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相談相手と栄誉
しおりを挟む「全然気持ち悪くなどありません。むしろ嬉しいくらいですよ」
俯いていたミリアはアイオロスの言葉におずおずと顔を上げる。
「こんなに可憐な女性に見られていたなんて、もっと頑張らねばと気合がはいりますね」
ミリアは気持ち悪いと思われていなくてよかったとほっとしていたのも束の間、アイオロスの発した可憐なという言葉を頭で反芻し始めた。少なくとも自分は目の前の男に嫌われてはいないようだという喜びがじわじわと勝ってきた。その反面、アイオロスは必死に言葉を探して口に出した為、失礼にならなかっただろうか、機嫌を損ねていないだろうかと気が気ではなかった。
「俺は・・・いつもとそんなに違って見えましたか?」
「えぇ、随分と慌てていらっしゃったというか、悩み事でもあるのかと・・・」
「悩み事・・・そうですね」
目の前のミリアの事が好きでそれを言えずにいる。その上顔も名も知らぬ相手との縁談まで持ち出されて、なんと断ればいいのか悩んでいる。そんな事を目の前のミリアに言っていいものかどうか、言いあぐねてしまった。
「わ、私でよければ!」
「?」
「相談相手になりますわ」
勢い余って随分と大きな声で詰め寄ってしまったミリア。その距離感にしまったと気付いた時には遅かった。
「す、すみません!」
「いえ・・・」
ミリアもアイオロスも互いに真っ赤になり俯いてしまった。この空気は流石に気まずい。意を決して先に口を開いたのはアイオロスだった。
「で、では、少し話を聞いてくれますか?」
「は、はい!」
アイオロスは手を差し出すと、ミリアは照れながらも、その手に自身の手をそっと重ねた。アイオロスはミリアの小さな手から伝わる熱に、もしかして自分を意識してくれているのだろうかとドキドキしていた。
「こちらに座りましょうか」
アイオロスは自身の騎士服のマントをベンチに敷くとミリアに座るように促した。
「マントが汚れてしまいます!」
「いいのですよ。マントはこうやって使うこともあるんです。なんなら野営の時なんか、地べたに敷く事だってあるんですよ?」
「そ、そうなのですか?・・・で、では」
ミリアは緊張しながら恐る恐るマントの上に腰を下ろした。隣には鍛えられた体躯のアイオロスがいる。いつも眺めていただけの遠い存在。数年前に誘拐されそうになり助けてくれた憧れの人であり、初恋の彼。そんな男が隣にいるというだけでミリアは胸がいっぱいだった。
「俺・・・副騎士団長になる事が決まったんです」
「そうなのですか!おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
好きな人におめでとうと言って貰えることは何よりも栄誉な事のような気がしていた。
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