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ドアの向こうで

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近衛の詰所の執務室に宰相が現れたかと思えば、縁談の話で盛り上がり、アイオロスは焦っていた。


「ま、待ってください!」


縁談の話で盛り上がっていたアルバートと宰相は静かになり、アイオロスを見つめる。


「あ、えっと・・・その・・・俺は結婚など考えておりません」

「・・・それはどうしてだね。一生剣と生きていくとでも言いたいのかね?」


宰相は、怪訝な顔をしてアイオロスの様子を伺っている。


「そういうわけでは・・・ないのですが・・・」

「随分と歯切れが悪いね。アイオロス、何か言いたいことがあるのかい?」


アルバートはアイオロスに問いかけながらも視線の先は、ずっと向こうの扉にあった。アイオロスは俯いていた為、アルバートの視線に気が付いてはいない。


「・・・お慕いしている方がいるのです。ですが、俺が望んでいい方ではないので、叶わぬのならと一生騎士として生きていくとそれだけを思っております」

「アイオロス君」


宰相は正面に立ち、真剣な表情でアイオロスに声をかけた。


「は、はい・・・」

「殿下直々の縁談だ。まずは相手の事を知ってからでもいいのではないのか?」


宰相はゆっくりと問いかけるように話すが、アイオロスにとってその問いかけに返事をすれば後には引けない気がしていた。


「相手は誰であっても変わりません。俺は・・・好きな人がいるんです。その方でなければ、結婚など考えたくないのです」


言い切ったと、これで諦めてくれればとアイオロスは思っていた。だがその緊張は意外なもので急展開することになる。


「ん?」


後ろから啜り泣くような、しゃくり上げるような泣き声が聞こえる。それもドアの向こうから。気付けば少しだけ開けらているドア。意図的に隙間でも作ったようだった。


「誰か・・・いらっしゃるのですか?」


ドアの向こうに声をかけるも返答はなく、必死に泣くのを堪えているようである。アイオロスはアルバートと宰相に視線を送ると、振り返りドアの方へと歩いていった。少しだけ開けられていたドアを開くと、そこには、女性を胸で受け止め、トントンと一定のリズムで背中を叩いているレティシアがいた。


「団長夫人・・・えっと・・・」


レティシアが何も言わず、困惑していたアイオロスだったが、執務室の中から声がかかった。


「アイオロス君、娘との縁談がそんなに嫌だったかね?君があまりにも拒否するもんだから、ミリアが泣いてしまったなぁ」


宰相はどうしてくれるんだと言わんばかりに語尾を強める。


「っ!?・・・ミリア嬢・・・が・・・縁談相手!?」


アイオロスは宰相の言葉に敏感に反応した。信じられないとばかりに放心していた。



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