お嬢さんはある日森の中で熊さんに出会った

agapē【アガペー】

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番外編

再びの熊

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アリエルとリシェリアにはもう一人子が産まれた。一人娘の王女リリエラだ。リリエラは、色も見目もリシェリアを小さくしたような、これまた美少女であった。


同年代の令嬢の屋敷にお茶に呼ばれる事も多く、リリエラが茶会に参加をしてくれる事は、貴族の令嬢達の中ではステータスとなっていた。


ある侯爵家で開かれたお茶会に出向いたリリエラ。侯爵邸の庭に足を踏み入れると、なんとも素敵な庭園があった。格式ばった豪勢さはないが、あたたかみがあり気に入った。とても居心地のいい庭園を手掛ける庭師に会ってみたいと思った。茶会の席で、庭師に会わせて欲しいと話すも、渋い顔をされる。


「あんな熊のような男に会う必要などございませんわ。元は騎士だったのですけれど、護衛につけるにも外に連れて行くのが恥ずかしくて、騎士の任を解きましたの。それで現在は庭師をしています。元々体力はありましたもの。天職だったのでしょう」


侯爵令嬢が言う。しかし、リリエラはだから何?という態度でその場を辞することにする。


「気分がのりませんわ。お庭の散策でもしてお暇しますわね」

「リリエラ様、でしたら私が案内いたしま、」

「必要ないわ。これ以上気分を悪くさせないでくれるかしら?では、失礼するわ」


この茶会の不始末は社交界では格好の噂になった。侯爵家は王女の気分を害したとして、貴族達は距離を取るものも増えていった。それだけリリエラの存在が確固たるものへとなっていた。



「素敵なお庭ね」

「?・・・ご令嬢、お茶会会場は方向が逆ですよ?」

「お茶はもう結構。私ね、あなたに会いたくてこっちに来たの」

「私に・・・ですか?」

「えぇ、あなた王宮に来ない?」

「王宮!?・・・って、もしかして・・・リリエラ王女殿下であらせられましたか・・・お顔を存じ上げないとはいえ、大変失礼を致しました」


ガタイのいい熊のような男は、体を直角と言っていいぐらいに折り曲げ頭を下げた。


「顔を見せて?」

「へっ!?」


頭を上げろと言われるかと思ったが、リリエラが発したのは、顔を見せろだった。驚いた男は反射的に顔を上げる。


「いいわ・・・やっぱり王宮に来ない?」

「わ、私には王宮の庭など、荷が重すぎますよ!」

「何を言ってるの?誰が庭師として来なさいと?」

「・・・えっ・・・と・・・」

「騎士としてよ」

「き、騎士として・・・ですか」

「えぇ、私決めたわ!あなたを私の専属護衛にするわ!」


その日の内に、侯爵家に彼を王宮に出仕させるよう通達が入り、男は即座に王宮へと向かうことになった。


男の名は、セドリック・カスバル、27歳。カスバル子爵家の次男。セドリックは近衛騎士となり、リリエラの専属護衛としての任を与えられた。アリエルにも引けをとらない熊のような男で、濃い茶色の髪がさらに熊っぽさを醸し出していた。これまで婚約者がいた事もなく、アリエル同様、女に触れたこともないような純朴な青年だった。


専属護衛となり、常に一緒にいる二人。


「リック、はい、あーん」

「・・・えっと・・・王女殿下?」

「はい、あーん」

「あの、このような・・・事は・・・その・・・」

「あーん、嫌い?」

「嫌いとではなく、その・・・私は護衛の任務中なんですが・・・」

「・・・リック、私の手ずからは食べてくれないの?」


リリエラが悲しそうな顔をしてセドリックを見上げる。


「うっ・・・た、食べればいいんですね?」


パクッ


「ふふっ、はい、あーん」

「あ、あーん・・・」







「リック、座って」

「私は仕事中ですので、このままで」

「座って」

「・・・わ、わかりました」


言い出すと聞かないリリエラに、セドリックは渋々ソファに腰をおろす。


「ちょっ、殿下、そこは椅子では!」

「ここがいいの」


リリエラはセドリックの膝に座ると、首に腕をまわし、気付けばそのまま眠ってしまい、小一時間お昼寝の時間となってしまった。セドリックは自分が動いた事で起こさないようにと、動けず固まっていた。





「殿下」

「リリエラ」

「えっ?」

「リリエラって呼んで」

「いや、しかし・・・」

「・・・リリエラ!」

「・・・リリ・・・」

「そっちがいいわ!」

言い終わらない内に、愛称のような呼び名に決まってしまう。


「へっ!?」

「もう一回言って!」

「・・・リリ?」

「リック!嬉しいわ」




リリエラには王女と護衛騎士という関係性は最初からなかったのだ。毎日こんな様子。リリエラは侯爵邸の庭で見初めた熊のような男を、夫にするべく王宮に連れてきたのだった。もちろん、セドリックはそんな事は知らない。セドリックが王宮に来てから一か月が過ぎた頃。セドリックを連れて、リリエラはアリエルの元を訪れる。


「お父様!」

「おぉ、リリエラ、今日も可愛いな」

「親バカね」

「なっ・・・もう、喜んではくれんのか・・・」

「それを言われて嬉しいと思える相手が変わったのよ」

「と言う事は?」

「えぇ、リックを夫にするわ!」

「リリ!?あっ、いえ、王女殿下・・・」

「セドリックよ」


鋭い目つきでアリエルがセドリックを見つめる。


「・・・はい!」

「もう、愛称で呼び合ってるのか?」

「あ・・・いえ・・・もうしわけ・・・ありま・・・」


アリエルはニヤッとして話し出す。


「構わん。嬉しいものだろう?俺もはじめは心の中ではリシェと呼んでいたが、実際呼ぶことを決めあってからは、口に出して呼んでいいなど、幸せしかなかったからな」

「は、はぁ・・・」

「あーんはしてもらったか?」

「へっ!?・・・あ・・・は、はい」


セドリックは真っ赤になって答える。


「飯が何倍も美味くなるだろう?そのうち膝枕もしてもらえ。あれはいいぞ?俺は今だに時々ねだっている」

「ひ、膝枕・・・ですか・・・」

「膝枕してもらって、上を見てみろ。胸が目の前にあって、絶景だぞ?」

「・・・・・」


セドリックは真っ赤になって固まった。


「セドリック」

「は、はい」

「リリエラは、お前を連れてくる事を決めた時から、お前を夫にすると決めていたそうだ」

「俺は護衛騎士として連れてこられたのでは・・・?」

「リック、私ね、あなたに騎士を諦めて欲しくなかったの。最初から夫にするつもりだったんだけど、いきなりそう言ってもあなたは断るでしょう?だから、まずは一緒にいる時間が必要だと思ったの」

「そ、それで・・・いつも・・・」

「そうよ。甘やかしたくて仕方ないんだから」

「セドリック、お前は体力がありそうだ。申し分ない。リリエラも満足しそうだな」

「満足・・・?」

「お前は、リリエラに全ての欲を正直にぶつけろ」

「よ、欲・・・ですか?」

「あぁ、それが正解だ。遠慮すると、うちの女性陣はすぐむくれて拗ねてしまうからな。触れたければ好きに触れればいいし、キスしたければすればいい。俺の前でも遠慮はするな」

「へ、陛下・・・それは・・・」

「遠慮はいかんぞ?他の女にとられると泣かれるのは、案外嬉しいが、愛する者の涙はどんな理由であれ見たくはない。だから、起き上がれなくなるまですればいいさ」

「・・・何をですか?」

「夜の閨に決まってるだろう?」

「・・・がんばり・・・ます・・・」

「あぁ、期待している。だが、結婚式までは我慢しろよ?」


娘の前でなんて話をしてるんだとセドリックは混乱しているが、リリエラは満足そうだ。


「リック」


リリエラは両腕を伸ばしてくる。


「どうした?リリ?」

「抱っこ」

「はっ!?」

「それは甘えてるんだ。抱きかかえてやるのが正解だぞ?」

「へ、陛下!?・・・わ、わかりました。リリ、ちゃんと捕まるんだよ?」

「うん!」


セドリックはおずおずとリリエラを抱きかかえる。二人の結婚式は半年後と決まった。そしてセドリックはのちに女王となったリリエラの夫として、王配になることになる。

二人には三人の子が生まれ、三人とも王子であった。セドリックの茶色の髪は引いたものの、熊のような外見は誰もひかず、リリエラに似た。

熊は遺伝しない。しかし、溺愛は遺伝するのかもしれない。


「リリ、私もかまってくれ!子ども達ばかりずるいではないか・・・」


子どもたちが寝静まり、夫婦の寝室でソファに座るセドリックの膝に乗せられ抱きしめられているリリエラ。


「リック・・・今日は・・・いっぱいしてね?」

「・・・可愛い嫁のお望みは叶えてあげないとな?」


長い夜が始まる。






ーーーーーーーーーーーーーーー


最後までお付き合い頂きありがとうございました!!

威厳があるのに、好きな女の事になると、途端にポンコツになったりメソメソしたり。可愛いなと思います。ベテランの童貞オッサンはピュア。そんな可愛いアリエルのような旦那様が欲しいと思いながら書いてみた作品でした。


また新作も投稿予定ですので、読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!








新作お知らせ!

『騎士団長様からの400通の手紙ーそのままの君が好きー』


当主である父に無理矢理参加させられたある夜会。辺境伯家の次女レティシアは、ダンスの誘いの多さに、断るのにも疲れ、辟易して王城の中を進んでいた。人気のない暗がりの中、うめくような声がする。一人の騎士が座り込んでいた。レティシアは彼を介抱する。

応急処置!わかった?

この出会いの行方は・・・?


近々投稿開始します、お楽しみに♪(´ε` )

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