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「――というわけでどうじゃ。もう一度、勇者してみないかね?」
あした映画でも行かない? とでも言うような、なんとも軽いトーンで管理者さんは言った。
ひさしぶりの再会を喜び、近況報告や雑談をして、一時間ほど経った頃だろうか。
管理者さんは、綿菓子のようにふわふわとした大ボリュームのあごひげを扱きながら、そんなことを提案してきたのだ。
「ふぉふぉ、まぁ突然こんなことを言われても驚くじゃろうが、おぬしにとってこれは悪い話じゃないと思うぞ?」
「いや、ちょっと、管理者さん? そう言われても……僕はもう」
「ふむ? なにか心配事でもあるのかの?」
「心配事もなにも……。管理者さんが一番よく知っているでしょう? 一度帰還した者はもう二度と召――、」
「それじゃよ!」
と、管理者さんが僕の言葉を遮った。
「え、な、なんですかいきなり」
「だから、それじゃと言っておろうに。“一度帰還した者はもう二度と召喚することはできない”というルールのことが気になってるんじゃろ?」
「は、はい。だって、このルールがあるから、僕はもう“向こうの世界”に帰れないわけですから」
「うむ。そうじゃな。それがルールというものじゃ」
「でしょう? このルールがある限り、僕は勇者どころか、向こうに戻ることすらできない。だから――」
「だから、そんなルールは無視すればいいんじゃ」
「……はい?」
「単純な話じゃ。“召喚”が無理なら“転生”すればよい」
……え。
ちょ、ちょっと待って。
ええ?
管理者さんの言葉に僕は目を丸くする。
いったいこのおじいさんは何を言い出しているんだろう。
「おぬし、本当に気付いてなかったのか? この“二度と召喚できない”というルールは、あくまで“召喚できない”というルールにすぎないんじゃよ?」
管理者さんが僕の顔を見て言った。
「であれば、召喚なんてもんは無視して、転生してしまえばぜーんぶ解決じゃ。……ふむ、本当に気付いてなかったようじゃの。愉快、愉快! ふぉーっふぉっふぉっ!」
管理者さんは豪快に笑い声を上げた。
僕はいま、まさに狐につままれたような顔をしていることだろう。
「あ、あの、えと、つまりこういうことですか? “召喚”はできなくても、“転生”ならできると?」
「うむ。その通り。おぬしが認識していたように、召喚ではもう向こうの世界に戻ることはできん。じゃが、転生という形であれば、それも可能というわけじゃ」
衝撃だった。
なんという……。
まさか、そんな手があったなんて……。
……とはいえ、まだ簡単にこの話を受け入れてはいけない。
分からないことや、不透明な部分はたくさんあるんだ。それらを確実にクリアしていかないといけないだろう。
だからまずは、一番大事なことを訊いておかなければ。
転生をするなら。
いや、転生をするということは、つまり――。
僕は逸る気持ちを抑えながら、管理者さんに質問する。
「……ですけど、管理者さん。転生をするということは、つまり生まれ変わるということですよね?」
僕の顔を見て管理者さんは頷く。
「そうじゃな。“召喚”とは、召喚主と契約を結び転移することを言う。一方、“転生”とは、ワシら管理者の権限において認められた者が新たなる命を得て生まれ変わることを言う」
管理者さんの返答を聞いて、僕の中で不安が膨らんでいくのが分かった。
やっぱり、そうか。
ということは、やはり、僕が転生したとしたら。
「僕がもし転生をしたら、確かに向こうの世界でもう一度暮らすことはできる。でも……それじゃ、仲間たちや、友人たち、街の人たちは僕のことがわからないんじゃないでしょうか」
転生し、向こうの世界に降り立つのは、“生まれ変わった別の誰か”だ。
僕の生まれ変わりなのだから、また僕であることも確かなのだけれど……。
僕はうつむいた。
冷静に話をしようと思っていたけど、こうして言葉にすると、思った以上にダメージは大きかった。
もし向こうに帰れても。
“生まれ変わった別人”では――。
「うん、それも心配いらんぞい」
……え?
「おぬしはおぬしのまま、転生することができるんじゃ」
え? え? どういうこと?
本日二度目の衝撃だった。
「ふぉふぉ、驚いとる驚いとる。……まぁ、確かに、これはちーっとばかし、裏技というか、ルールの抜け道みたいなものじゃなからな。おぬしも驚くじゃろうて」
そう管理者さんは言って、まるでイタズラを仕掛けようとしている子供のように、ニヤリと笑った。
「おぬしは救世の勇者である。世界を崩壊の危機から救った、紛れもない大英雄じゃ。そんなおぬしの存在は、あの世界の事象記録――
シンプルに言えば、世界そのものの記憶領域にハッキリと刻まれているんじゃよ。つまり、じゃ。ふぉふぉ、ここまで言えばもう分かるかの?」
「……つまり、向こうの世界に刻まれた、僕――瀬名朔哉という勇者に転生すればいい、と。そういう意味ですか?」
「ご名答じゃな。そうすれば、おぬしは、かつてのまま、向こうに帰ることができる。また、“みんな”と暮らすことができるんじゃよ」
管理者さんの言葉に僕はなんと返せばいいかわからなくなっていた。
だって、だって――
まさか、こんな日が来るなんて思ってもみなかったから。
気になることはまだまだある。
それでも。それでも僕は。
僕は。
「さぁ、管理者として改めて訊こう。瀬名朔哉よ――あの世界へ転生し、もう一度、勇者してみないかね?」
あした映画でも行かない? とでも言うような、なんとも軽いトーンで管理者さんは言った。
ひさしぶりの再会を喜び、近況報告や雑談をして、一時間ほど経った頃だろうか。
管理者さんは、綿菓子のようにふわふわとした大ボリュームのあごひげを扱きながら、そんなことを提案してきたのだ。
「ふぉふぉ、まぁ突然こんなことを言われても驚くじゃろうが、おぬしにとってこれは悪い話じゃないと思うぞ?」
「いや、ちょっと、管理者さん? そう言われても……僕はもう」
「ふむ? なにか心配事でもあるのかの?」
「心配事もなにも……。管理者さんが一番よく知っているでしょう? 一度帰還した者はもう二度と召――、」
「それじゃよ!」
と、管理者さんが僕の言葉を遮った。
「え、な、なんですかいきなり」
「だから、それじゃと言っておろうに。“一度帰還した者はもう二度と召喚することはできない”というルールのことが気になってるんじゃろ?」
「は、はい。だって、このルールがあるから、僕はもう“向こうの世界”に帰れないわけですから」
「うむ。そうじゃな。それがルールというものじゃ」
「でしょう? このルールがある限り、僕は勇者どころか、向こうに戻ることすらできない。だから――」
「だから、そんなルールは無視すればいいんじゃ」
「……はい?」
「単純な話じゃ。“召喚”が無理なら“転生”すればよい」
……え。
ちょ、ちょっと待って。
ええ?
管理者さんの言葉に僕は目を丸くする。
いったいこのおじいさんは何を言い出しているんだろう。
「おぬし、本当に気付いてなかったのか? この“二度と召喚できない”というルールは、あくまで“召喚できない”というルールにすぎないんじゃよ?」
管理者さんが僕の顔を見て言った。
「であれば、召喚なんてもんは無視して、転生してしまえばぜーんぶ解決じゃ。……ふむ、本当に気付いてなかったようじゃの。愉快、愉快! ふぉーっふぉっふぉっ!」
管理者さんは豪快に笑い声を上げた。
僕はいま、まさに狐につままれたような顔をしていることだろう。
「あ、あの、えと、つまりこういうことですか? “召喚”はできなくても、“転生”ならできると?」
「うむ。その通り。おぬしが認識していたように、召喚ではもう向こうの世界に戻ることはできん。じゃが、転生という形であれば、それも可能というわけじゃ」
衝撃だった。
なんという……。
まさか、そんな手があったなんて……。
……とはいえ、まだ簡単にこの話を受け入れてはいけない。
分からないことや、不透明な部分はたくさんあるんだ。それらを確実にクリアしていかないといけないだろう。
だからまずは、一番大事なことを訊いておかなければ。
転生をするなら。
いや、転生をするということは、つまり――。
僕は逸る気持ちを抑えながら、管理者さんに質問する。
「……ですけど、管理者さん。転生をするということは、つまり生まれ変わるということですよね?」
僕の顔を見て管理者さんは頷く。
「そうじゃな。“召喚”とは、召喚主と契約を結び転移することを言う。一方、“転生”とは、ワシら管理者の権限において認められた者が新たなる命を得て生まれ変わることを言う」
管理者さんの返答を聞いて、僕の中で不安が膨らんでいくのが分かった。
やっぱり、そうか。
ということは、やはり、僕が転生したとしたら。
「僕がもし転生をしたら、確かに向こうの世界でもう一度暮らすことはできる。でも……それじゃ、仲間たちや、友人たち、街の人たちは僕のことがわからないんじゃないでしょうか」
転生し、向こうの世界に降り立つのは、“生まれ変わった別の誰か”だ。
僕の生まれ変わりなのだから、また僕であることも確かなのだけれど……。
僕はうつむいた。
冷静に話をしようと思っていたけど、こうして言葉にすると、思った以上にダメージは大きかった。
もし向こうに帰れても。
“生まれ変わった別人”では――。
「うん、それも心配いらんぞい」
……え?
「おぬしはおぬしのまま、転生することができるんじゃ」
え? え? どういうこと?
本日二度目の衝撃だった。
「ふぉふぉ、驚いとる驚いとる。……まぁ、確かに、これはちーっとばかし、裏技というか、ルールの抜け道みたいなものじゃなからな。おぬしも驚くじゃろうて」
そう管理者さんは言って、まるでイタズラを仕掛けようとしている子供のように、ニヤリと笑った。
「おぬしは救世の勇者である。世界を崩壊の危機から救った、紛れもない大英雄じゃ。そんなおぬしの存在は、あの世界の事象記録――
シンプルに言えば、世界そのものの記憶領域にハッキリと刻まれているんじゃよ。つまり、じゃ。ふぉふぉ、ここまで言えばもう分かるかの?」
「……つまり、向こうの世界に刻まれた、僕――瀬名朔哉という勇者に転生すればいい、と。そういう意味ですか?」
「ご名答じゃな。そうすれば、おぬしは、かつてのまま、向こうに帰ることができる。また、“みんな”と暮らすことができるんじゃよ」
管理者さんの言葉に僕はなんと返せばいいかわからなくなっていた。
だって、だって――
まさか、こんな日が来るなんて思ってもみなかったから。
気になることはまだまだある。
それでも。それでも僕は。
僕は。
「さぁ、管理者として改めて訊こう。瀬名朔哉よ――あの世界へ転生し、もう一度、勇者してみないかね?」
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