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美しい金の蝶

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「いかがなされました?」

「いや・・・美しい蝶がいたものでな・・・」

「蝶・・・ですか?」


首を傾げたのは宰相であるロドルフォ。今、ロドルフォが声をかけたのはこの国の王である、レイドルート・イレイア。国王であるレイドルートの執務室は王宮の上層階、三階の高さにある。この高さから庭園の花に寄ってくる蝶が見えるだろうか。そう思い首を傾げたのだ。不思議に思ったロドルフォは窓の外を覗き見る。そして理解した。


「なるほど・・・美しい蝶ですね」


レイドルートが蝶と言ったのは、一人の少女だった。陽の光に照らされてキラキラと光る金の髪。少女はいつも同じ時間にこの庭園を通って王宮へと入る。その光景を眺めるのがレイドルートの日課になっていた。

彼女はカルストフ侯爵令嬢ローゼリア、18歳。レイドルートの息子、王子であるライモンドの婚約者である。挙式を控えていて、来月にはレイドルートにとって義娘となる予定だ。

ローゼリアが婚約者に選ばれたのは、力のあるカルストフ侯爵家の後ろ盾をライモンドに付ける為だ。レイドルートには子はライモンドのみ。唯一の王子で、派閥の心配などはいらないが、ライモンドは側妃の子で、その側妃は公爵家の令嬢ではあったが地盤はそれほど強くはなかった。

レイドルートには正妃と側妃の二人の妃がいた。正妃との間に子ができる兆しがなく、一年後に側妃が迎え入れられ、ライモンドが産まれた。

王宮で正妃が毒殺される事件が起きた。犯人は側妃だった。自身が子を産んだと言うのに、立場は良くならない事に苛立ちが募り、正妃が居なくなれば自身が正妃になれるのではという浅はかな考えからであった。側妃は廃妃となり、殺人を犯したとして処刑された。故に、現在、この国には妃は一人もいない。

事件の際、まだ幼かったライモンドは事件の真相などは知る事もなく、実の母である側妃は病気で亡くなったと聞かされている。無論、国民にも王宮内でそんな事件が起きたなど知られれば、将来ライモンドが国王となる際に犯罪者の子である事が足枷になってしまう。事件は秘匿され、正妃は病に倒れ亡くなり、側妃は産後の肥立ちが悪く亡くなったと知らされた。

レイドルートはライモンドの為に、後ろ盾としても強い家柄の、優しく穏やかで、生涯息子を側で支えてくれるような令嬢をとローゼリアを選んだ。物心つく前に母親を失い、乳母に育てられたライモンドに、幸せになって欲しいと思っての事だった。


そしてローゼリアは、今日もいつもと同じ時間に庭園を通り、王子妃教育を受けに王宮へと足を運ぶ。



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