離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】

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侯爵と公爵令息

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「それで・・・公子様は何をお望みですかな?」


侯爵の鋭い目付きに、リチャードは息を飲む。娘を想うが故、立場など気にしてはいなかった。


「望み・・・ですか。私はただ、ローゼリア嬢の幸せを願って」

「幸せ?娘を傷付けることが幸せを願う事だとおっしゃりたいので?」

「いや、そんなつもりはっ!」

「だったら何故、娘があのように泣き腫らして帰ってくることがありましょう。陛下に愛妾がいるなどと、信じられませんが、それを娘に言う必要がありましたかな?言えば、公子様に縋ってくるとでも思われましたか」

「・・・焦っていたんだ・・・」

「焦り、ですか?」

「あぁ、殿下との婚約が解消されたと聞いた。それが広まれば、我先にと縁談が押し寄せてくると予想できる。妃教育をこなせるような令嬢なんてなかなかいない。ましてや、あの美貌だ。どんな男だって彼女を欲しがるはずだ。無論、他国の王族だって欲しがるかもしれない」

「えぇ、私の娘ながら、良くできた子だと思います。妻に似て、益々美しくなっております。いくら婚約が解消されたと言え、ローゼリアにとっては何の痛手でもありません。むしろ、これまでが瑕疵のようなものでした。王子殿下の婚約者であるという足枷で、どこの令息だっておいそれと声などかけては来ませんでした。それは勿論、あなたもですな」


侯爵の言葉に、リチャードは返す言葉が見つからなかった。何も訂正できないほどに正論であり事実だからだ。


「ローゼリアは王都から出ていくでしょう」

「なっ!?」

「婚約が解消になった時に、はじめから本人が考えていたことです。領地に行こうと思っていると」

「侯爵領は随分と遠いじゃないか。馬車で一日、単騎で駆けても半日はかかると聞いている」

「えぇ、王都とは違って、のどかなところです」


朗らかな笑みを浮かべる侯爵に、リチャードは、今のローゼリアにはいい環境だと言われているようで、他の策が浮かばない。


「くっ・・・侯爵・・・ローゼリア嬢の次の婚約者は・・・」

「まだ、決まっておりませんよ。妃
教育を長年頑張ってきたローゼリアには、暫しの休養が必要です、領地にて休養させようと思っております。公子様の思いはやはりそれでしたか」


侯爵の視線がいっそう鋭くなったのを感じる。


「領地にこもったとして、縁談をくるのを拒みはできないだろう。虫除けにもなる。私が形だけの婚約者として」

「公子様」


冷気に加え、怒気を含んだ侯爵の声にリチャードはビクリと肩を揺らす。


「公子様は、殿下と同じ事をローゼリアになさろうと」

「そんなはずないだろう!」


勢いよく立ち上がったリチャードは侯爵を見下ろす。威圧しているつもりも、侯爵は毅然態度を崩さない。見上げられているのに凄みのある睨みに、リチャードは怯んだ。


「いえ、同じですよ」


侯爵はため息をつくと、席を立ち、使用人から上着を受け取るとそのまま公爵邸を後にした。






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