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5章 2年1学期

126話 難問に挑戦

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「でも、時間が経てばそのダンジョンに合った体になってしまうのは、常識よね?」
「そうだよマリーナ、でもそれは逆の仮説を導き出せる」


アレシャスは、また魔法の杖を持ち、黒板に文字を書き始めました。
それはダンジョンヒューマンにとって、難問に当たる物でしたよ。


「中ボスの使い方とボスの使い方、それにモンスターの進化と退化の謎、どれも研究が進まず、3大難問って事になってる。その理由は、誰もがわかる物だった」


アレシャスはその後に一言言ったのよ「難易度が足りないだけ」ってね。
わたしたちもそれは知っていたわよ、お母様も足りないから、強いモンスターにならないって、いつも難易度を上げる研究をしてたもの。


「だ、だから!それが一番難しいんじゃないのよ!だからあたしは」
「そうだよマリーナ、だから君は僕たちをマネようとした、秘匿している情報があるとも知らずにね」
「うっ?!そうですね」
「そして、結果をマネただけだから、なにが違うのか分からず、ポイントを消費して失敗した。これがあるから、今までは個人でしか研究がされずに進んでなくて、僕たちはそれを取り除いたから進んだ、それだけさ」


既に学園の授業がその形になっているのを知ってて、クラブ以外も変わったんだと感じたわ。
今までは学ぶ場だったけど、今度からは学び合う場になると言うことです。


「その最初のスタートは、あの担任とのやりとりだったのね、納得だわ」
「だけどねシャルティル、本当に秘匿したい情報はあると思うよ、誰しも秘密は持ってるでしょ?」


そう言ったアレシャスは、わたしをみてニッコリとしてきたわ。
それはきっと白騎士の事なのだと、わたしは少し笑ったんです。


「でも、そんな秘密にされたら、それこそ出し抜かれちゃうじゃない、そうなったらどうするのよ」


マリーナがそう言ったら、先輩たちが苦笑いをしています。
そして、アレシャスが先頭で言ったんですよ。


「そうされても支障のない難問だったんだよ、世間で言ってる3大難問ってのはね。僕たちは今、それ以上の難問を見つけてしまって、とても困ってる」


マリーナがそれを聞いて、そのままの顔で固まってしまったわ。
今の言い方だと、3大難問は既に解明していると言っているように聞こえたのよ。


「あああ、あの・・・ほんとに難問を解明したんですか?」
「そうだよボブサ、世間に公表するのは順番って事になってる。そうしないと大変な事になるからね」


そこでアレシャスは、今回の襲撃の原因を話しています。
混血派に力が偏るのを嫌った純血派が、他の国に協力を求めたってね。


「そんな!?」
「知らなかったです」


これは公表していませんが、だいたい想像は付きます。
ボブサは、それを聞いて怖がったけど、先輩たちは安心させる為に声を掛けてくれたのよ。


「今回の襲撃は、混血派のマリア様が女帝になったから計画されたんだと思う、そこに中ボスの設置方法が判明して拍車をかけた」
「アレシャスが言った事を他の国は知り襲撃を決意し、報酬として何らかの物を貰った、それは襲撃をして疑われても特だと思うほどのものだ」
「そこに、わたくしたちがボス設置や進化の方法を公表したら、いったいどうなると思いますの」


先輩たちが順番に話してくれていますが、それはわたしたちが黙って納得するほどの事です。
そして、アレシャスは先に進みます。


「ワイバーンは、ドラゴンのノーマルクラスと言われているよね?でも、それはドラゴンを設置した時、退化するのがワイバーンだからだよね」
「そんなの当たり前じゃないですか?」
「それが違うんだぞマリーナ、ワイバーンは鳥の仲間だ」
「ジャケンの言う通り、本来のノーマルクラスは、普通のドラゴンなんだよ」


先輩たちの話で、わたしたちは今日一番で驚いたわ。
何でも、ワイバーンはコカトリスの仲間らしく、正式名称はドラゴンもどきと言う種類になるそうよ。
それを聞いたマリーナは、聞いた事もないからか、信じられないって怒鳴ったわね。


「その気持ちはわかるぞマリーナ。しかしこれは事実だ」
「その根拠は何なんですか!設置したのがドラゴンなのに、種類が変わるなんて聞いた事ないですよ」
「そうだなマリーナ。本来、弱体化しても設置した種族のモンスターになる、その考えに落とし穴があったんだ」


ジャケン先輩は、そう言って弱体化と退化は違うと説明してくれて、マリーナは何も言い返せなくなったの。
更にジャケン先輩は、ダンジョンを製作する画面のモンスターの種類を見る様に言って来て、わたしたちは揃って画面を見たの。
確かに、ワイバーンはドラゴン種の欄にはいなかったわ、とても遠くのハテナが並ぶ場所に、ポツンと記載されていたの。


「ど、どうしてなんですか?」
「理由は簡単だぞボブサ。ドラゴンの弱体化は退化で、キングクラスがノーマルに落ちる弱体化とは種類が違った」
「そ、それだけですか」
「そうですわよボブサ。ノーマルクラスからの退化が起きていて、わたくしたちは勘違いをしていたのですわ」


その証拠にと、ケリー先輩はマリアル先輩に視線を向け、マリアル先輩のダンジョンを見せてくれたんです。
そこでコカトリスを1体で設置すると、何とこの場でワイバーンに進化する映像が見れました。


「し、信じられませんねシャルティル様」
「そ、そうねエミリー」


一言しか言えない現象を見て、わたしたちはこのクラブの凄さを実感しました。
世間ではあれだけ難問とされている事が、ここでは簡単に説明され、実証までも出来るんです。


「どうかなマリーナ、これでも納得できない?」
「うっ・・・分かりました」
「分かってくて良かったよ、じゃあ次の議題だけど、折角だからワイバーンの事をもう少しやろうか」


そう言って、今回の襲撃で敵が使ってきたワイバーンを強調してきました。
わたしは、その話の先を予想して、かなり動揺して聞いたのよ。


「もも、もしかして先輩たちは」
「そうだよシャルティル、今回の襲撃は前準備だったんだ、敵国はダンジョンヒューマンを手中に収め、進化させて再度攻める気なんだよ」


アレシャスは、余裕の返答をしてきたわ。
そんな事されたら、きっとわたしたちの命はないのによ。


「ど、どうしてそんなに余裕なのよ」
「だってねマリーナ、進化させるのがかなり大変だからだよ」
「それでも、不可能じゃないんでしょ?」


まあねっと、アレシャスは軽い返事をして来ます。
そして、どうしてなのかを聞いた1年全員で、どうやるの?って顔をしてしまったわ。


「分からないのも当然だよ、これは難しさもそうだけど、不可能と思うのが普通だからね」
「そ、それを皆さんは」
「それがなぁ~」
「そうなのですわよねぇ~」


マリーナが恐る恐ると言った感じで聞いて、先輩たちの視線はアレシャスに集まったわ。
どうやら、この中でもアレシャスしか出来ないみたいで、彼の凄さが改めて実感できた瞬間でした。


「そ、そんなに難しいんですか!?」
「俺たちなら出来なくはない、そうじゃないんだボブサ」
「ジャケンの言う通りですわ。やろうと思えば、わたくしたちでも出来ますの・・・でも、それまでが大変で、正直嫌なのですわ」


先輩の表情は、とても暗いモノになり、わたしたちの視線はアレシャスに向きます。
どうして出来るの?っと、みんなの視線がアレシャスに集まると、どうしてか一枚の紙を机に出してきたわ。


「これは何ですか?」
「マリーナ、君はその前にこれを読んで守らないといけない。これからの話しは、それだけの機密だよ」


無闇に成果を公表する訳にはいかないと、アレシャスは真剣な顔をして来たわ。
今までの話しでわかる事だけど、紙の内容も納得でした。


「クラブのメンバー以外に情報は話さない?」
「そうだよシャルティル。これは、情報が外に漏れて、研究の成果がとられたとか言う問題じゃない、ダンジョンヒューマンの命が掛かってる問題なんだ」


一体どんな事を隠しているのか、わたしたちは、急に空気が変わったのを感じて緊張したわ。
今まで笑顔だった先輩たちも、真剣な表情で、紙にサインするのが怖くなったの。


「アレシャス・・・そんなに危険なの?」
「一言で言うとそうなんだシャルティル。これを知られると、エメローネ様でも勝てない敵が沢山生まれる」


アレシャスの言葉に、みんなが深刻なのを悟ったの。
先輩たちがすごく暗い顔をしていて、わたしはそこで、白騎士が十騎士を鍛えていることを思い出しました。


「で、でもドラゴンの設置は、1体でも4000万ですよ。ワイバーンとは比較にならないわ」
「勘違いしてるよマリーナ。俺たちが秘匿しているのは、それに至るまでの過程の話しで、ワイバーンからドラゴンが作れるという些細な事じゃない」


ジャケン先輩たちは、アレシャスの言葉に青ざめてしまいます。
一体どんな事を秘匿してるのか、わたしにはわからなかったけど、とても大変な事だと理解したのよ。


「進化の秘密を公表したら、それに繋がる可能性が出て来る。だから僕たちは言わないで、準備が出来てからと考えてる」
「その為の他国の介入と除外な訳だぞマリーナ」
「そ、そうだったんですか」


お母様たちとのお話は、そこまで進んでいて、わたしも知っていた事だけど、まさかアレシャスが、ここまで考えていたとは思わなかったわよ。


「ボブサにマリーナ、覚悟は出来たかな?」


ふたりは、頷いてサインをしました、もちろんわたしもしましたよ。
それを見た先輩たちは、笑顔で歓迎してくれたのよ。


「さて、難しい話はここまでにして、新しい仲間が入った事のお祝いをしよう」


アレシャスが手を叩いてそんな提案をすると、メイドたちが料理を運んできて、わたしたちはビックリしました。


「ここ、これは何ですの!?」
「マリーナ、これはケーキって言うんだよ。フルーツタルトにショートケーキといろいろあるからさ、みんなで食べよう」


こうして、わたしたちの歓迎会は楽しく始まり、お腹一杯で終わる事が出来たんです。
そして、次の日から行われる活動に参加して、ジャケン先輩たちの暗い顔の理由を知ったんです。
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