リアル氷鬼ごっこ

五月萌

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チェックの場合2

3人は旧校舎の2階で逃げ切る算段をしていた。そして1時過ぎ、身を寄せ合うように眠っていた。
チェックが目覚めたのは8時過ぎだ。空腹で目が覚めてしまった。おにぎりをむさぼり食う。そして、スポーツドリンクで流し込む。
チェック以外の2人はまだ眠っている。
あと約3時間で氷鬼ごっこが始まるというのに気楽なものだ。
まあ、ペケは天然だから仕方ないのと、昨日小さな工作をしたので疲れているのだろう。玲点は寝れる内は眠っておこうという腹なのかもしれない。
結局2人が目を覚ましたのは10時になる少し前だった。

「やばい、後1時間しかないじゃん」

ペケは小動物のように少しずつおにぎりを食べる。その後、スポーツドリンクを瞬時に飲み干した。

「ペケ、これあげるよ」
「いいの!? 嬉しい、ありがとう!」
「いやいや」

チェックは腕時計を持ってないペケに犬柄の腕時計をプレゼントした。決してブランド物ではなかったが、喜んで受け取ってもらえて良かった。

「借りができたね」
「そんな、僕があげたいからあげたんだよ。お守りだと思って!」

チェックは目に笑いジワをつくる。
ペケはその場で腕時計をつけた。時間もきっちり合わせた。
後30分経ったら氷鬼ごっこがスタートする。
玲点が呼吸を整えていると、町にあるスピーカーから声が聞こえてきた。。

『10、12、21、55歳の皆さん、ドキドキの氷鬼ごっこの時間がもうすぐ始まろうとしています。皆さん、準備はいいですか。家屋に隠れることはおすすめしません。鬼から逃げられるような場所へと待ち構えてくださいね。それでは残された時間でルールの再説明をしたいと思います』

チェックはペケよりも明らかに緊張した面持ちだ。

『1分前です。皆さん、鬼と子以外の人は関わると電撃を流されるおそれがあります。注意してください。……30秒前、10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタートです!』

ウィーン

鼓膜が破れそうな大きなサイレンの音がなった。

それから10分経つ。
そもそも、鬼が学校に来るかも分からない。
そう思っていたが、鬼が来た。
校門を抜けて旧校舎に3人、新校舎に1人。家族の人とソロの人のようだ。
旧校舎に入った人を見張りながら戦力を潰す作戦が始まった。
チップが振動した。
ペケがわざと1階の窓から顔を出す。
すぐに警戒音が鳴らされる。
鬼の家族は廊下の窓から侵入した。
驚いたことに廊下は青いビニールシートで埋め尽くされている。
ペケが2階に駆けていく音に釣られて鬼も2階に来た。

「これ以上近づくと殺す!」

チェックが大声で叫んだ。
旧校舎の廊下は青いビニールシートに覆われている。ペケは空き教室に入り後ろ側の扉から出た。
鬼達は一心不乱に廊下をひた走った。比較的新しい青いビニールシートを鬼たちが踏んだ。するとさっそく下へ落っこちた。

「きゃーー!」
「うあああ!」
「うおお」

落とし穴に落ちていく鬼たち3人。鬼の角にゴーグル、口は呼吸しやすいように穴が広がっていた。角にはカメラのレンズがついている。黒いケープを着ている。上からだとその情報しか分からなかった。
バシャ! バシャ!
鬼達は上から降ってくる液体を浴びた。
アルコールの匂いがする。
チェック達はアルコールランプを分解し、中身をバケツの中に入れておいた。そのバケツの中身を穴にまき、空っぽにした。
マッチを擦って火をつける。

「ま、待ってくれ、降参だ」

そう中年の男が言ったので、チェックは火を吹き消した。

「殺さないのか?」
「ああ、俺がこいつ等を正午まで見張っておくよ。ここから動かなければ許してやる」
「ペケ?」

ペケの様子がおかしい。顔を赤くして、腰を抜けたように体を震わせている。足をクロスにさせてかがんでいた。

「ちょっと、おしっこしたくて」
「トイレなら廊下のすぐ歩いたところにあるよ」
「行ってくる」
「急げよ!」

チェックはとあることに気づく。しまった。新たな鬼1人が反対側のトイレに行くペケを見ている。
氷鬼ごっこの残りは15分。
おそらく新しい鬼は下の階からまわってこちら側の階段を上がってくるつもりだ。
階段には画鋲がばらまかれている。しかし、相手はいとも簡単に階段をあがってくる音がした。
なんとしてでもペケを守らないと。
なりふりかまってられず、女子トイレに入る玲点とチェック。

「ペケ、鬼が来るから、12時になるまで絶対に開けるなよ!」

チェックは小声でペケに知らせた。

「え? うん、分かった」

床用の大きなデッキブラシを持つ玲点とチェック。
玲点とチェックは鬼と相対した。

「支配人、一般人が邪魔をしてきます」

そういったのは頭に鬼の角が生えていてゴーグルがセットになった被り物をしている少年。黒いケープに迷彩柄の服を着込んでいる。チェックと同い年くらいの、鬼だった。胸ポケットからだしたトランシーバーに向けて告げ口をしていた。

「「ぎゃあああああああ」」

チェックと玲点は電撃が肩から流れる。頭が揺さぶられる程の電気でトイレの床に突っ伏す2人。

「玲点、チェック?」

ペケはトイレの鍵を開けて出てくる。

「はい、タッチ」

少年の声が響いた。
ペケは鬼に触られた。

「だから、出てくんなって言ったろーがーーー!」

倒れている玲点の悲痛な叫びに順応したかように正午の鐘がなった。
ベルもなる。
ペケは肩のチップが青く光っている。某ジブリ映画の空をとぶ石のように瞬いた。そして気を失った。

「ペケ! お前。よくもペケを!」
「もう1度、電撃を浴びたいのですか?」
「そ、それは」
たじろぐチェックは玲点と見つめ合った。
まさか自分より若そうで弱そうな鬼に捕まるとは思いもよらなかった。2人は放心状態になっているところ、背広に鬼の被り物をした成人男性が3人どこからともなく現れて、ペケの腕、足、腰を持ち上げて輸送していった。
小学生の鬼も姿を消していた。

「僕は何をしているんだ」
「トイレ中狙われたら、逃げれっこねえよな、ハハハ」
「子に選ばれたら、助けに行こう!」
「鬼に追われながらか?」
「そうだよ、今はともかくここにいる意味がないから1度帰ろう」

チェックは落とし穴まですごすごと引き下がっていった。そして脚立を空き教室から持っていき、落とし穴に投げ入れた。
そして2人は急いで旧校舎から逃げた。

「くそ、暑いな」

真上に上がった太陽に恨み節を言いながら、2人はそのままペケの家に向かった。

「ペケ?」

勝手口から佳代子は顔をのぞかせた。

「すみませんでした」
「ペケは! ペケは」

チェックは思わず、涙がこぼれ落ちていた。玲点も思わず涙と鼻水があふれる。

「そう……、そう、君達、冷たいお茶でも飲んでく? お菓子もあるわよ」

佳代子はひどく傷ついた顔を隠すように手で顔を覆う。そして、空元気な声でお茶に誘った。

「次、選ばれたのは何歳の人ですか?」
「いまニュースでやってるわ。さあさ、あがっていって。夫はまだ帰ってきてないの」
「鬼のコスプレはしなかったんですか」
「しなくても、夫が捕まえてきてくれるから。着なくてもなんの罰則もないわ」
「「お邪魔します」」

玲点とチェックは言われるがまま入っていった。
玄関の靴箱の上に家族写真が載せられている。
ペケ、守れなくてごめん。
チェックは目頭を熱くさせた。
2人はソファに、佳代子は1人用の腰掛け椅子に座った。

テレビは抽選会の様子を再放送していた。
当てられたのは1、31、48、68歳の方々だった。
チェックと玲点は安堵の息をついた。
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