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休暇六日目④敵の味方になれる理由
しおりを挟む部屋に戻り湯あみを済ませたレティシアとウィルフレッド。先にソファに座っていたウィルフレッドがやけに静かな様子だったのを不思議に思い、隣に静かに座る。ウィルフレッドの瞼は今にも閉じそうで、ウトウトし始めていた。
「ふふっ、疲れちゃったのね?」
「・・・うん?まだ、やれる」
「今は横になったら?ほら?」
レティシアはポンポンと自身の膝を叩いて見せた。虚な目でレティシアを見ていたウィルフレッドの身体がゆっくりと倒れてくる。膝に頭を預けると、途端にすぅすぅと規則正しい寝息を立て始めた。
「ほどほどって言葉を知らないの?いつだって無茶するんだから・・・」
外は少しずつ陽が傾き始め、オレンジ色に染まりつつあった。レティシアはウィルフレッドの寝顔を眺めながら昨日の話を思い出していた。自分の母親は、公にされてはいないがソハナスの王女だった。東の辺境へときた経緯はそれとなく聞いてはいたが、国の情勢をこうまで傾けてしまった原因を作ってしまった。確かに逃げた母が悪い。だが、逃げ出すほどの状況だったと言うのも事実。
「・・・ソハナス・・・何かいい手立てはないかしら・・・」
「・・・ん・・・んん・・・」
レティシアがポツリとこぼした事に反応するように、ウィルフレッドが微かに動いた。そしてゆっくりと目を覚ます。
「・・・シア・・・」
ウィルフレッドは手を伸ばし、レティシアの頬にそっと触れる。
「どうしたんだ・・・?何か、考え事か?」
「えぇ・・・ソハナスの事」
「ソハナスか・・・俺達にできることはないと思うぞ?この件はクレイドル殿と話して、一旦持ち帰る事にした。陛下に相談をしたがいいだろうし、何かいい案があるというなら陛下も力になってくださるだろう。レガルド殿もだいぶ参っているようだしな」
「そうね。今は悩んでも仕方ないわね」
「そうだ。今は俺を構っていればいい」
「・・・ふふっ、そうね。ねぇ、ウィル」
「なんだ?」
「明日、ここを発つでしょう?」
「あぁ」
「その前に、ちょっと確かめたい事があるの」
「確かめたいこと?」
「えぇ」
それからレティシアはウィルフレッドに昼間に気付いた事を話した。1人の騎士の恋。想いは届くのか、それとも・・・。
「そうなのか・・・あいつ、恋してんだな」
「前のウィルみたいね」
「前の俺な・・・片想いは中々に辛いんだ。あいつには同情する。叶ってほしいもんだな」
「相手が私じゃないってわかった途端味方になれるのね?」
「当たり前だ」
ウィルフレッドはレティシアの足に手を添えて、頬を擦り寄せた。どんなに実力のある騎士団長も、レティシアの前でだけは子猫なのか、子犬なのか、甘えてばかりなのである。
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