25年目のハーデンベルギア〜あなたに会えて良かった〜

春 蓬

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12話  愛しい人…

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『翔太?』
えっ?翔太が家の前に居る…
翔太だよね?

『あ…うん…』
どうして…?
今日は誰も居ないってお父さん言ってたよね?
なんか 凄く痩せてるけど恋町だよな?

『何…?』
1年振りだ…
相変わらずキラキラした目をしてる…

『あ、うん…えっと… や、痩せたね?』
本当に随分痩せたな恋町…

『……。』
そんな事言うために来てる訳ではないよね?
誰に家の住所を聞いた?
凛子か紬季?
いや… 2人はそう簡単に家を教えたりしないはず
それに…2人と会うのさえ拒否してるのだから、翔太には教えないと思うし…

『ん……元気だった?』
何も話してくれないのか…
そうだよな
黙って俺の前から居なくなったんだもんな…

『帰って…』
胸が張り裂けそうだ
本当は会いたかった…
だけど 翔太は私と関わってはダメなんだよ…

『恋町…』
聞きたい事たくさんあるのに…
何も聞けないの?
涙が出てきそうだ
俺って 泣き虫なんだな…

『…ごめん。』
冷たく、迷惑そうにするんだ
そうしないと…抑え込んでいる気持ちが出てしまう

私は翔太の横に行き、家の鍵を開けた

『待って…』
恋町がすぐ横にいる…
このまま家に入られたら、2度と話す機会はない

俺は鍵を開けている、恋町の手を止めた

『!?』
一瞬 脈が止まった…
暖かい翔太の手が触れて 張り詰めてる緊張が解けそうになった

『少しでいい…話がしたい』
恋町の手は冷たくて荒れていた…
1年前は柔らかくて綺麗な手をしていたのに…
1年間 どうしていたんだろう…

本当に少しでいい…もう少しだけ一緒にいたい

『そう。ここで話してると人に見られるから玄関に入って』
少しだけ…今だけ…
翔太の顔、覚えておきたい
手に触れて…そんな欲が出てしまった

『じゃ…玄関まで』
理性を保たないとダメだな。
もうすぐお父さんも帰って来るはず…

『どうぞ…』
私は翔太を玄関に入れて、ドアを閉めた
そして自分は靴を脱ぎ廊下に立った

『お…邪魔します。ごめんね』
俺は玄関に入った
恋町が動く度に髪の香りがして、触れたい気持ちを堪えるのが大変だった

そして話したいとは言ったが…
1年以上も時間が経っているせいで、何から話せば良いのか…
『……』
俺は何も話さず、下を向いて腕時計を見た…
驚いた事に、約束の3時はとっくに過ぎていた
時間経つの早いな…

『今日…妹は研修、お父さんは展示会の後で接待。展示会にお母さんも急遽呼ばれて当分誰も帰って来ないから急にドアが開いたりはしないよ』
翔太…時間的に誰か帰って来るの気にしてるのか?
ずっと時計見て何も話さない…

『えっ!?お父さん、接待?そんなはずないよ!』
3時に家の前で、俺と待ち合わせしてるんだ
展示会って何?
接待の話もしてなかったし…

『どうして…お父さんが接待じゃないって思うの?』
もしかして、翔太は父に呼ばれた?
え…どういう事?

『あっ!』
俺は思わず大きい声を出した

いや…そういう事か…
“お会いするのを終わらせて頂きたい”って…
これで本当に最後だから
「終わらせなさい」…という事なんですね
女々しい俺と新しく歩き出す恋町の為に俺達を会わせてくれたんだ…恋町のお父さんは。

『なに…?』
もし父が翔太を呼んだのなら…
私が翔太を忘れる事が出来ていないって父はわかっていたのかも…

どうやって翔太を呼び出したのかはわからないけど、きちんと終わらせる為に私達を会わせてくれたのか…

『うん…今日お父さんとここで会う約束をしたんだ。でも来ないみたいだから…多分俺のせいで、こういう事になったと思う…ごめん。』
恋町のお父さんに感謝だな…
俺の気持ちを伝えれたら、恋町の背中を見送れるのかもしれない…

『翔太のせい?…ううん。もしお父さんがこの場面を作ったのなら…私が翔太を忘れる事が出来ないのを知ってて、翔太を呼んだのかも…』
父が用意してくれた最後の時間
きちんと「サヨナラ」しなさいって事なのかもな

『…お父さんが忘れさせるために俺達を会わせたとは思いたくない。俺は忘れないよ恋町の事…そんなの出来ないから…』
心臓を何かに握り潰されてる様に苦しい…

恋町も俺の事、忘れないでいてくれたのが嬉しいと思った
でも…忘れ様としてる
どうして?
俺との思い出は、もう邪魔だと言うのか?

『うん… ごめんね、突然連絡を絶って。事件の後…どうする事も出来なかった。翔太に会う勇気が出なかったんだ…そして翔太から逃げて、もう会わないつもりだった。でも…お父さんが私に時間をくれた、翔太にきちんと「サヨナラ」を伝える時間…。あのね…もう全然知らない人って私の事思って欲しい』
全然知らない人に…。
一緒に過ごした時間を、思い出の中に記憶してくれたら…それで良い

『なんだそれ… 全然知らない人になれ?無理言うなよ… 出会った時から今でも恋町が俺の1番愛しい人なんだよ?事件の後は仕方ないよ…それは少しずつ埋めて行こうよ』
恋町の背中を見送る…そう思っていた
でも
また抱き寄せて…また一緒に歩きたい…
恋町が辛かった時間を俺も分かり合いたい

そんな気持ちが溢れて止まなくなった…

『ありがとう…でもごめんね』
私もだよ翔太
私も翔太の事を1番、愛しいと思っているよ
誰よりも幸せを願っている…
だから 決めたんだ「サヨナラ」を。

『俺達、やり直せないか?』
『私! 私…結婚するの。東京も離れる…だからごめん…』
思わず…
嘘…ついてしまった
「やり直そう」なんて…
もう、これ以上 話していたら翔太を引き離せなくなる
嘘付いて…ごめん

『え……』
そんなのお父さんから聞いていない…
あ…言えなかったから?だから恋町の口から聞かせる為に…?
はは…ひどいな
傑作だよ 俺、さっきまで感謝してたよ…
徹底的に諦めさせるつもりだったのかな
そうだよな…
俺…目障りだものな

『もう 私達はやり直せないよ…』
自分が嫌になる
涙の1つも流さないで平気な顔をしている
翔太に本当の気持ちがわからない様にしてる…
翔太?そんなに辛そうな顔しないで…

『そう… わかった。あ、これお父さんに渡して?「お世話になりました」って』
迷惑をかけたのは事実。
突然、目の前から消えた恋町を求めて…
諦め切れない俺に付き合ってくれたお父さん…
この場面だって、俺の事を考えてくれたからかもな…
でもメンタル…ヤバいわ

『これ…』
『あ… 仕事のついでに寄って来たのさ。和菓子屋さんみたいな所で適当に選んだんだ 詳しくは話せないけど恋町のお父さんに世話になったからね』
どうせ後で中身を見たら、恋町の好きな物を選んだのがバレるけどね…

『私の好きなお店の…』
川本印刷の近くにあるお餅屋さん…
翔太にいつも、この店の話をしていたから知っているはず…

『そうだった?…ごめん、忘れてたよ。でも好きな店ので良かった!みんなで食べて…』
は… わざとらしい嘘付いてカッコ悪…

『……』
翔太が嘘を付いている

『じゃ…帰るね。会えて良かった…お幸せに。 さようなら…』
バカだなカッコつけて…
さようなら?
本当は…嫌なクセに。
俺は恋町の顔を見ずに外に出た
恋町から「サヨナラ」って言われたくないから。

『翔…』
翔太が「さようなら」を告げて出て行った…

今 ドアを開ければまだ間に合う、私の望みだけが叶う未来に…
翔太と一緒に過ごす未来。
でもその未来では、翔太の夢は叶わない
犯罪を犯した私と居れば…いつか会社に居辛くなる

私は玄関のドアにおでこを付けて泣いた
我慢していた涙が止め処無く流れた

これで良いんだ…


俺は恋町の家を出て、全速力で走った
終わったんだ…
これで良い
もう戻れない…
これで良いんだ
恋町は幸せになるんだ…
だから、これで良いんだ!!

自問自答しながら走り続けて、公園に辿り着いた
周りは薄暗くて、もう誰も居なかった
公園のベンチに座って、声を殺して泣いた
『どうして別れないといけないんだよ…どうして俺じゃない奴と結婚するんだよ…俺は恋町のなんだったののさ…』
手を差し伸べる事もさせてもらえず
何があったのかも教えてもらえず…
結局 
恋町の気持ちはわからないまま終わった…
『ああ…立ち直れねぇ』

恋町より好きになれる人現れるかな
しばらくは無理だな…

さようなら 恋町…。

さようなら 翔太…

『『幸せになってね…愛しい人。』』






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