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15 核心に迫る!
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3人は学校を下校して、少しコンビニでアイスを買って駄弁る。
「信じられないな。あの子が無作為な狩り方をしているとは」
「しょうがないよ」
「間違いありません」
ケシーは棒アイスをかじって食べる。
「そこまで言うなら、記憶を見て、リコヨーテに行こう」
「あたしは帰るぞ。さっさと宿題して飯食って寝たい。寝不足が続いてるんだ」
涼子はクマをコンシーラーで隠す生活をしていた。最後の一口、アイスを食べた。
「じゃあね」
「おう、またな」
「さようなら」
「またな」
涼子はちょうどよくやってきた赤石の車に乗り込んだ。
「緑の子は見ない顔ですね」
「カエルの少年だ」
「そういえば、お嬢様の言っていた吸血鬼のことがわかりました」
「さっそくだな、何だ?」
「今、吸血鬼の芽川千夏は、昔の同僚で同い年の夢野亜紀らしき人と一緒に暮らしているようです」
涼子は驚愕の表情に変わる。
「仲いいのか?」
「はい。手を繋いで繁華街を歩いていたということでして。ただ、気になっていることが1点。夢野亜紀の身長が小学生から中学生くらいの高さなんです」
「吸血されてるんだ。そうか! 飽きないように男子高校生の血を飲みながら!」
「どういたしましょう」
「夢野先生が操られてないか調べなくちゃだな」
涼子はローカに電話をかける。しかし繋がらない。電源自体を切っているようだった。
「カエル少年を襲っていた吸血鬼も分かった」
涼子はもったいぶって息を吸う。
「森忠勇。同級生。親が離婚するかもしれない」
「吸血鬼ということは両親のどちらか、または片方が吸血鬼ということですね」
やがてホテルについた。そのため、一旦ローカへの電話をかけるのを辞めて、入浴しに行く。
シャワーを浴びて身体と髪を洗うと露天風呂に10秒だけ入って出た。
明日の準備に取り掛かった。
◇
次の日。木曜日。
涼子は早くホテルを出て、学校の校門に差し掛かった時、ローカと合流した。
「おはよう」
「おはー」
「昨日どうだったんだ?」
「黒だった。珍しいことに半月の血を飲んでる。だから吸血中毒もなくす。ただ、半月狩りを辞めさせるには現場を見張っていないといけないらしくて。時の手帳で見てみたけど、込み入った事情があるんだ」
「シングルマザーのことか?」
「そう、父親がキャバクラで知り合った女の子にうつつ抜かしている。あの家は父親が吸血鬼で母親は一般人なんだ。毎晩喧嘩が絶えないようだね」
「それが何の関わりがあるんだ? それでストレスから半月狩りをしているとでもいうのか?」
「金だよ。学費を稼ぐのに大変らしい」
「あー、金になるんだっけな。半月の血」
「テイアで稼いでくればいいのに」
「テイア?」
「リコヨーテの元あった場所だよ。そこには金になる月影がうようよいてな。はるか上空にあって、そこに行くにはある曲の演奏ができることが必要だ。後で、森忠に教えてやる」
「知ってて、あえてこっちで半月狩りをしているんじゃないのか」
「その可能性もあるにはある、それなら、武楽器を回収する」
ローカと涼子は教室に入る。
今日も一番乗りだった。
「あたしもテイアに行ってみたいな。そうだ、勇と一緒に行こうか?」
「危ないところだぞ? いいの?」
「大丈夫だ。ローカがいるじゃねえか」
「うーん、じゃあ、今日は少し遅くなるように伝えてくれ」
「オッケー、執事と森忠さんにチャットしとくな」
涼子はケータイを片手でいじっている。
「放課後あいてるらしいぞ」
「うん、じゃあ、宜しく。放課後だな」
「おう。ケシーもくるのか? 一応狙われてたけど」
「あー、悩む、いや、無理っぽいと思う」
「ほう、留守番か」
涼子は仕掛けていた監視カメラをとってリュックの中に放り込んだ。
教室のドアが開いた。
話したことのない男子が来た。
「じゃあ、そういうことで」
涼子は自分の席につき、自主学ノートを広げた。
宿題のノルマは2ページだが、毎度5ページ進めている。
◇
キンコンカンコーン。
チャイムが朝の挨拶のように鳴り響いた。
涼子は時間を忘れるほど没頭していた。
「おはようございます」
担任の声が耳に触る。
「「「おはようございます」」」
「今日も一日、暑いですがこまめな水分補給をして乗り切りましょう。宿題の自主学ノートを出してください」
担任はめんどくさそうにいう。
涼子の列は1番後ろの席の勇がノートを回収した。
全員が自主学ノートを提出する。
「それでは、ショートホームルームを終わります」
担任は教室外に出た。
「ローカ、移動教室だぞ」
「んえ? 眠りそうだった」
ローカの声を聞きながら、涼子はケータイを取り出した。
「渋谷君どうなったかな? 罠にかかったかな?」
「んえ? 何かしてるの?」
ローカの声の傍ら、涼子は不敵な笑みをうかべて、ローカを見る。さっきとった、監視カメラのマイクロSDカードをケータイにつなぐ。イヤホンも忘れない。
先に涼子が清十郎に言ったのは「ふーん、じゃあさ今度吸血される時動画とっといてよ。監視カメラ2年6組についてるから芽川先生を誘導して」とのことだった。
いじめの様子も吸血の様子もばっちりとってありそうだ。
「ローカにも送っておくぞ」
「お前って怖いな」
「まあな、ありがとう」
「褒めてないから」
ローカもケータイをいじる。送られてきた動画を見ている。
『物足りなくなってきたからそろそろ従えてる吸血鬼共の餌にしようかしら』
ローカは大きな音量で芽川千夏の声を流してしまった。
「ローカ! 音量!」
涼子は慌てだす。
奇跡的に誰も振り向かずに聞かれていなかったようだ。
ローカはイヤホンをつけて聞く。
「すまんって」
「気をつけろよな。しかし、ひどくねーか?」
「んね、まだ操っているとでも思っているんだろう」
「近くで言わないと願い石って効果ないのか?」
「そうだね、簡単な願いじゃないから近くで言わないとね」
「ん? よく考えたら閉じ込められた時、願い石で願って出ればよかったんじゃないか?」
「番号が分かっていないと鍵はあかないし、壊すわけにもいかないよ。奇妙なことが起こってたら願い石をつかった疑いが濃くなる。それにこの願い石は吸血鬼の身体を治す用で受け継がれた物だ。狙われないようにしないといけんから」
「つまり、何がいいたいかと言うと?」
「涼子との密室に憧れてました」
「それだけじゃないだろう? ヤりたいなとでも考えてただろ」
「はい! それはもう」
ローカはどうにでもなれといった表情で告白した。
「素直でよろしい、後でご褒美だ」
涼子は口を抑えて笑いをこらえている。
「ありがとうございます!」
ローカは照れた顔でお辞儀する。
「授業、始まるぞ」
そして、2年6組は科学の授業を受けた。
涼子は急いで教室へ帰った。
「人払いしてこれからのこと話すぞ」
「人払いの意味ないから、誰も俺等の近く通らないし」
「森忠さんに気をつけるってことだ」
「録画した内容、全部聞いたの?」
「これから、2人で聞こう。片耳イヤホンな」
「これなら空気読むよね、あったま良い~」
ローカはイヤホンを片耳にはめてケータイを注視する。
◇
教室が映る。眺めは良い。
「カエルとミミズ捕まえてきました」
開幕、出てきたのは一穂だ。
「あの吸血鬼の弱点は涼子よ。さあ涼子の椅子と机に忍ばせておきなさい」
菜由は自分で手をくださないようにいじめをしているようだ。
「まゆら、あいつがトイレ行ったら、水をかけてやろう」
ボブヘアーの原まゆらの声がする。
「俺は?」
「俊介はあいつが1人になったら、襲って、恥ずかしい写真を撮ってきて」
菜由は一人ひとりに指示を出す。まるで武将のようだ。
「黒板に悪口書いておこう」
「あいつが来るの遅かったらどうする?」
「悪口はやめといて、あいつの机の向き逆にしとくか。カンニングペーパー机の裏に貼っておく?」
菜由は彼を目の端に捉えたらしく、凄みをきかせた顔で見た。
「やめようよ。星野輪も岬浦も何もしてないじゃん」
龍海は眉間にシワを寄せ、抗拒する。
「あの2人あたしに喧嘩売ってきたの、知ってるでしょ?」
「言い方に語弊があるよ。岬浦は素直で筋を通す人だ。星野輪も案外優しいよ。悪口言ってるの見たことない」
教室に誰かが入室してきた。
「おはよう、紗奈」
「おはよ、昨日言った通り無視しておいた」
紗奈は冷ややかに笑った。
「ねえ、来たよ、吸血鬼!」
「無視よ、喋ったらその人も仲間はずれにするから」
皆は各々、仲良く話している風に装った。
そこへローカが先に入り、約5分後、涼子がやってきた。
「おはよう、涼子」
「おはよう、ローカ」
涼子は挨拶しながら、戸惑ったように周りを見た。
「うーん、タイミングがいいこった」
涼子は一瞬止まって、リュックを机に置き、ビニール袋を出す。そして、カエルとミミズを慈愛あふれる手つきで袋の中にどかした。
その後、涼子がいなくなった教室は騒然とした。
「一体何なの。あいつの落ち着き様! Gでも入れとく?」
「やだよ、見るのも嫌!」
「紗奈なにか面白いことない?」
「勇っち、あいつと友達になったふりして色々聞き出して。1人の時狙うから、その時間もね」
「えー、うーん、わかったよ」
勇は小さく答えた。
◇
「それで嘘をついたの?」
ローカは1人怒る。
「いやシングルになるのは本当だろう。お前は森忠さんの何を見たんだよ」
涼子は画面の一時停止ボタンを押した。
「皆次の授業、自習だって! プリント配るぞー」
龍海が聞きに行ったらしく、皆は安堵の息をついた。
「数学の授業が自習か」
「なら、このまま見れるね」
「そうだな」
◇
また、動画を再生させた。
昼休みまでは平和そのものだった。
涼子の後ろから振りかぶって空き缶を投げる菜由が写っていた。
中学の頃、菜由はハンドボール部に所属していたのでコントロールが良かった。
「いって!」
涼子が痛がった後、涼子はローカとゴニョゴニョ話しして、トイレに向かう様子が伺えた。
「トイレ行った!」
「行くよ、まゆら」
2人は水の入ったバケツを手にして涼子を追いかけてきた。
この後は起こった通りだ。
大していじめは靴を隠されたくらいだ。
次の日の動画は何も起こらず。
そしてまた次の日、画鋲事件の起きた日のこと。皆が体育でいない時だった。
清十郎と千夏が教室に侵入している。
「今なら、6組の人体育で出払っているので吸血にちょうどいいかと」
「そうねえ。清十郎くん。音楽室だと人がいるものねえ」
そういえば、今、音楽の教育実習で谷山莉子という女性の実習生と大沢秀という男性の実習生が来ている。
「でも、物足りなくなってきたからそろそろ従えてる吸血鬼共の餌にしようかしら」
千夏が言うと、その瞬間しんとした。
「…………そう言わないでください。先生のお陰で8センチも伸びたのですから、私の救世主です」
「ふふん。まあいいわ、腕出しなさい」
千夏の身長は小柄で150センチ程だ。
清十郎も小柄で160センチ程だ。太い腕を前に出す。
千夏は迷いもせずに食らいついた。
「ゔうっ……くぁ……」
清十郎はうっとりとして、小刻みに震える。
しばらく見ていると、千夏が清十郎の手を離した。手の傷は凝固しているようだ。
「今度の日曜日、うちにきなさい」
「何時頃ですか?」
「そうね、午前2時」
「……午後の間違いでは?」
清十郎が聞き返すと、千夏はにっこり笑って答える。
「午前2時、この学校の前に待ち合わせね。他の誰かや警察を呼んだら、あなたの妹の明日香ちゃんがどうなるか?」
「わかりました」
清十郎は真剣な顔で何度も頷いた。
涼子は思った。
(渋谷君は操られていると思い込んでいるんだな)
それから、2人は出ていって、教室はがらんとあいていた。
「日曜日か」
「どうする?」
「泳がせよう。もしかしたらブラッティーギャングに繋がるかもしれない」
キンコンカンコーン
授業の終わりを知らせるチャイムがなった。
「後で、お互い動画チェックしよう」
涼子はイヤホンとケータイをリュックにしまう。
「ローカ、トイレ行こう」
「連れションか! ついに男子トイレつかう日が来るとは」
「ちげーよ、また水ぶっかけられないように見守っていてほしいんだよ。トイレの前で」
「いいよ。小? 大?」
「キモいんだよ、何聞いてんだよ?」
2人は移動する。
「すぐ戻るから。絶対待ってろよ。待ってなかったらぶっ飛ばす」
涼子は女子トイレに駆け込んでいった。すぐに用を足して手を洗い、戻る。
ローカはケータイでゲームをしていた。
「ガチャ当たらねえな」
「何やってるんだ?」
「あー、なんでもない」
「カメラとったから、録音してくれるか?」
「わかった」
ローカは少しケータイをいじってポケットにしまう。
教室に戻ると龍海と菜由が言い合いをしていて、涼子が帰ってくると皆黙った。
「信じられないな。あの子が無作為な狩り方をしているとは」
「しょうがないよ」
「間違いありません」
ケシーは棒アイスをかじって食べる。
「そこまで言うなら、記憶を見て、リコヨーテに行こう」
「あたしは帰るぞ。さっさと宿題して飯食って寝たい。寝不足が続いてるんだ」
涼子はクマをコンシーラーで隠す生活をしていた。最後の一口、アイスを食べた。
「じゃあね」
「おう、またな」
「さようなら」
「またな」
涼子はちょうどよくやってきた赤石の車に乗り込んだ。
「緑の子は見ない顔ですね」
「カエルの少年だ」
「そういえば、お嬢様の言っていた吸血鬼のことがわかりました」
「さっそくだな、何だ?」
「今、吸血鬼の芽川千夏は、昔の同僚で同い年の夢野亜紀らしき人と一緒に暮らしているようです」
涼子は驚愕の表情に変わる。
「仲いいのか?」
「はい。手を繋いで繁華街を歩いていたということでして。ただ、気になっていることが1点。夢野亜紀の身長が小学生から中学生くらいの高さなんです」
「吸血されてるんだ。そうか! 飽きないように男子高校生の血を飲みながら!」
「どういたしましょう」
「夢野先生が操られてないか調べなくちゃだな」
涼子はローカに電話をかける。しかし繋がらない。電源自体を切っているようだった。
「カエル少年を襲っていた吸血鬼も分かった」
涼子はもったいぶって息を吸う。
「森忠勇。同級生。親が離婚するかもしれない」
「吸血鬼ということは両親のどちらか、または片方が吸血鬼ということですね」
やがてホテルについた。そのため、一旦ローカへの電話をかけるのを辞めて、入浴しに行く。
シャワーを浴びて身体と髪を洗うと露天風呂に10秒だけ入って出た。
明日の準備に取り掛かった。
◇
次の日。木曜日。
涼子は早くホテルを出て、学校の校門に差し掛かった時、ローカと合流した。
「おはよう」
「おはー」
「昨日どうだったんだ?」
「黒だった。珍しいことに半月の血を飲んでる。だから吸血中毒もなくす。ただ、半月狩りを辞めさせるには現場を見張っていないといけないらしくて。時の手帳で見てみたけど、込み入った事情があるんだ」
「シングルマザーのことか?」
「そう、父親がキャバクラで知り合った女の子にうつつ抜かしている。あの家は父親が吸血鬼で母親は一般人なんだ。毎晩喧嘩が絶えないようだね」
「それが何の関わりがあるんだ? それでストレスから半月狩りをしているとでもいうのか?」
「金だよ。学費を稼ぐのに大変らしい」
「あー、金になるんだっけな。半月の血」
「テイアで稼いでくればいいのに」
「テイア?」
「リコヨーテの元あった場所だよ。そこには金になる月影がうようよいてな。はるか上空にあって、そこに行くにはある曲の演奏ができることが必要だ。後で、森忠に教えてやる」
「知ってて、あえてこっちで半月狩りをしているんじゃないのか」
「その可能性もあるにはある、それなら、武楽器を回収する」
ローカと涼子は教室に入る。
今日も一番乗りだった。
「あたしもテイアに行ってみたいな。そうだ、勇と一緒に行こうか?」
「危ないところだぞ? いいの?」
「大丈夫だ。ローカがいるじゃねえか」
「うーん、じゃあ、今日は少し遅くなるように伝えてくれ」
「オッケー、執事と森忠さんにチャットしとくな」
涼子はケータイを片手でいじっている。
「放課後あいてるらしいぞ」
「うん、じゃあ、宜しく。放課後だな」
「おう。ケシーもくるのか? 一応狙われてたけど」
「あー、悩む、いや、無理っぽいと思う」
「ほう、留守番か」
涼子は仕掛けていた監視カメラをとってリュックの中に放り込んだ。
教室のドアが開いた。
話したことのない男子が来た。
「じゃあ、そういうことで」
涼子は自分の席につき、自主学ノートを広げた。
宿題のノルマは2ページだが、毎度5ページ進めている。
◇
キンコンカンコーン。
チャイムが朝の挨拶のように鳴り響いた。
涼子は時間を忘れるほど没頭していた。
「おはようございます」
担任の声が耳に触る。
「「「おはようございます」」」
「今日も一日、暑いですがこまめな水分補給をして乗り切りましょう。宿題の自主学ノートを出してください」
担任はめんどくさそうにいう。
涼子の列は1番後ろの席の勇がノートを回収した。
全員が自主学ノートを提出する。
「それでは、ショートホームルームを終わります」
担任は教室外に出た。
「ローカ、移動教室だぞ」
「んえ? 眠りそうだった」
ローカの声を聞きながら、涼子はケータイを取り出した。
「渋谷君どうなったかな? 罠にかかったかな?」
「んえ? 何かしてるの?」
ローカの声の傍ら、涼子は不敵な笑みをうかべて、ローカを見る。さっきとった、監視カメラのマイクロSDカードをケータイにつなぐ。イヤホンも忘れない。
先に涼子が清十郎に言ったのは「ふーん、じゃあさ今度吸血される時動画とっといてよ。監視カメラ2年6組についてるから芽川先生を誘導して」とのことだった。
いじめの様子も吸血の様子もばっちりとってありそうだ。
「ローカにも送っておくぞ」
「お前って怖いな」
「まあな、ありがとう」
「褒めてないから」
ローカもケータイをいじる。送られてきた動画を見ている。
『物足りなくなってきたからそろそろ従えてる吸血鬼共の餌にしようかしら』
ローカは大きな音量で芽川千夏の声を流してしまった。
「ローカ! 音量!」
涼子は慌てだす。
奇跡的に誰も振り向かずに聞かれていなかったようだ。
ローカはイヤホンをつけて聞く。
「すまんって」
「気をつけろよな。しかし、ひどくねーか?」
「んね、まだ操っているとでも思っているんだろう」
「近くで言わないと願い石って効果ないのか?」
「そうだね、簡単な願いじゃないから近くで言わないとね」
「ん? よく考えたら閉じ込められた時、願い石で願って出ればよかったんじゃないか?」
「番号が分かっていないと鍵はあかないし、壊すわけにもいかないよ。奇妙なことが起こってたら願い石をつかった疑いが濃くなる。それにこの願い石は吸血鬼の身体を治す用で受け継がれた物だ。狙われないようにしないといけんから」
「つまり、何がいいたいかと言うと?」
「涼子との密室に憧れてました」
「それだけじゃないだろう? ヤりたいなとでも考えてただろ」
「はい! それはもう」
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「素直でよろしい、後でご褒美だ」
涼子は口を抑えて笑いをこらえている。
「ありがとうございます!」
ローカは照れた顔でお辞儀する。
「授業、始まるぞ」
そして、2年6組は科学の授業を受けた。
涼子は急いで教室へ帰った。
「人払いしてこれからのこと話すぞ」
「人払いの意味ないから、誰も俺等の近く通らないし」
「森忠さんに気をつけるってことだ」
「録画した内容、全部聞いたの?」
「これから、2人で聞こう。片耳イヤホンな」
「これなら空気読むよね、あったま良い~」
ローカはイヤホンを片耳にはめてケータイを注視する。
◇
教室が映る。眺めは良い。
「カエルとミミズ捕まえてきました」
開幕、出てきたのは一穂だ。
「あの吸血鬼の弱点は涼子よ。さあ涼子の椅子と机に忍ばせておきなさい」
菜由は自分で手をくださないようにいじめをしているようだ。
「まゆら、あいつがトイレ行ったら、水をかけてやろう」
ボブヘアーの原まゆらの声がする。
「俺は?」
「俊介はあいつが1人になったら、襲って、恥ずかしい写真を撮ってきて」
菜由は一人ひとりに指示を出す。まるで武将のようだ。
「黒板に悪口書いておこう」
「あいつが来るの遅かったらどうする?」
「悪口はやめといて、あいつの机の向き逆にしとくか。カンニングペーパー机の裏に貼っておく?」
菜由は彼を目の端に捉えたらしく、凄みをきかせた顔で見た。
「やめようよ。星野輪も岬浦も何もしてないじゃん」
龍海は眉間にシワを寄せ、抗拒する。
「あの2人あたしに喧嘩売ってきたの、知ってるでしょ?」
「言い方に語弊があるよ。岬浦は素直で筋を通す人だ。星野輪も案外優しいよ。悪口言ってるの見たことない」
教室に誰かが入室してきた。
「おはよう、紗奈」
「おはよ、昨日言った通り無視しておいた」
紗奈は冷ややかに笑った。
「ねえ、来たよ、吸血鬼!」
「無視よ、喋ったらその人も仲間はずれにするから」
皆は各々、仲良く話している風に装った。
そこへローカが先に入り、約5分後、涼子がやってきた。
「おはよう、涼子」
「おはよう、ローカ」
涼子は挨拶しながら、戸惑ったように周りを見た。
「うーん、タイミングがいいこった」
涼子は一瞬止まって、リュックを机に置き、ビニール袋を出す。そして、カエルとミミズを慈愛あふれる手つきで袋の中にどかした。
その後、涼子がいなくなった教室は騒然とした。
「一体何なの。あいつの落ち着き様! Gでも入れとく?」
「やだよ、見るのも嫌!」
「紗奈なにか面白いことない?」
「勇っち、あいつと友達になったふりして色々聞き出して。1人の時狙うから、その時間もね」
「えー、うーん、わかったよ」
勇は小さく答えた。
◇
「それで嘘をついたの?」
ローカは1人怒る。
「いやシングルになるのは本当だろう。お前は森忠さんの何を見たんだよ」
涼子は画面の一時停止ボタンを押した。
「皆次の授業、自習だって! プリント配るぞー」
龍海が聞きに行ったらしく、皆は安堵の息をついた。
「数学の授業が自習か」
「なら、このまま見れるね」
「そうだな」
◇
また、動画を再生させた。
昼休みまでは平和そのものだった。
涼子の後ろから振りかぶって空き缶を投げる菜由が写っていた。
中学の頃、菜由はハンドボール部に所属していたのでコントロールが良かった。
「いって!」
涼子が痛がった後、涼子はローカとゴニョゴニョ話しして、トイレに向かう様子が伺えた。
「トイレ行った!」
「行くよ、まゆら」
2人は水の入ったバケツを手にして涼子を追いかけてきた。
この後は起こった通りだ。
大していじめは靴を隠されたくらいだ。
次の日の動画は何も起こらず。
そしてまた次の日、画鋲事件の起きた日のこと。皆が体育でいない時だった。
清十郎と千夏が教室に侵入している。
「今なら、6組の人体育で出払っているので吸血にちょうどいいかと」
「そうねえ。清十郎くん。音楽室だと人がいるものねえ」
そういえば、今、音楽の教育実習で谷山莉子という女性の実習生と大沢秀という男性の実習生が来ている。
「でも、物足りなくなってきたからそろそろ従えてる吸血鬼共の餌にしようかしら」
千夏が言うと、その瞬間しんとした。
「…………そう言わないでください。先生のお陰で8センチも伸びたのですから、私の救世主です」
「ふふん。まあいいわ、腕出しなさい」
千夏の身長は小柄で150センチ程だ。
清十郎も小柄で160センチ程だ。太い腕を前に出す。
千夏は迷いもせずに食らいついた。
「ゔうっ……くぁ……」
清十郎はうっとりとして、小刻みに震える。
しばらく見ていると、千夏が清十郎の手を離した。手の傷は凝固しているようだ。
「今度の日曜日、うちにきなさい」
「何時頃ですか?」
「そうね、午前2時」
「……午後の間違いでは?」
清十郎が聞き返すと、千夏はにっこり笑って答える。
「午前2時、この学校の前に待ち合わせね。他の誰かや警察を呼んだら、あなたの妹の明日香ちゃんがどうなるか?」
「わかりました」
清十郎は真剣な顔で何度も頷いた。
涼子は思った。
(渋谷君は操られていると思い込んでいるんだな)
それから、2人は出ていって、教室はがらんとあいていた。
「日曜日か」
「どうする?」
「泳がせよう。もしかしたらブラッティーギャングに繋がるかもしれない」
キンコンカンコーン
授業の終わりを知らせるチャイムがなった。
「後で、お互い動画チェックしよう」
涼子はイヤホンとケータイをリュックにしまう。
「ローカ、トイレ行こう」
「連れションか! ついに男子トイレつかう日が来るとは」
「ちげーよ、また水ぶっかけられないように見守っていてほしいんだよ。トイレの前で」
「いいよ。小? 大?」
「キモいんだよ、何聞いてんだよ?」
2人は移動する。
「すぐ戻るから。絶対待ってろよ。待ってなかったらぶっ飛ばす」
涼子は女子トイレに駆け込んでいった。すぐに用を足して手を洗い、戻る。
ローカはケータイでゲームをしていた。
「ガチャ当たらねえな」
「何やってるんだ?」
「あー、なんでもない」
「カメラとったから、録音してくれるか?」
「わかった」
ローカは少しケータイをいじってポケットにしまう。
教室に戻ると龍海と菜由が言い合いをしていて、涼子が帰ってくると皆黙った。
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