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1章 生き甲斐

6話 話が違う

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「ちょ、朝食ですか?」


ワタシはグラフィ、ゴルタノ商会から派遣された社員で、彼らの強さの秘密を探る為に来ました。
だから多少の無理は承知で、前任者に言いがかりを付けて追い出しましたが、朝食まで作っていたとは思わずビックリしました。


「何を驚いていますの、当然ではないかしら?」
「そうだよ、あたしは麦ご飯ね」
「わたくしはトーストでお願いしますわ」
「ちょっちょっと待って下さい!まさか全員別のメニューですか!」


どうして驚くのかと言った表情で、どうしてそれが普通と思っているのか信じられませんでした。
しかもそれだけでは無く、朝起こしに来ないのは何でと叱られてしまったんです。


「あなたのせいで、この後の予定が台無しですわ」
「そ、そんな事までやるんですか!」
「それだけではありませんわよグラフィ、わたくしたちの髪の手入れもお願いしますわ」
「う、嘘でしょっ!!」


4人ともが頷いて来て、朝にそれだけの事を1人でなんて不可能と言いました。
慌てて伝えたけど、皆さんはやってもらわないと困ると言うだけでした。


「わかりました、人員を増やして対処します」
「そうして下さいましな」
「ですので、今日の所は宿の食堂で食事を取って下さい、髪の手入れも今日は無理です」
「はぁ~仕方ありませんわね」


がっかりしながら皆さんが部屋を出て行きましたが、ワタシはそれどころじゃなかったんです。
商会から人員をどれだけ補充するのか悩み、頭が痛くなって来ました。


「街の外に行く冒険者に付いて行くのだから、ワタシくらいの強さは必要だし、大人数での移動は控えないとダメよね」


各作業に2人は欲しいけど、それは無理だから1人として、大変だけど3人で行う事でまとめました。
その結果を勇者様に伝えに部屋に向かうと、そこから知らない女性が出て来て、この事を辞めた人が言っていたのだと、頭が更に痛くなって来ました。


「こんな事、外に漏れたら大変じゃない」


女遊びが過ぎるのは本当に問題で、ノックもしないで部屋に入り注意しましたよ。
勇者様は、何を言ってるんだって顔をして来て、このP Tは常識が無さすぎと怒りが込み上げて来ましたよ。


「だから女のワタシが選ばれ、辞めた人は勘違いをして出て行ったんですね」


納得はしましたが、それで収まるはずはなく、ただの遊びで女性を買うのは止める様に勇者様に言いました。
でも、勇者様は止める気はなく、世間に広まらない様にするのもワタシの仕事と言って来ました。


「そんな、その資金は何処から出て来るんですか」
「そんな事は知らん、お前が相手をして来れるなら考えても良いぞ」
「P Tの皆さんは何で何も言わないんです、これは彼女たちに対する裏切り行為ですよ」
「そ、それは」


勇者様の反応を見て、皆さんには内緒であり、いままでは辞めた方が止めていて、居なくなったから再発したのだと読みました。
そこまで分かれば、ワタシも止める事は簡単で、皆さんに知らせると脅しましたよ。


「ままま待て、分かったもう止める」
「最初から、そう言えば良いんです」


ただでさえ面倒事が増え文句を言いたいのに、ワタシはもう辞めたくなりました。
こんな人たちの世話を5年も続けていた前任者は何者なのか気になり、人員補充のついでに調べる様に申請する事にしましたよ。


「それで、俺の食事は?」
「あなたもですか!食堂に行って食べて来て下さい」
「いやだって、アイツは用意してたぞ」
「あのですね勇者様、商会との契約にはそこまでは入ってませんよ」


素材の売買と旅の支度の管理が契約内で、食事は自分たちで作るのが当たり前と怒りました。
譲歩出来るのは食材を仕入れるくらいで、作るとしてもみんなでというのが入りました。


「それに、ワタシはまだ資金をいただいてません、いつになったら貰えるんですか」
「な、何を言ってるんだ?資金なんて渡さないぞ」
「はい?」


素材を売っても取り分は無いとか言って来て、ワタシは何を言ってるのか混乱しました。
資金を得られないのにどうして援助が出来るのかと思ったけど、勇者様の目は本気で信じられない程に動揺がありませんでした。


「しょ、正気ですか?」
「今までもそうして来た、それを盗まれていたからアレシュはクビにしたんだぞ、そちらに渡したら意味ないだろう」
「じゃ、じゃあワタシたちはどうやって利益を得るんですか」
「そんな物は必要ないだろう、勇者である俺を助けられるんだぞ」


凄く名誉な事で、それだけで客が増えるとか言ってきますが、売れる品が無ければ意味がありません。
素材も貰えないのに出来る訳ないと必死に返すと、前任者はやっていたとか簡単に言ってきました。


「その人は本当に人間ですか?」
「そう言えば、あいつは俺たちの補佐の為に国が用意したんだったな」
「なんですかそれ、もしかしてアファロス王国が支援してるんですか?」
「さぁ~知らない」


何も知らない勇者様は、前任者の支援をなんとも思ってなくて、当たり前としか言いません。
そんな当たり前あっていいはずはなく、前任者に聞くのが良いと思ったわ。


「もう良いです、ワタシが人員補充と一緒に調べてきます」
「俺の飯は」
「だから、宿の食堂に行ってください」
「だが、あそこは金がかかるぞ」


それくらい自腹で払えと怒りましたが、使い切っているとか間抜けな事を言ってきましたよ。
何処までも苛立たせてくれる勇者で、早く仕事を済ませたくなりましたが、まだその一歩目も進んでいませんでした。


「何に使ったんですか、他の人たちもそうなんですか」
「俺は賭け事で、他は知らないぞ」
「それでも結婚を約束した仲なんですか」


まったくどうかしていると、急いで食堂に向かったワタシは、お金を後払いにしてもらい食事を取っている4人が見え、ワタシが支払う事が決まっていたのか、宿屋の店員が手を差し出してきました。
仕方なくお金を払いましたが、ここは高級宿なので大金貨4枚も掛かりましたよ。


「勇者様も食事を取るから、大金貨1枚追加ですか」


急がないと商会の資金が底をつくと思ったから、勇者たちを待たずに外に出ました。
商会の店に入り、人員の補充と前任者の情報と居場所を探す事を頼んだんです。


「急いでください、早くしないと資金が無くなります」
「まぁ待て、あいつらの装備の謎が判明すれば、一時の赤字は回収できる」
「そんな簡単な事ではありません、上の人に急ぎ報告してください」


責任者の店員に伝えましたが、それは以前のワタシと同じ考え方で、これはまずいと思ったわ。
焦らないと本当にまずいのに、これは自分で動かないといけないと頭を切り替えたのよ。


「出来るだけ急いでください、人員補充だけでも急がないといけません」
「ああ、そちらは直ぐにでも用意する、だから急ぎ装備を手に入れるんだぞ」



急がないといけない事がまた1つ増えてしまい、ワタシは商会を出て彼を探す事にしました。
勇者たちは今日はお休みで、今日しか動ける時間がありませんでした。
それでも頼みの綱は、あの常識知らずの勇者PTの中で、クビにしてしまった唯一の常識人に頼るしかないと急ぎましたよ。
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