130 / 131
番外編
痣のある王子
しおりを挟む「殿下は見た目はいいんだけど、あの痣が残念よね・・・」
「なにかの呪いとか?」
「あの痣って子どもにも遺伝するのかしらね?」
とても見目麗しい少年がいた。ギルバート・アルタイル。アリエルとリシェリアの子で、この国唯一の王子だ。
ギルバートはアリエルの色、黒髪に紫の瞳を持って産まれた。見た目はリシェリアを引いたようで、美男子と評判だ。しかし、顔の左側には、剣で切り付けられたような大きな痣がある。
その日は王宮で、王子の側近や友人候補となる歳の近い令息令嬢を集めたお茶会が開かれていた。ギルバートもそこに加わるのだが、皆が腫れ物のように遠巻きにする。誰一人普通に接する者はいなかった。しかし、一人の令嬢だけが普通に接して、ギルバートが差し出した飲み物を受け取って飲むと、おいしいですとにこっと笑顔を見せた。その令嬢は、マリアンヌ・レシュア子爵令嬢。ギルバートは彼女に恋をした。
マリアンヌの家である子爵家は、堅実な経営をしており、いたって普通ではあったが、一人娘で後継がおらず婿養子を希望していた。
ギルバートがマリアンヌと時間を共にする事を子爵家当主夫妻も怪訝に扱う事もなく、マリアンヌも変わらず接してくれた。
「父上、やはり僕には彼女しかいません」
「しかし、王子のお前が婿に入るには、子爵家ではな・・・よし、わかった、手を打とう。しかし、お前は王にならなくともいいんだな?」
「えぇ、僕は彼女と一緒になりたいのです。王になる事で彼女を諦めなければいけないというのなら、僕は王になどなりたくもないしそんなものに価値はありませんよ。リリエラが女王になればいいだけの事」
「そうか・・・さすがは俺の子だな」
「さすがとは?」
「昔、俺もな、リシェを娶る際に同じ事を言った。国王にはならんと言ったのだ。お前とは少し意味合いは違うが、俺は国王になる事ではなく、愛する女を選んだ。結果、王位がついてきただけだ。
お前が選んだのならそれでいい。愛する女を守れる男になれ。己の唯一を愛し続けろ」
「はい!」
アリエルは息子の成長を喜んだ。そして二人の婚約が決まった。ギルバートが17歳、マリアンヌが16歳の時。マリアンヌがデビュタントを迎える夜会で、ギルバートは婚約者としてエスコートをしフロアに現れた。
「えっ!?あれって、ギルバート殿下なの?」
「お顔の痣がなくなってるわ!」
「なんて素敵なの!お近づきになりたいわ!」
ギルバートの顔からは痣が跡形もなく綺麗に消えていた。というより、元からなかったのだ。リシェリアに似た顔立ちのせいで、成長するにつれて令嬢達が寄ってくるようになり、それにうんざりしていた。令嬢達がみな同じに見え、興味が持てなくなっていた。己の顔に傷でもあれば少しは減るのではないかと考え、自ら毎朝顔に書いていたのだ。それからは寄ってくる令嬢は格段に減った。これで寄ってくるのは王家との繋がりが欲しい家の令嬢か、金銭などが目的であることは明白だった。そんな中、純粋に人として、一人の男としてマリアンヌは見てくれた。媚びへつらう態度もなければ、擦り寄ってくる事もない。そんなマリアンヌにギルバートは心惹かれた。マリアンヌと出会い、信頼のできる愛しい婚約者ができたギルバートには、偽りの痣や傷などはもう必要ない。
痣が綺麗に消えてなくった時、驚きはされたものの、マリアンヌはただ喜ぶのではなく、きちんと理解してくれた。寄ってくる令嬢が増えたが、ギルバートは全く見向きもしなかった。アリエルが言う、己の唯一を愛し慈しんだ。
アリエルは手を打つと言った。アリエルとリシェリアの断罪劇の夜会で没落した貴族の内の伯爵領が、王家預かりのままになっていた。レシュア子爵領の隣領であった為、子爵領に統合させ、レシュア家は子爵から公爵へと格上げされた。ギルバートはレシュア公爵家へと婿入りする運びとなった。
そして迎えた初夜。
「マリー、君に出会えた事、本当によかったよ」
「私もよ。ギルが私を選んでくれるなんて・・・夢でも見てるかと思ってしまうわ」
「夢か・・・それは困るな・・・こうやって触れれない・・・」
「ギル・・・」
ギルバートは後ろから抱きしめてそのままソファーに座る。マリアンヌの肩に頭を乗せ、甘えるように擦り寄る。
「ギル、愛してるわ」
「あぁ、僕も愛してるよ」
二人の初めてはゆっくりと時間が流れていった。と思えたが・・・
「ちょっと・・・やりすぎてしまったな・・・」
ギルバートの隣には寝息を立てて眠るマリアンヌがいた。何度目かわからない絶頂を迎えたマリアンヌは、途中で意識を手放した。ギルバートの腕を枕に眠ってしまった。
「愛してる・・・マリー・・・」
ギルバートに遺伝したのはアリエルの色と・・・絶倫なところだろうか。マリアンヌは何度も達したが、ギルバートが果てることはなかった。結局それからも、ギルバートが果てるまでに何度も絶頂を迎えさせられる。マリアンヌが子種を注いでくれないと悩むほどに、ギルバートは自身が達してしまうよりも、マリアンヌを乱れさせたかった。
ギルバートとマリアンヌの子は、これまた美少年だった。息子は前髪を伸ばしぼさぼさ、暗い雰囲気を纏っている・・・フリをしていた。
「父上!僕にはリリアしかいません!」
熊は遺伝しないが、己の唯一を見つけるという点ではしっかりと遺伝していく。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次回
私ね、あなたに騎士を諦めて欲しくなかったの
新作お知らせ!
『騎士団長様からの400通の手紙ーそのままの君が好きー』
当主である父に無理矢理参加させられたある夜会。辺境伯家の次女レティシアは、ダンスの誘いの多さに、断るのにも疲れ、辟易して王城の中を進んでいた。人気のない暗がりの中、うめくような声がする。一人の騎士が座り込んでいた。レティシアは彼を介抱する。
応急処置!わかった?
この出会いの行方は・・・?
近々投稿開始します、お楽しみに♪(´ε` )
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
183
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる