世界ってなんなんですか?

仲里トメ子

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必需品

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「…」
「…」
「…な、わかってたって!こうなることくらい!笑ってくれよせめて!」

気まずそうに目を泳がしている春翔と、恥ずかしそうに内股でスカートを必死に押さえているアキ、もといアキ子ちゃん。そして、余りにゴリゴリすぎる女性に絶句している私。
「ごめんなさい、アキ。はーにゃを怒って!」
「これはないわぁ…はーにゃ。」
「あんたじゃなくてアキに言ってんのよ!」
「うるせぇな。もう普通の格好で行ってくるよ。春翔も悪かったな、早くに呼び出して。」
言い合っている私たちに呆れたように気だるい声で春翔の頭に手を置き、なだめたアキ。
心なしかアキも沈んでいるように見えた。
アイドルだもんね、容姿には自信があったはずだからショックだったのかな?

「アキ、ホントごめんね。じゃあアタシ行くけど、ちゃんとバレないようにね!」
「あぁ、ありがとう。はる…はーにゃ。じゃ、お嬢様も準備な。」
玄関へと春翔を見送ると、私に向き直ってヘラッと笑って出かける支度を整えに行った。
わ、私も着替えなきゃ。って私、服ない!ここ来た時も寝巻きだったし、今もアキの服借りてるし…。
「アキー!ちょっといい?」
ノックを三回。
「ちょっと待って!………おーけー。」
化粧を落としウィッグから軽く整えた地毛に、ちょっと地味めな服、サングラスをかけ紙袋を持って出てきたアキに素直にカッコイイと思ってしまった。
「服だろ?これ。春翔に持ってきてもらったんだ。そしたら、なんか俺の分もあるとか言い出して、さ…。」
さっきのはそういうことだったんだ…。
つまり、服は男の娘の春翔に借りるってお願いしてくれてたものの、春翔はアキが女装に目覚めたと早とちりしてさっきのことになったってワケね。
「それでも、イヤなことはハッキリキッパリ言った方がいいんじゃない?」
「仕方ねーだろ、コッチがお願いしたんだから。」
…律儀!
「いーから早く着替えような。」
サングラス越しでもわかる黒い笑みをニッコリと頂きました。
「イエッサー!」


フリフリ。ふりふり。FURIFURI。
えぇ?なんでこんなロリ姫服なの?春翔、こんなのアキに着せようと思ってたの…。
そりゃああなるわね。
苺色のワンピースにチョコレート柄のバッグ、ふわふわのパニエ。
見る分にはとても可愛いし、春翔にはよく似合いそうだけど、私にはちょっと趣味が合わない…。
「お嬢様ー?まだー?」
ヤバ、とりあえず仕方ないわね!
「あとちょっとー!」

今度は私が顔を赤くさせて恥ずかしそうにする番だった。
「…」
「…な、なんか言いなさいよ。」
アキは少し目を泳がせていたので私が感想を強要したら、ムスッとした顔をして、すたすたと玄関へ行ってしまった。
何か言っていたけど聞き取れなかった。
なによ、もう…!

アキとタクシーに乗り、着いたのは茶麩谷のファッションビルだった。
すると、アキが銀色のカードを取り出して、私に差し出した。
「俺は夏葉にいくから、茶麩谷ポチ公で合流な。これでその目立つ格好とこれからの、なんとかしてこいよー。」
カードだけを残し、アキは茶麩谷の街に消えてしまった。
「はぁ?ちょっとひどくない?…もう!買いまくってやるわよ!」

そのまま私はふりふりには似合わない大股でズンズンと人混みをかき分けファッションビルへと入っていった。
まずはこの服なんとかしたいわね…。
…カジュアルは3階か。

そこからは私はご機嫌るんるんだった。
だって、店員のお姉さんたちが私の好みの物を伝えるだけでコーディネートしてくれるもの。
「可愛いですね。今日は何かお探しですか?」
「えぇ、着回しできるコーデ一式探してるの。」
「お姉さん、甘めがお好きなんですか?」
「あ、これは友人に勧められて…私はカジュアル系のパンツスタイルが好みなんだけどね。」
「そうなんですね!お姉さん、脚綺麗だしスキニーのデニムとかどうです?」
「いいわね、新作はどちら?」
「こちらです!最近入ってきたこのトップスなんか着回しできますよー。」
「あら、ステキー!」
「この子とも相性良くて、めっちゃ使えますよ!よかったら試着もできるんで!」
「じゃ、お願いしますわ。」
から始まって、次のテナントでは、
「あ、そのショップバッグ!ミスケーキのですよね?ミスケ良いですよね。何買われたんですか?」
「スキニーと無地シャツを。」
「あ、でしたら、このジャケットとかどうです?合いそうじゃないですか?」
「んー、着替えてもいいかしら?羽織ってみたいんだけど。」
「もちろん!じゃあお預かりしますね。」
とか。調子に乗って買いすぎたかもってレベル。
下着や靴、化粧品も買ってご機嫌でビルから出て、ポチ公を探す。

………え、ポチ公無くない?どこよ!?
荷物も重いし。
さっきまでのご機嫌はどこへやらすっかり不機嫌モード。
とりあえず電話してみないと。
………あ。連絡先わからない!っていうかそもそも携帯持ってない!!
とりあえず、そこのカフェで休憩して聞こう。
カランと軽い音を鳴らし、透明なガラスを引いた。
「いらっしゃいませ。どうぞお好きな席にかけてお待ちください。」
外がよく見える窓際の四人掛けの席に荷物を置き、少し外を眺め腰を落ち着けた。
「お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」
オーダーを取りに来てくれたにこやかなおじさんはここのオーナーさんかな?と思わせるような落ち着きがあった。
「ロイヤルミルクティーと本日のケーキにするわ。」
「申し訳ありません、当店はケーキは取り扱ってなくて…」
「あ…そっか。ごめんなさい。じゃあ、ミルクティーだけで。」
「かしこまりました。あの…失礼ですが、遠方からの方ですか?」
「え?」
オーナーさんからの突然の質問に思わず視線をメニューからオーナーさんへと移した。
もごもごと何か言おうと迷っているオーナーさんの泳いでいる目が私に興味を持っているのが窺えた。
「何故わかったのかしら?」
「はい、メニューを見ずに注文を決めていたことから地元の行きつけのお店があること、それと観光に来たお客様はこの席によくおかけになります。この窓際の席は空調が効き難く、うちの常連さんはボックス席ではなくカウンターにかけられることが多くて。お荷物の量も多くて観光かな、と思いまして。」
「ふーん…そうなのね。」
すごい観察力…!
否定してないからか、この人めっちゃ嬉しそう!
お茶目すぎる!
「じゃあ、ポチ公に行きたいんだけど…。」
「あ、ポチ公でしたら、そこですよ。ここの目の前ですので。」
「え…!」
「では、淹れて参りますね。」
るんと聞こえそうなほど軽い足取りで戻っていったオーナーさん。
え?どこよ?
人混みで見えない…。
でも、ここの前ってわかったし、ひと息休憩したら向かおうかしら。



「ありがとうございました。またこちらに来ることがありましたら、ぜひ寄っていってくださいね。」
オーナーさんのお見送りを受けて外に出ると、まっすぐ進んで交差点の角の少し広い植木に出た。
さっき休憩したばかりというのに、人混みに疲れて重たい荷物を地面に置こうとふと下を見ると犬がいた。
え?
これ?
ポチ公これ?
嘘でしょ?
直置き?
こんな小さいの!?
よく周りを見ると、ここの一帯だけ人が多くてみんな携帯いじっている。
じゃあ、ホントにこれがポチ公なの?
あー、苦労した!でも、見つけたし、ここでアキを待つしか手段ないし…。
早く見つけて!


私がポチ公の前に着いてからかなり時間が経った、と思う。陽が傾いてきたし。
カフェを出たのが15時くらいだったから、二時間?くらい?
マスクにサングラスをかけた赤い髪の地味めな男性がキョロキョロしていたので、手を振った。
サングラスの奥と目が合うと、小走りでこちらに寄ってきた。
「ごめん!ホントごめん!俺が悪かった!待った、よな?」
手を合わせ、荷物と私を交互に見て、平謝りしているアキ。
「遅い!っていうかポチ公わかんなかった!直置きって!こんなの見つかんないわよ!」
少し、声が大きかったかもしれない。
周りで携帯をいじっていた女性たちが顔を上げた。
アキがバッと荷物を持ち早足でここから逃げるように歩き出したので、慌ててついていく。
ポチ公から交差点を二つほどしか歩いたところでアキはタクシーを拾い、住所を運転手に告げて今日の冒険が終わった。

今日の晩御飯何かしら…。
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