東雲通りの文学喫茶

ShiotoSato

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True Ending

最後まで、分からない

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 真実を知った時。

それが、どんなに醜悪なものでも、あなたは受け入れられるだろうか?

少なくとも私は――受け入れられなかった。





 2024年1月16日。
『literary-café Atrare』の前。

そこに私は、佇んでいた。
そして――

「……詩織ちゃん?」

店の中から、一人の男性が出て来る。

「あ、日向さん。こんにちは」

「ああ、こんにちは。まだ開店前だけど……入る?」

「……あ。それじゃあお言葉に甘えて」





 いつも通り、窓際の席に座る。

「小説、2話まで読んだよ」

「小説って……ああ、僕のか。ありがとね」

日向さんは嬉しそうに笑った。

「実はもう全部完成してるんだ。予約公開っていうのを使ってみたくて――31日に2話分の予約をしてる。それで全てだよ」

「うん。それで――ちょっと話したいことがあって」

「ん……?」

少し強引な切り出し方だったが、気にしない。

「事件の犯人について、話がしたいの」

「え……」

「"吉祥寺の作家殺し"。その犯人が、一体誰なのか……」

声が震える。

今から自分が話そうとしていること。
それは全てを覆すような――ただ一つの真実。

思い切って、口にした。





「日向さん――あなたですよね?」





空気が硬直する。
目の前が歪んだような錯覚を覚える。

彼は驚いたような顔で、立ち尽くしていて。

それでも構わず私は続ける。

「……おかしいと思ってました。ずっと、腑に落ちなかった。琴夏さんのこと」

彼女を犯人と断定するには、あまりにも証拠が少なかったからだ。

「だから琴夏さんとの会話を、自分なりに、頭の中で何回も反芻したんです。なにかおかしな所が無かったかどうか」

琴夏さんが居なくなるその日までの会話。

「そして――違和感に気付いたんです。でもそれは、彼女のじゃない。の言動に強い違和感を感じました」

「……どういうことかな?」

日向さんは、涼しげに笑った。

「……あなたは、誘導をしていたんです。事件が思った通りの方向に向かうように」

「誘導……?」

「ええ。例えば……動画サイトのコメント欄に、あなたを犯人だとする謎のコメントが投稿された時」

あの時も、みんなで事件のことについて話し合っていた。

「みんなが危険に晒されてるかもしれない――そんな話になって、明彦さんは警察に相談することを提案しました。でも……あなたは、"犯人に逆上されるかもしれない"という理由で、それを止めた」

「……」

「あの時は気が気じゃなかったし……それで納得したけれど。見方によっては、警察に相談することが日向さんにとってなにか不都合みたいな――そんな風に聞き取れます」

それから、他にもおかしな点があった。

「あなたはなぜ、この事件のことを小説にしようと思ったのか……」

「それなら言ったはずだよ。事件のありのままを伝える為だって」

「いいえ――それは、嘘」

私はきっぱりと言い切った。

「そもそも前提が違った。あなたは、事件のことを小説にしたんじゃなくて……」

(そう、日向さんは――)

「――

「……」

「『東雲通りの文学喫茶』、紹介文の最後――あなたはこう綴っている。"自信作です"……と」

「それが、何か……?」

「事実を伝える為の作品だったはずなのに……この文言は、おかしいと言ってるんです。これじゃまるで――だ、みたいな言い方じゃないですか」

「……」

そして、もう一つ。

「最後に……琴夏さんの部屋から見つかった犯行声明文。昨日、明彦さんが捜査協力で読ませてもらったらしいんですが」

「……」

「あなたが書いた小説の原稿の文字と、犯行声明文の文字――驚くくらい似ていたらしいです」

おそらく筆跡鑑定をすれば丸分かりだろう。

「桐谷日向さん。あなたが――この事件の、真犯人ですよね?」

私は、大きな声でその言葉を突き付けた。
すると――

「……お見事だ、詩織ちゃん。君のその鋭い推理は一体、どこで培われたんだい?」

飄々とした調子で言った。
私の方も、真実を告げなきゃいけない。

「……私の父親の影響です」

「父親……?」

「田邊一郎。それが、父の名前……」

その言葉に、彼は大きく口を開いた。

「父が殺される前の連絡、この喫茶店で途絶えていたんです」

「それで……そうか」

「私がここに学校をサボってまで来た理由――やっと分かりましたか?」

彼は静かに頷く。

「ここに、個人的な調査をしに来たんです。何か事件の手掛かりがあるかもしれない……そう思って」

「……」

「最初、私は……同業者の作家の先生か誰かに殺されたんじゃないか、と睨んでました。明彦さん琴夏さんはもちろんのこと、あなたのことだって1ミリも疑っていなかった」

「でもそれじゃ……どうして、苗字を偽ったんだ?」

「それは、ここで――田邊一郎の娘として過ごすのは危険だと思ったからです」

例え相手が、どんなに信頼している相手でも。
自分の情報がどんな形で漏れ出すか分からなかったからだ。

「日向さん。あなたの動機はいったい?」

「……復讐だよ。田邊先生へのね」

「え――?」

「ははは……尊敬していた先生に、自分の作品を貶された気持ち……詩織ちゃんには分からないだろ?」

「まさか……」

「そう。僕が参加した年の、小説コンテストの選考委員――田邊先生だよ」

衝撃が走る。

「僕のプライドは滅茶苦茶になった。だから――サイン会の時、殺そうとしてやろうと目論んで。そんな時、明彦に出会った……」

「……」

「まあそれは良いんだ。とにかく――この事件はそんな先生に対する、完璧な復讐。僕の作品を貶した先生自身を事件に取り込み、自作自演で世間の注目を集めて、僕の小説は評価を得る――」

「……」

「そして――誰かに、僕が犯人だと暴いてもらうところまで想定済みだ」

「え……」

突然、彼は自分の頭に拳銃を構え。

「"吉祥寺の作家殺し"事件は――"作家"の死によって、幕を閉じる――!!」

私は咄嗟に彼の元へ駆け寄り――

「ふぐ……っ」

鳩尾に、強烈な膝蹴りをお見舞いした。
倒れ込む彼。

「あなたは作家なんかじゃない……ただの、人殺し」

「……」

「ちゃんと、罪を……償って」





 琴夏さんは、日向さんの家に身柄を拘束されていた。幸い命に別状はなく。
これが二週間前、17日の出来事。

彼はひたすら……自分の正体が暴かれることを待っていたと言う。

そして今日は、2024年1月30日。

私の父が昔書いたと言う、日向さんの作品へのコメント。
出版社の方に協力してもらい、特別に取り寄せてもらった。

確かに、厳しいコメントが書かれているのが分かった。でも、最後の一行――

『ただ、他の作品にはない、素晴らしいオリジナリティがあります』

そう、書いてあった。

「……バカ」

『小説は最後まで読まないと分からない』――そう言ったのは、日向さん……あなたでしょう?




特別にアカウントへログインさせてもらって、ここまで真実を書きました。
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