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1章

14話 遠くの勇者様

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「よくぞまいった勇者の方々」


私が気づいた時、白い石で作られた、とても広い部屋に座っていました。
そして、高い所から声を掛けられ、その人が王様なのが金色に輝く王冠で分かったの。


「でも、勇者ってどういうことよ」
「分からないのも当然である、話は教育係のレナールに聞くと良い、期待しているぞ」


王様の視線の先には、青い軍服を着た男性がいて、敬礼をしていました。
そこで、私以外にもここに招かれたのが分かり、どうして?っと不安になりましたよ。


「学校でも有名な剣道部の主将西郷君に、空手部の西島君と西さん」


最後に生徒会長の矢野ミホルさんがいて、普通の学生の私は凄く肩身が狭いです。
教育係の人とも、私抜きで4人が話し合ってるし、私は空気ね。


「まぁ、その方が楽だけど」


話しを横で聞いてて不安で仕方なくて、みんなは何とかなるとか言ってるけど、どう聞いても成功するとは思えなかったわ。
巨大隕石を5人だけで破壊する、そんな話をされてて、どうして成功すると思えるのか疑問でならないわ。


「第一、みんな物理系の勇者じゃないのよ」


剣の勇者に格闘の勇者、生徒会長が頼みの綱だったのに、戦力にならない知恵だったわ。
そんな私は槍で、子供の頃習った程度の腕前よ。


「衰退世界だから、なんにでもすがりたいのは分かるけど、物理でどうにか出来るなら何とか出来たでしょうに」


冷静に考えれば分かる事だから、知恵の勇者と言われた生徒会長も、きっとそこに気付いてて、何とかしてくれると期待したいわ。
この世界には、マナという私たちの知らない力もあるし、もしかしたらと思ってしまいます。


「スキルって言う力もあるし、私の槍もそれで強くなるそうだけど、世界を衰退させた隕石なんて、人が壊せるとは思えないわね」


私抜きで話しが済みそうだから、口を閉ざしてみんなの後に続いたのだけど、戦いの為の装備を貰える事になって、みんなは張り切り始めたわ。
帰りたいと思ってるのは、この中で私だけなのかな?そう思えるくらいみんなが目を輝かせてる。


「どうぞ、あなたの装備ですよ」
「これって」
「槍の勇者様ですので、槍の神器が相応しいかと」


キラキラとした装備で、鎧とかもそれっぽく、いかにもって感じでイヤになります。
それでも、装備しないといけないので、鎧を制服の上から着けて行きます。


「うぅ~ゴールドなんちゃらみたいで、とても恥ずかしいわ」


槍の神様になった気分で、彼らの様に強ければ、私もそれなりに自信を持ったかもしれない。
でも、私は現実的で自分の弱さを知ってるから、そんな気分にはならないし、ここから逃げたい気持ちで一杯です。


「では、皆さんの歓迎する宴に参りましょう」
「いきなり!?」


直ぐにでも出発したいそうで、その宴の後私たちは出発します。
道中で支援してくれる街に寄るそうだけど、急いでる感じを見てもダメなのが伝わってくるわ。


「地面は魔土で、それを吸ったら腐敗しちゃうとか、超怖過ぎでしょ」


宴の演説で聞いて、ほんとに怖くなってきたわ。
隕石にそんな力があり、そんな場所に行ったらタダでは済まなそうです。


「それに・・・料理もおいしくない」


料理が薄味で、野菜はしなびてて、お肉はとても薄くて固くて少ないの。
きっと、それだけギリギリの生活をしてて、それは衰退してるから仕方ないのだけど、ここにいるのは上流階級の人たちだから、下の人はもっと辛い生活をしてるはずなの、とても不安なのよ。


「私たちの旅って、片道切符なのを誰も気付かないのかしら?」


生徒会長は分かってそうだけど、ニコニコしてて分からなかったわ。
移動する船の中は私たちだけになるし、その時に聞いてみるしかないと、薄味の料理を食べて気を紛らわせます。


「では、勇者様方よろしく頼む」
「「「「はい」」」」


私も小さく返事をしたけど、他の人たちにしか視線は集まってなかったです。
出発を祝うパーティーが終わり、私たちは船の置かれた倉庫に向かったんだけど、そこには色々な船が並んでいたんです。


「すみませんそこの人、私たちの船ってどれなんですか?」
「はい、勇者様方の乗る船はあちらです」


マホルさんは、そこら辺にいた職員に聞いてくれたのだけど、それはここに置いてある船の中で一番大きなモノで、凄すぎてしりもちを付いてしまったわ。


「何日も滞在するならこんな物ね、みんな乗りましょ」
「え!?」


マホルさんたちは、何事もなかったように乗り込み始め、アタシは色々突っ込みたくなります。
見た目大型クルーザーだけど、テレビで見た船の10倍位あって、有名人が乗っていた豪華客船みたいなんですよ。


「5人でこれの操縦って無理でしょっ!・・・あの、生徒会長」
「ミホルで良いわよ、代々木マホさん」
「ど、どうして私の名前を!?」
「さっき自己紹介したでしょ?」


あの小さな声のあれを聞いて覚えたとか、流石知恵の勇者と感心してしまいます。
これなら今後も期待できると思って、私は不安をそのまま伝えます。


「そうね、爆弾があるわけでもないし、魔法やスキルも修練が必要だものね」
「そうなんですミホルさん。ゲームの様にレベルを上げて、最後にって話なら分かりますけど、私たちは、いきなりラスボスに突撃しようとしてるわけじゃないですか」
「無謀って言いたいのね」
「はい」


誰が聞いてもそうなる事はミホルさんも感じていて、それでも態度に見せなかったのは、あの国が強硬手段に出そうだったかららしく、ミホルさんが正気であることが分かってとても頼もしかった。
ミホルさんの計画は、途中の街で情報を集め、手段を考えるらしいですよ。


「知恵の勇者の称号のおかげで、色々な知識が入って来るの、材料が揃えば隕石を粉々に出来る爆弾は作れるわ」
「でも、呪いとかもあるんですよね」
「そうなのよ、だから地上にも降りて調べたいわけよ」


色々考えてくれてて、他の人たちも了承してるそうなの。
皆も帰りたいと思ってて、私だけじゃなかったのが分かって安心しました。


「良かった、皆さん同じだったんですね」
「たりめぇだろ、こんな手甲で岩が砕けるかよ」
「そうそう、アタシたち大会でトップでも、普通の高校生よ」
「そうですよね、よかった~」
「だから安心しなさいマホさん、装備を脱いで楽にしましょ、これから長い旅になるわ」


ミホルさんに返事をして、みんなで強そうな装備を外したの、学生服だけになった私は、何だか戻れる気がしてきました。
次の街デリンジには、5日で着くそうだけど、自動で飛ぶ船はやっぱり怖いと感じたわ。


「決められた道を勝手に進んでくれる、それを返せば他の道はなく、私たちを良く思わない人もいるかもしれないのよね」


空飛ぶ島が他にもあって、それが全て国と見て良いそうなのだけど、それぞれの思想があるから嫌な予感がするんです。
それは、支援をしてくれると約束されていても、備蓄してる物資が少ないのは言うまでもない事で、絶対何かあると感じさせるわ。


「そう考えると、船の中が一番安全なのかもしれないわね」


信頼できるのは、召喚されたみんなだけ、そう思うようにして、私は疲れたから休むことにしたの。
今日はとても長く、色々な事が起き過ぎた日になり、私たちの運命が変わってしまって、部屋で1人泣いたのは、みんなには内緒です。
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