫様・・・ですけど、なんだか不思議な気分です。壊せないと思っていたはずなのに、あの一瞬はそうではなく、貫けると確信しました。あの感覚はいったい」


エメローネ様も不思議そうで、さっきまでの感覚は消えているとも言っています。
僕がその空間に連れて行ったので当然ですけど、手伝ったとは言え、あそこにいけるだけでもすごいんですよ。


「あれは、僕が領域と呼んでる空間で、世間では無我の境地というんです」
「あれがそうなのか」


エメローネ様は知ってるようで、感覚が研ぎ澄まされ、何でも出来る様な気持になったとか言って来たよ。


「あそこでは、時間が凝縮され1秒が何十秒にも感じます。ですが、精神が研ぎ澄まされるだけで、決して何でもは出来ません」


達人じゃないと到達しないと付け加え、トゲトゲ赤髪さんに視線を向けます。
彼女はちょっと申し訳なさそうで、僕はそれに付け入ろうと考えましたよ。


「っとまぁこんな感じで、達人のエメローネ殿は一人で出来るわけですけど、実は同じ事を皆さんにも出来る様になってもらいます」
「「「「「え!?」」」」」


僕のそんな質問にブルー以外の全員が驚き、そんな事が出来るのかと不思議そうです。


「そ、そんな事出来るわけないわ」
「それが出来るんですよ赤髪さん。5人で1PTを組み、その中の一人に託すんです、そうすれば上級武技の【ドラゴンライジングスラスト】が使えるでしょ?」


騎士さんたちがハッとしてエメローネ様を見ました。
4人で1人に重ね掛けして、その1人がスキルと戦技を使う。やってみようって事になり、赤髪の人を先頭に、ブルーメタルソードをエメローネ様から借りて挑戦しました。


「これなら行ける!武技【ドラゴンライジングスラスト】」


赤髪さんが突き攻撃を繰り出したけど、鱗はヘコむだけで貫く事は出来なかった。
それを見て、赤髪さんは怖い目つきで僕を睨んできたよ。


「話が違うわよ白騎士!どういう事よ!」


トゲトゲ赤髪さんが、僕に詰め寄って文句を言ってきたので、僕はやれやれって感じで言いましたよ。


「当たり前でしょう赤髪さん。エメローネ殿がやったことは神業ですよ、それをみんなの力を合わせてやってみようというんです、簡単に出来たら世話はありません」
「だって、あなたはさっき出来るって」
「それはちゃんと武技を使いこなせればの話です。今のあなたは上級武技の威力を出し切ってません」


赤髪さんが後ろに下がり、ぐうの根もでないようです。
丁度モンスターたちも集まってくれたので、壁の強化を始める様に伝えたんだ。
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