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1章 異世界生活

16話 初デート

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「今頃、マルセルはあっちで仕事をしてるんだよなぁ」


宿で着替えてるアタシは、それに同行したアンとアシュリーが羨ましくて仕方なかった。
マルセルに褒めて貰えて、アタシはこっちに行くべきとその時は思ったんだ。


「だから、今日は朝からアンソンと訓練をするけど・・・やっぱりあっちにいた方が楽しかったかも」


休みなんだからと思ってしまい、装備を着こむ手が止まったよ。
でも、アンソンとの連携を強くすれば、マルセルも喜んでくれるし、アタシはそっちの方で評価してもらいたかった。


「そうさ、アンソンと強くなれば、マルセルが喜んでくれる」


頑張るぞ!っと、部屋の扉を開けてアンソンと合流した。
アンソンも張り切っているのか、今日はよく喋っていて、アタシは内容を聞かずに頷いてたよ。


「さぁやるぞアンソン」
「何処からでも掛かってこいマリーナ」


冒険者ギルドの訓練場に着いたアタシたちは、早速模擬剣を構えて対峙した。
お互いの強さは互角で良い練習になるが、手の内が分かってるからちょっと楽しくなかった。


「さて、準備運動はこれくらいで良いよなマリーナ」
「え?」


利き腕を回し始めたアンソンがやる気で、どうやらアンソンは本気ではなかったらしく、その後の動きはアタシが振り回される凄いモノだった。
いつの間にこんなに強くなっていたのか、マルセルと比較しても、目移りしない様に感じたよ。


「すげぇなアンソン」
「そうだろマリーナ、オレも強くなってるんだ」
「そうなんだな、見直したぜ」
「そうか、それなら全力で行くぞマリーナ」


アンソンの最後の一振りは、アタシが絶えれない強さで、剣を吹き飛ばされてしまった。
腕が痺れて痛かったが、アンソンが謝って心配して来たから、平気だと返したよ。


「ほんとに平気か?」
「ああ、それよりも続きをするぞ」
「いや、ちょっと休憩しよう」


アタシをいたわってくれて、まるでマルセルみたいに優しさをアンソンに感じた。
手を握られて引っ張る力強さも男らしくて、マルセルみたいだと本気で思ったぞ。


「アンソン、もしかしてマルセルに何かしてもらっただろ」
「そうなんだ、おれがマリーナを守れる様にしてくれた」
「やっぱりな、それで納得したぜ」


強いのはマルセルだった様だが、アンソンもなかなかだと見直したよ。
手の痛みが無くなって再度の訓練をしたんだが、なかなか楽しかったな。


「ほらマリーナ、飲み物を持って来たぞ」
「気が利くなアンソン」


サンキューっと、アンソンから飲み物を貰ったが、こんな気遣いも出来る様になったのかと、少しだけ見直したんだ。
ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけだが、惹かれてる感じだ。


「まぁ・・・マルセルに比べたら、まだまだ全然だけどな」


飲み物を飲み干して、スラムの方に視線を向けたけど、そこには壁があるだけで見える訳じゃなかった。
それでも、強くなってマルセルに褒めてほしくて、アンソンと訓練を楽しんだ。
そして、訓練が終わりを迎えた時、アンソンがアタシにスキとか言って来たよ。


「どうしたんだアンソン?」
「いやだからな、オレはお前が好きなんだよ」
「それは嬉しいけどよ、アタシはマルセルが好きなんだ」
「それでも良いんだ、オレは強くなってお前を守る、それまで頑張る」


凄く真剣な目をして来たから、アタシも断る事が出来ず応援してしまった。
凄く喜んでいたアンソンを見て、ちょっとだけ良いなぁっと思ったが、喜びすぎてはしゃぐ姿を見て冷めてしまった。


「子供みたいなんだよなぁ~」


嬉しいのはわかるんだが、ダンジョン探索で成功した時とも違う喜び方で、初々しい感じだった。
アタシの好みは、頼れる男でアンソンではなく、やっぱりマルセルなんだと再確認した。


「アンソン、訓練は終わったから早くスラムに行こうぜ」
「そうだな、きっと向こうも終わってるぜ」
「そうだな、明日は森に戻るから、護衛のしがいがあるな」


アンソンとハイタッチをして気合を入れたが、マルセルが喜んでくれると思ったら嬉しくて仕方なかった。
そんなアタシをアンソンは可愛いとか言ってきて、アタシは気づいたんだ。


「もしかして、子供っぽいのか?」
「マリーナ?」
「アンソンありがとうな、分かった気がするぜ」
「お、おうそうなのか?」


良く分かってないアンソンだが、マルセルがその気にならない理由が分かったんだ。
アンソンが子供に見えるのと同じなら、アタシはもっと大人になるべきで、ここでスラムに行ってもダメなんだと、頬を叩いて気持ちを切り替えたんだ。


「ど、どうしたんだマリーナ」
「スラムに行く前に、ちょっと寄り道しようぜアンソン」
「それは良いが、何処に行くんだ?」


ここで急いで会いに行けば、マルセルにはいち早く会えるけど、一番欲しい物は得られない。
だから、差し入れとして果物を持って行く、きっとマルセルが注目してくれると市場に向かったんだ。


「ミカンにリンゴ、後はブドウとかも良いかな」
「こっちのナシって言うのも美味そうだぞ」
「良いなアンソン、どんどん買っていくぞ」


ふたりで沢山の果物を買い込み、大荷物を持ってスラムに向かったが、マルセルたちがいるはずの広場には、とても多くの人が集まっていて姿を見る事が出来なかった。
人の集中してる場所に彼はいる、そう思って進むと、そこにはアンとアシュリーに腕を掴まれてるマルセルがいたよ。


「なるほど、ああしてるからマルセルもその気になってないのか」


アンソンが声を掛けて先に進むが、アタシは遠目でマルセルたちを見て悟った。
自分だけの気持ちを押し付けていてはダメで、相手の事も考えないといけなかった。
次からは、マルセルの気持ちも考えようと、買ったばかりの果物を差し出したんだ。


「美味いぞマルセル、喉乾いてるだろ?」
「気が利くなマリーナ、ありがとう」
「仕事おつかれさん」


前のアタシなら、ここで抱き付いたりしていただろう。
しかし、マルセルの横でリンゴを食べるだけにして、腕も掴まない。


「仕事、上手く行ったのか?」
「あ、ああ・・・大成功だったよマリーナ」
「それは何よりだ、夕食の時に教えてくれよな」
「お、おう」


動揺してるマルセルを始めて見た気がしたが、今までは気づかなかっただけなのかもしれない。
夕食の席で話を聞き、その流れで部屋にまで行ったが、そこでマルセルと楽しく会話をしたんだ。
身体を求めるのも良いが、もっとマルセルを知りたいと言う気持ちが押し寄せて来て、今までの愛とはまた違った様に思えたよ。
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