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4章 1年3学期

115話 壁の素材

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「それって・・・どう言うこと?」


僕が意を決して話した事に、シャルティルが首を傾げて聞き返してきました。
僕は『だよねぇ』って思いながら、説明をすることにしたよ。


「死んでしまったら、生まれ変わったとしても、前の記憶はないんだよ。でも、僕はそのまま覚えてて、こことは違った、別の世界で生きていた記憶があるんだよ」
「へぇ~」


シャルティルの反応が薄く、これは嘘を言っていると思われてる。
僕は『せっかく話したのに』っと、がっかりしてしまったね。


「それがあなたの一番の秘密なのね」
「そうだね、誰にも言ったことはないよ、言っても信じてもらえないだろうしね」
「ふぅ~ん・・・分かったわ、仕方ないからそれで許してあげる」


信じているのか微妙だったけど、僕は「ありがとう」っと、返事をしておきました。
それを聞いたシャルティルは、なんだかうれしそうにしていて、機嫌が直って良かったと、ホッとしたんだよ。


「じゃあ、獣魔のみんなを集めてくるよ、外壁を直すには、みんなの力が必要だからね」
「そういえば、壁を強くするんだったわね・・・でも、魔法レンガよりも強固にするって聞いてるけど、それって無理があるんじゃないの?」


頭を傾げて、不思議そうに聞いてきたので、僕は大きな鱗で出来た盾を出して、説明をする事にしました。
魔法レンガよりも強い素材、それはあの種類のモンスターしかいないんだよ。


「これはね、ドラゴンのエンシェントクラスに位置してる、龍の鱗で作った盾だよ。これと同じ皮や鱗がたくさんあるから、それを使うつもりだ」
「ふぅ~ん、エンシェントクラスねぇ・・・ん?・・・ちょ、ちょっと待って!?なによエンシェントって、モンスターのクラスはレジェンドまでしかいないでしょ」


僕はそれも秘密だったと、滑らせた口を抑えたけど、もう遅いので、秘密だよっと、念押しをして説明しました。
シャルティルは、その説明を真剣に聞き、頷いていてくれたんだよ。


「わたしたちが知らないだけで、神と呼ばれるクラスが、モンスターには存在するのね」
「そうそう、ダンジョンにも出現するんだけど、誰もそこまで到達してないから知らないんだ。僕たちダンジョン科1年は、その為に連合を組んで、それに挑戦してる」
「そうなのね・・・じゃあ、中ボスを見つけたのってもしかして?」
「そうだね、途中の過程で、まだまだ先は長いんだよ」


今のところ言える範囲での解説をすると、シャルティルがすごい顔して驚いてきました。
モンスターの種類などは言ってないのに、そこまで驚く事なのかと、僕はちょっと心配になってきますよ。


「信じられない・・・1年生で、どうしてそこまで研究してるのよ」
「そんなに驚く事じゃないよシャルティル、ダンジョンの基礎知識は、入学前に教えて貰ってるから、それを学園で実践するんだけど、今までは競い合うだけで協力はしなかった。僕は、協力をするようにしただけさ」


個人で秘匿している事が多すぎて、全然進歩してなかったと話すと、シャルティルはブツブツなにか言ってました。
きっとマリア様が隠している、レベルアップで得られる、強化の件を呟いているんだ。


「わたしが入学したら、その研究会に加わっても良いかしら?」
「もちろん歓迎するよ。とても楽しくやってるから、きっとシャルティルも気に入ると思うよ」


その後、僕がいつ入学するのか聞いたら、秘密って言われました。
年齢を聞いてなかったのでわかりませんが、来年か再来年でしょう。


「じゃあ、壁の素材を渡しに行ってくるね」
「わたしも行くわ、一緒に行けば、お母様と仲良くしてるって分かるもの。エミリーも行きましょ」


今まで空気だったメイドさんを名前で呼んで、シャルティルが僕の腕をつかんできました。
僕以外にもしっかりと名前を呼んだり、話す人が貴族にもいて嬉しくなりましたよ。


「やっと来たか白騎士」


僕がシャルティルに引っ張られ、兵士の詰め所に着くと、イライラしているエメローネ様が、腕を組んで待っていました。
その先には、ブルーを相手にしている女性たちがいて、凄い圧力を感じましたよ。


「お待たせして申し訳ありませんエメローネ殿」
「エメローネそんなに怒らないで、おかげでしっかりと話せたわ、ありがと」


僕を下からのぞく感じで、シャルティルが笑顔で伝えると、エメローネ様もそれ以上は言ってこなかった。


「姫様が喜んでくれたのならよかったです、それで例の品を出してくれるか?」
「それは良いのですけど、あちらはそのままでいいのですか?」
「問題ない、こちらが気になれば終わる」


そうですかと、エメローネ様の前に、10mはある大きな鱗を出しました。
他の素材も重ねて地面に置くと、ふたりは鱗を見上げて固まってます。


「アア、アレシャス?さっき見せてもらった盾と、全然大きさが違うのだけど」
「それはそうでしょシャルティル、あれは持てるように加工した物だよ。それと僕の事は、白騎士って呼んでね」


僕の当然と言った理由に、シャルティルは返事もしないで、鱗を見上げるだけでした。
エメローネ様は、どうしてか剣を鱗に当てて【キンキン】と良い音をさせています。


「堅い!?おまえに貰ったブルーメタルドラゴンよりも堅いのか?」
「よくおわかりですねエメローネ殿、この素材は上の上の存在で、グラントメタルドラゴンです」


エメローネ様は、鱗を斬りたくなったのか、闘気を上げて剣を構えた。
それを感じたのか、ブルーがこちらを見て来たけど、他の女性騎士たちはまだ気づいてない。ブルーとはそれほどの差があり、エメローネ様が気にしなかったのも理解できましたね。


「武技!【アルティメットブレード】」


長い溜めから繰り出されたのは、上級でも最大の威力と言われる武技でした。
衝撃は、鱗を抜け立て掛けていた壁に響き、周りに衝撃波が発生したよ。


「エメローネ殿、シャルティル様たちがいるのにやり過ぎ」


僕がシャルティルと、エミリーを庇ったので、2人はなんともなかったけど、少し遅れたら大変な事になってたと注意です。
エメローネ様は、そんな忠告が聞こえていないのか、壁にめり込んだ鱗をジッと見ていたよ。


「最強と言われてる、エメローネの武技で壊せないなんて、信じられないわね」
「それだけではありません姫様。ワタシの武技を受けたのに、この鱗は、傷一つ付いていません・・・ちょっと自信をなくしますね」


エメローネ様は、鱗を触りながら、かなり悔しそうな表情を見せてきた。
僕は心の中で、当たり前なんだよねっと思うしかなかったよ。


「エメローネ殿、あなたは今、鱗を壊そうとしましたね?それは銅の剣で、プラチナシールドを壊そうとするくらい無謀なことで、今の条件では、僕でも無理です」


エメローネ様は、ちょっと安心した顔をしたけど、その後すぐに、条件をどう変えれば壊せるのか、顔をずいっと近づけて聞いてきたんだ。
向上心のある人はやっぱり違うと、僕は少し嬉しくなって解説を始めます。


「まず、今の段階では無理なので、壊すのは諦めてください」
「なっ!?そ、そんなに差があるのか」
「はい、なので壊すのではなく、貫いてください」


そう言った僕は、3つの武技を同時に使い、更にスキルを2つ使って貰うように指示しました。
シャルティル様とエミリーは、顔を見合って「同時使用って出来るの?」って顔をしていますよ。


「出来ますよ姫様、この組み合わせならば、なんとか可能です」
「そうなのエメローネ?なにが違うのかしら」
「方向性・・・つまり、用途が違う武技だからです【必中】は、命中精度を上げ
【トリプルアタック】は、同じ強さの攻撃を三連撃する。最後の【スラスト】は、突きの威力を上げるモノで、初級だからこそ可能な事なのです」


僕の言いたいことを、全部言ってくたエメローネ様は、魔力と闘気の解説に入ります。
そして、その上にスキルを使う事を、僕は付け加えたんだ。


「【集中」と【瞬歩】?」
「そうですよシャルティル様、一点に攻撃を当てる為の集中に、加速の威力アップを加えるんだ」
「ふむ・・・しかし白騎士、初級では威力が足りんだろう。これなら上級スキルの【光歩】を使い、上級武技の【ライジングスラスト】の方が良いんじゃないか?」


エメローネ様は、うてを組んでそんな提案をしてきました。
そこで僕は、エメローネ様が初級を使う、本当の理由を理解してないことが分かったんだ。


「エメローネ殿、威力はさほど重要ではありません。必要なのは、同じ場所に、どれだけ時間を空けずにダメージを与えるかです」


僕の答えを聞いて、エメローネ様もシャルティル様も、エミリーまで首を傾げていました。
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