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伊賀潜入作戦・2
しおりを挟む今回の伊賀潜入の目的の一つは、伊賀内から梯の味方を作ることだった。
そのターゲットとして綴と柊から唯一指名があったのが、五十嵐 刹那。伊賀一の体術を誇るとされる、優秀な忍びである。
初めて聞いた時は、そんな伊賀の主戦力な忍びを引き入れるなんて無茶、リーダー達らしくない。そう思った紗だったが、潜入して刹那と直接関わるようになった今改めて思う。
この人を梯につかせることなど、不可能なのでは?と。
話を聞く限り、伊賀の中心である立花家の当主・屍木と非常に親しい仲であり、更に五十嵐家というと代々伊賀の里長が選ばれやすい家系の者。
実際現在の長も刹那の血縁である朔であり、その朔の第二補佐的な位置である白雪も、なんなら十二支と伊賀者達に呼ばれている集団の猫憑き(十二支…?)も五十嵐の者らしい。更に、医療班で天才と謳われる杏子も五十嵐の一族だ。
空翔に近しいところで言えば十三歳という若さで直属班に所属し、活躍している桜日が五十嵐……というか、刹那の娘らしい。(潜入前は空翔を追うのに必死で気づかなかった)
そして何より、刹那本人が伊賀の直属班の管理をする十二評定衆の一人であり、しかも十二評定衆で唯一自らが班長となって任務に参加する現役の上忍。
五十嵐 刹那という忍びは、ここまで伊賀に癒着した家系の中心人物なのだ。当然、梯のことは排除するべき対象としか思っていないだろう。
……しかし、だからこそ。攻略が難しいからこそ、燃えるのだ。
綴達には刹那が厳しければ他を当たれと言われはしたが、紗は絶対に刹那を梯に入れると心に決めていた。
現在は桜日の同班という立場を上手く利用しつつ何度か直接話をし、徐々に親密度を上げている最中だ。
「おや空翔くん。今日も任務終わりかな?おつかれさま」
「刹那さん。こんにちは」
今日も紗は狼谷班での任務終わりに、桜日の鍛錬に付き合うという理由をつけて五十嵐家にお邪魔した。
「ふふ、最近よく来てくれるね。桜日がお友達を連れて来ることなど珍しいから、なんだか嬉しくなってしまうよ」
「と、父様…!そういう事は言わなくていいのですよ…!」
「僕も友達少ないので、一緒に鍛錬してくれる相手が桜日さんくらいしかいないんですよね、助かってます」
「僕〝も〟って言わないでください。桜日は友達が少ないわけではないのです。まだ出会っていないだけなのです」
「それ、どの道今は友達少ないってことじゃない?」
うっ…と言葉を詰まらせる桜日に、刹那がくふりと笑う。
「はっ、そうだ父様。今日このあと御用事は?」
「特にないが」
「なら…!是非桜日達に修行をつけてはくれませんか…!」
「わ、それいいね。僕からもお願いします」
「……お前達、私が見なくても十分強いではないか」
その言葉に紗と桜日は思わず顔を見合わせて「いやいやいや…」とハモる。
「ふ、はは。わかった、見てやろう」
「やったー」
「ありがとうございます父様!では行きましょう!」
刹那の両サイドを二人で固め、道場へと向かった。
***
「二人共、そろそろ休憩にしようか」
「はい…!」
持ち前の頭脳と器用さでどんどん教わったことを吸収していく紗…いや空翔に、刹那は楽しそうに色々なことを教えてくれた。
刹那の指導、それは紗にとってかなり有難く、新鮮なものだった。
梯でも周りの忍び達と鍛錬を重ねてはいたのだが、紗はどちらかというと頭脳担当。おかげで真面目に体術を学んだことはほとんど無かった。その為、刹那の指導はかなり身になる。潜入任務もこなしつつ体術も学べるとは、まさに一石二鳥。桜日の同班の空翔というポジションは、やはり最適だったと紗は改めて思った。
「桜日お茶入れてきますね」
「ああ、すまないね」
とたた、とお茶を汲みに行く桜日の背中を目で追ってから、縁側に腰を掛けた刹那の横に座る。
運が向いているのだろうか。刹那と二人きりというこの状況、紗にとっては好都合である。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「いやぁしかし空翔くんは飲み込みが早いね、驚いたよ」
「……刹那さん」
「ん?」
「僕、今まで烏達に頼ってばかりで、真面目に体術の修行をしてこなかったことに気づきました」
ほう、興味を持ったか?と心做しか嬉しそうな刹那。
「はい。なので、あの………」
分かりやすく先を濁しもじもじして見せると、刹那はじっと次の言葉を待ってくれる。相手は忍びだ。言わずもがな先は理解しているだろう。それでも言葉として、声に出す。
「任務の後じゃなくても…こうしてお邪魔してもいい、ですか…?」
もちろん梯の任務のため。
しかし同時に、本心からの思いでもあった。
それを聞くなり、刹那は少年の丸まった背中をばしりと叩いた。予想していなかった行動に戸惑いながら顔を上げた空翔の視界には、ニッと笑う刹那の顔が目に入る。
「体術も武器術もまずは姿勢から。うちの門下生になるならシャキッとすること!」
「…!いいんですか…!」
「とはいえ私も忙しいからな、いつでも見れるとは限らないが」
「あ、はい…それはもちろん承知の上…です」
それでも刹那にある程度自由に接触出来る立場を今、手に入れた。十分すぎるくらいの展開である。
「…さては敬語苦手だろう、お主。いいぞ、気を遣わなくて」
「へ、でも、刹那さん十二評定ですし」
「お主、案外上下関係を気にしたりするんだな。……ふ、さては桜日と睦の真面目さに影響されたな?」
「そう、なのかな……?あっ…」
「はは、案ずるな。火鼠の小娘なんかは初めから敬語など使っておらんかったからな」
それは流石にだめ過ぎないか…?という顔をした空翔に、刹那は「ま、私が許しているとはいえ場面は選んで使い分けるのが良いだろうな」と笑いかける。
「……なら、師匠と呼んでもいい…?」
「無論。改めてよろしく頼む、空翔」
そうこう話しているうちにお茶と茶菓子を持った桜日が戻ってきた。
「桜日、空翔ウチの門下生になったから」
「えっ……えっ!?桜日の不在に一体何が!?」
***
それから空翔として何度か刹那の道場に通った、とある日の帰り道。
いつも空を見上げて忍烏や鳥達と遊んでいる空き家の屋根の上で、道草を食う。
そろそろ、紗自身も桔流家に帰ることが億劫になってきた頃だった。
(空翔の気持ち、わかるなあ…)
紗にもわかるくらい、空翔の実家である桔流家はその他の家より少し息苦しいものだった。
空翔本人を監視していた頃は、帰れる家があるのに何日も帰らないことがあるなんて変わった子だな…反抗期かな…くらいにしか思っていなかった紗だった。しかし血縁者であるはずの者から向けられる冷たい目というものは、成り代わりである紗でさえそれなりに心に来るものがあった。
空翔の血縁者。彼等は、空翔のことをおそらく直属班での任務報酬を家に入れるだけの道具としか思っていない。
その目を実際に向けられたその時、紗は空翔と家族の間に距離があったワケを体で理解した。
それと同時に、空翔が空ばかり見上げ憧れを抱くようになった理由も、なんとなく分かった。
身一つで自由自在に飛び回ることは、人間には不可能だ。地上でしか生きられない時点で、人というものは視野の狭い生き物なのだ。
そんな無力でちっぽけな人間という生き物に、どんな目で見られようとどんな扱いをされようと、どうでもいい。一々息苦しさを感じることさえ馬鹿馬鹿しい。空を見上げていると、そんな気持ちになれるのである。
空翔もきっと、そうだった。
名は体をあらわすと言うが、その点で見れば空翔の両親はいいセンスをしていたと言えよう。
空を翔ぶ。
空翔は梯に目を付けられなければ、きっとこの名と共にこれから先もずっと空に憧れ続ける運命だったのだろう。
(ほんと、皮肉な名前……)
最近、紗は気づけば空を見上げ、少しでも近づこうとしている。
もはやそれは空翔のフリではなく、紗自身の意思だと思える程に、自然とついた癖だった。
(あーあ、帰りたくないなー……でもそろそろ雨…降るなあ……)
天時、天文は忍びにとって第五の大事である。故に紗は雨が降ることをとっくの前から分かりながらも、屋根の上から動けずにいた。
───サァァ……
数分もしない内に、空を見上げる彼の頬を雨が打ち始めた。
春が近づいて徐々に気温が上がりつつあるとはいえ、流石に雨は冷たくて。
(冷える、よね……)
それでも、風邪を引かない程度なら。
任務に支障が出なければ。
そうやって無駄にいい頭で瞬時に風邪を引いてしまった場合の言い訳まで考えて、空を見上───────
「…え?」
黒い羽を広げた〝それ〟と、目が合った。
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