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好きな理由と甘え

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妻や婚約者がいなかった理由を、レイラは騎士の仕事が忙しかったからだと思った。だが、レイバンは、ずっと一人だけを想っていて、他の女性など眼中になかった事を話していた。


レイバンはじっとレイラを見つめる。



「俺達には幼い頃の思い出しかない。だが、レイラが心の中にいて、忘れられずにいたことは変えがたい事実だ。大人になったレイラはどんな姿になっているんだろうか。誰かと恋をして、夫がいて、もしかしたら子どももいるかもしれない。俺の入る隙なんてないかもしれないと。もしそうだったら、潔く諦める覚悟はしていた。だが、陛下の温情により、この地に戻ってくる事が決まり、もしかしてと期待した自分がいた。待っていてくれるなんて都合のいい話はない。だが、もしも、もしも待っていてくれたならと期待せずにはいられなかった。そしてレイラは・・・」


レイバンは繋いだ手をぎゅっと握る。


「とても素敵な女性になっていた」


微笑むレイバンに、いたたまれなくなったレイラ。


「す、素敵だなんて・・・子ども達を追いかけ回しているだけのなんの取り柄もない女です」

「それだ」

「え?」

「王都の貴族女性は子どもを追いかけ回したりはしない」

「うっ・・・」

「人前でぐしゃぐしゃに泣いたりいない」

「・・・っ」

「威勢よく自分が盾になって人を守ろうなんてしない」

「・・・」


レイバンが語ることに、レイラはもう、何も言い返せなかった。自分がどれだけ女性らしくないのかと思い知らされているようだった。だが、その心はすぐに優しく包まれる。


「だからいいんだ」

「?」


レイラはレイバンが何を言いたいのかがわからなかった。


「俺は駆け引きなんて苦手だ。好きなら好きと、嫌なら嫌と。思った事を素直に態度に出せるのがいい。貴族のやり取りなんて、言葉の裏側を探るようなもんだ。どこまでが本当か、何を言いたいのかなんて、毎度考えなければならん。そんなんで心が休まるか?少なくとも俺はごめんだ。レイラ・・・お前の無邪気さがいい。お前の素直な感情がいい。そして俺は・・・お前に甘えたい」


そういってレイバンは、寝台に腰かけるレイライの膝に頬を擦り付けるように甘える。


「レ、レイバン様!?」

「嫌だったか?」

「い、嫌ではありませんが・・・少々驚きました」

「くくっ、そうか。団長がこうやって奥方に甘えているのを見て、心底羨ましかったんだ。やってみたかった」


真っ赤になって微動だにしないレイラ。レイバンはそっと見上げると、口を開いた。


「レイラ・・・俺の、俺だけのものになってくれるか?」

「・・・わ、私でよろしければ・・・」

「では・・・ライエルにちゃんと謝らないとな。悪いことをしてしまった」

「そうですね、ふふっ」


そうして二人は恋人となった。貴族ではない二人には、婚約者という関係ではなく、この形が自然だっただろう。



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