離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】

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手紙の送り主

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「お嬢様、お手紙が届いております」

「まぁ!ローゼリアお姉様から?」

「違います」

「・・・置いといて」


随分反応が違うものだと手紙を運んだ執事が苦笑する。


「では、こちらに。ベゼル公爵家からのお手紙です」

「また、あの男ね・・・面倒だわ」


レヴィス公爵家マリアンヌは落胆の後、怪訝な表情になる。


「毎度そのお顔をなされますね」

「当たり前でしょう。よくもまぁ、恥ずかしげもなくあんな風に歯の浮く台詞がどんどん出てくるものだと感心するわ。他の令嬢にも辺り構わず声をかけているのだともっぱらの噂よ?」

「そうでございますね、良くない噂ばかり聞いておりますね」

「次男だから必死なのかしらね。爵位は嫡男のジークベルト様が継がれるんだもの。次男のアークライト様は婿入りか、何か要職にでも就きたいのが見え見えだわ。今はあのクソ王子の側近をお兄様と一緒にやっておられるけど、取るに足らない存在よ」

「お嬢様、誰が聞いているかわからないのですから、言葉遣いにはお気をつけください。ローゼリアお嬢様から叱られますよ?」

「そ、そうよね!お姉様にがっかりされるのは本望ではないもの。でもクソ王子はクソ王子よ」


執事はマリアンヌの釈然としない表情を見たところで、ご褒美とばかりにもう一通の手紙を差し出す。


「マリアンヌお嬢様、こちらがお望みでしょう?」

「何?」

「ローゼリアお嬢様からです」


執事の言葉にガバッと立ち上がると、引ったくるように執事の手から手紙を取る。


「それを早く言ってよ!」

「それは申し訳ございません。ですが、胸くそ悪い手紙を後に受けとるよりよいかと思いまして」

「そ、それは・・・そうね。ちょっと言い過ぎたわ」

「それはようございました」


それからマリアンヌは、恋人からの手紙を読むように、頬を赤らめながら夢中になって文字を目で追っている。そして急に顔をあげたかと思えば。


「モリス、大変!」

「いかがなさいました?」

「お姉様が、刺繍を施したハンカチを交換しましょうとおっしゃっているの!こうしてはいられないわ!沢山練習して最高傑作を贈るわ!」

「そうでしたか。それでは材料をご準備いたしましょう。もし足らなければ、商人に準備を」

「糸は・・・赤も必要だけど緑も必要ね。それに、ハンカチ用の布地も必要だわ。お姉様の肌を傷つけないように、最高級の布地を準備しなくてはならないわ!」


急にやる気をだしたマリアンヌに、執事もやれやれと眉を下げる。しかし、ローゼリアお嬢様もよく考えたものだと感心する。マリアンヌの性格上、褒められたくてウズウズするだろう。それに、ローゼリアお嬢様のお手製だと言えば、どんなものもでも宝物になる。アメとムチを使い分けるローゼリアは、教育者に向いているのではないかと執事はニコニコとしてそんなことを考えていた。







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