気付け薬をあたしにください

五月萌

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50 ジャズ喫茶で!

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日曜日。

きららの演奏を召使とケシー、涼子で聴いた。とても綺麗な音の繋がりは正しくジャズであった。
確実に腕を上げている。涼子と同じく、ジャズに本気で取り組んでいだ。

「いいですよ、ジャズのライブ行っても」

絵空は再び奇妙な笑みを浮かべた。

「良かったね、きららちゃん!」
「はい! ジャズ喫茶明日行きましょう。敬老の日で学校休みなんです」
「その代わり、俺も同行します、お昼を食べてから出るので14時にお嬢様はでられます。きらら様の家は16時につく予定です。涼子さんと同席になり、ジャズ喫茶に向かいます」
「マジ?」
「大マジです」
「しゃあねーな」

涼子は苦虫を噛み潰した様な顔で頷いた。

「私の先生も一緒ですか?」
「そういえば、知らないな」
「あ、私の先生を紹介します。宮原九条みやはらくじょう先生です」

きららはいつも持ってくるトートバックの中の宝箱を出して、開けた。中から出たのは奇抜な蜘蛛だった。黒色と茶色で10センチほどの細身の体を持ち、動き回っている。

「ぎゃあああ、蜘蛛だ!」

涼子は絵空の後ろに隠れた。

「お嬢様、半月のアシダカ軍曹です、落ち着いてください」
「敬称で呼ぶなよ、あたし、蜘蛛、苦手なんだよ」
「先生、人間の姿に戻ってください」

きららが言うと、蜘蛛が一瞬光り、人の姿に変わった。

「よっすー! 我の名はクジョー! アシダカグモをやっている」

黒髪の長い女性だった。きれいな黒い瞳で細身な体で黒色と茶色の軍服を着ている。

「この家には我の好物、いなさそうだ」
「当然ですよ! たなたんの使える家にGなんているわけないじゃないですかー」
「半月の場合のみの好物だがな。ふむ、それにしても広い家だなー」
「九条さん、いつも来てましたなら、早く紹介してくださればよかったのですが」

赤石は少し驚きながら喋る。

「ジャズに身が入れないだろ? 明日、我も人の姿でジャズ喫茶に同行してもいいか?」
「いいです、俺、絵空とお嬢様ときらら様と九条様で行きましょう。予約入れときます」
「ケシーは?」
「お留守番です」
「えー」

きららが拗ねるように反応した。
絵空は凍てつく目で見返す。

「じゃあ、そろそろ帰りましょう」
「我も」

九条は蜘蛛の姿に戻った。



次の日。
絵空がドアを開けると、涼子達はグワッとジャズの世界に飲み込まれていった。

まだリハーサル中だった。音が聞こえてくる。

「シーのジーセブンスのところインテンポで」
「最初ついてたけど、消した」

リハーサルをしている奏者達の会話が聞こえてくる。
裏口から人が入ってくる。何人もの人がジャズを聞きに来ているようだ。

「最初の曲は”Like Sameone In Love”です」

始まるようだ。

多くの人が体を揺らしながら聴いてる。

「次の曲は”Suite”です」

脳内で音と音が喧嘩している。ベースの音が和ませて仲裁しているように感じた。

「休憩を挟みます。皆さん各地から来てくださりありがとうございます。思う存分にジャズの世界をお楽しみください」

そうして、涼子はディナーのオムライスを食べていると、ボーカルのケイさんに声をかけられた。

「何か楽器をやっているの?」
「私達、ピアノをやってます」
「今ジャズピアノを練習中です」
「セッションしていく?」
「いえいえ、見ているだけで」
「料理が不味くなったらごめんね」
「いえいえ、美味しくなります!」

涼子は首をブンブンと振った。
きららと九条はチキンカレーを食べている。絵空はリゾットを食す。
休憩が終わると、”Autumn LeaveS”、俗に言う”枯葉”と、”The DayS of WInne And RoSeS”俗に言う、”酒バラ”を聴いた。。
ピアノ、コントラバス(ベース)、ギター、ドラム、ボーカル。
涼子はその日、たくさんのアドリブを聴いた。
最後のセッションの時間にサックス奏者の中年男性の方が飛び入り参加している。

「また来ます」

最高の時間だった。

「ありがとうね」

ケイさん他、ジャズバンドの方々が手を降った。
きららと九条を送り、涼子が邸宅に帰るときには日付をまたいでいた。

「いやー良かった、楽しかった」
「早く寝たほうがいいですよ」
「絵空はもっとご機嫌で話せないのか?」
「明日は学校、遅刻に気をつけたほうがいいですよぉ~?」

絵空は実践したが凍りつくような目で口元だけが不気味に歪んでて、ホラーゲームでいきなり幽霊が出たのではないかという程怖かった。声も不協和音のように高く、涼子の時間は一瞬止まった。

「いいから、出てって」
「今日は午後から早朝帯まで、邸宅を見張るという任務があります。許されない限り、部屋には入りませんが」

絵空は真面目な顔に戻った。

「そうか、おやすみ、また明日!」

涼子は逃げるように部屋に入っていった。ドアを後ろ手で閉めて、うずくまった。

「本気で死ぬかと思った」



次の日。

「ケシー、おはよう」
「すごいクマですね、大丈夫ですか?」

ケシーは早寝早起きを心がけていて、涼子より先にリビングに座っていた。

「ケシー、絵空には気をつけるんだぞ。あいつを笑わせるととんでもないことになるぞ」
「絵空さんとは生活の時間帯が異なっちゃっているので関わる事ないのですが。でも、心に残しておきます」

ケシーは味噌ラーメンをズルズルと食べながら、涼子を見た。

「あんたさ、もっと言うことあんだろがい! 何、ラーメンすすりながらきょとんとしてるんだよ」

涼子はブチギレる。

「え? 僕なにかしました? じゃねえんだよ」
「なんで僕の考えてること先読みできるんですか?」
「はあ、いい、もういい! ケシーにキレてもわかってもらえないからいいぜ、もう」

涼子は諦めて、ケシーの隣に座る。

「お嬢様、味噌ラーメンです」
「赤石、絵空をどうにかしてくれ」
「私にはいたしかねません。マスターの朝陽様に頼んでみては?」

赤石はラーメンを運んだ後、お冷を持ってきた。

「そうだな、後でお母さんに頼んでみるか。……いただきます」

涼子はラーメンを食べた後、ケータイを開く。

『お母さん、絵空をクビにしてくれ。アイツの顔怖すぎるぞ』

涼子は朝陽にメールを送った。

『修行から逃げようとしてない? あなたのためだから、強くなりなさい』

朝陽の即レスにびっくりする涼子はケータイをリュックにしまった。

「あの強面のどこが、あたしのためなのか?」
「まあまあ、変なことしてこないでしょう」
「してこないけど!」
「怒らないでください」

ケシーはカエルの姿になって、涼子のリュックに入った。

普通に1日が過ぎて、絵空の特訓の成果もあるのか、ジャズの腕はメキメキ上達していった。
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