王太子殿下は小説みたいな恋がしたい

紅花うさぎ

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107.楽しい恐怖の恋バナ大会

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 ゴネ続けたかいあって、何とか部屋から蝋燭を撤去することには成功した。ただし恋バナでオリヴィアを満足させる事という条件はつけられたけど。

 部屋を完全に明るくすることについては、キャロラインの反対により完全には思い通りにはならなかった。せっかくナイトドレスを着たのだから、少しでも夜っぽい雰囲気を出したいらしい。仕方なく、窓は塞いで部屋を暗くしたまま、明かりをつけて部屋を明るくするということで合意した。

 さて、部屋はこれでいいとして、あとは私がオリヴィアを納得させるレベルの恋バナができるかが問題だ。はっきり言って全く自信はない。

「ウィルバート兄様とアリスは、どこまでいってるの?」

 オリヴィアがとうとう私の事をアリスって呼んだ!! っと感動することもできないくらい、直球の質問に狼狽えてしまう。

 『街までです』なんて答えたら、絶対怒りを買っちゃうわよね。何でも話すと言った以上答えないわけにはいかない。

「キ、キスはしました」
 って何を言わせるんだ!!

 私は恥ずかしくて恥ずかしくて顔もあげられないのに、オリヴィアは「それだけ?」なんて言ってるから嫌になる。

「ウィルバート兄様はアリスが死んだと思っていたわけじゃない?」

 はい、そうですね。

「春喜宴でアリスが生きてるって判明したわけでしょ」

 おっしゃる通りです。

「久しぶりに二人きりになって、押し倒されたりしなかったわけ?」

 んな!!

「そ、そんな事、あるわけないじゃないですか」

「ふーん。押し倒されたんだ」

 私が動揺しちゃったせいで、オリヴィアは私が押し倒されたと確信したみたいだ。

「真面目で頭固そうに見えても、ウィルバート兄様も普通の男だったのね」

「いえあの……押し倒されたって言うか、キスされたら力が抜けてソファーに倒れちゃったって言うか……」

 って、本当に私ってば何言ってるの。喋れば喋るほど、どんどん取り返しがつかなくなってる気がする。

「と、とにかく私とウィルバート様はキスしかしてませんから!!」

「ふーん」

 疑ってる? それともつまらないと思ってる?
 でもとりあえずオリヴィアを見る限り、この話はこれでおしまいにできそうだ。っと思ったのも束の間……

「アリス様が倒れちゃうほどって……ウィルバート様はよほどキスの達人なんでしょうか?」

 アナベル……どうしてこのタイミングで口を挟むのよ?

「そこんところ、どーなの?」
 っとオリヴィアが私に迫る。

「どーと言われましても……」

 達人かどうかなんて、他の人とキスなんてしたことない私にわかるわけがない。

「じゃあ試してみたら? ラウル兄様貸すわよ」

「それでしたらエドワード兄様の方がよろしくなくて?」

 どちらも嫌なんですけど!!
 ラウルやエドワードとキスすることなんか想像したら、一瞬で全身に鳥肌を立てる事ができるわ。それくらいに二人の、特にエドワードの存在は、私にとって恐怖でしかない。けれど、我が兄こそ最高だと思っている妹軍団に、この気持ちは決して伝えようがない。

 もう頼むから私のキスから離れて欲しい。その一心でキャロラインに話を振った。

「私のことより、キャロライン様のお話を聞きたいです」

 ジャニス様からラウルとの結婚の話をされていたけれど、キャロラインには他にも縁談の話があるだろう。実際に年忘れの夜会で、キャロラインが男性を紹介されていたのを私も見ている。

 その話をした途端、キャロラインが「ふふっ」と声を出した。どうやら思い出し笑いのようだ。

「申し訳ありません……確かにそのような事もありましたね」

 口元をおかしそうに緩めたままのキャロラインは、前にその話をウィルバートから聞かれた事があると言った。

「あれは年忘れの夜会が終わってしばらくたった頃でした……」
 キャロラインがその時のことを詳しく話はじめた。




 その日キャロラインは、アリスに内緒で話があるとウィルバートから呼び出されていた。ウィルバートからこのような形で呼び出されるのは二度目だろうか。前回は年忘れの夜会でアリスの事を頼まれたが、今回は何の用だろう?

 正直ウィルバートの元へ行くのは面倒だったが、大好きなアリスに関わりあることならばと、キャロラインは仕方なく出向いていった。

「年忘れの夜会で、キャロライン嬢はどなたかを紹介されていたとアリスから聞きしました。その男性とはうまくいきそうなんですか?」

 アーノルドのいれた紅茶を味わっていたキャロラインが、手にしていたカップを置いた。

「年忘れの夜会ですか?」

 全く想像していなかった質問に、キャロラインはパチパチと瞬きをした。

「ええ。アリスが言うには、背の高い素敵な人だったらしいのですが……どなたなんです?」

「背の高いステキな方……」

 キャロラインは記憶を辿ったが、ウィルバートが誰の話をしているのかピンとこなかった。

「確かに年忘れの夜会では男性を紹介されました。ですがその日ご挨拶をした方は何名もいるんです。背が高いという情報だけですと、どなたの事をお話しされているのか分かりませんわ」

「そうですか……では、紹介された中で一番素敵だと思われた方はどなたですか?」

 ウィルバートは自分から一体何を引き出したいのだろうか? わざわざアリスを遠ざけてまでこのような質問をする意味がキャロラインには分からなかった。

「……どの方も素敵でしたので、一番と言われましても……」

 キャロラインはもちろん紹介された男性達の事は覚えていた。けれど誰も彼もレベルが低いとしか感じられず、興味もわかなかった。そんな状態で誰が一番かなど決めようがない。

 キャロラインにとっての男性の基準は兄であるエドワードである。エドワードに比べたら、目の前にいるウィルバートでさえ、大したことのない坊やにしか見えないのだ。

 一体なぜウィルバートはこのようなくだらない質問をするのか?

「いや、なに……アリスから話を聞いて、少し興味がわいただけですよ」

 なんだ。そういうことでしたのね……

 キャロラインは笑い出すのを堪えていつも通りの笑みを浮かべてウィルバートを見た。

「残念ながら、やはりどなたのことなのか分かりません……もしよろしければ、その日わたくしがご挨拶した方を全員をお教えいたしましょうか?」

「それは助かります」

 キャロラインの書き終えたリストを受け取ったウィルバートが嬉しそうに顔を輝かせるのを見て、キャロラインは再び笑い出しそうになるのを必死で堪えた。




 ……ってな事があったと語るキャロラインは、今も笑いそうになるのを堪えているのだろう。口角がいつも以上に上がっている。

「うわっ。ウィルバート兄様ってば、そういうタイプなの? アリスも大変ね」

 話を聞いたオリヴィアは面倒くさいと顔をしかめた。

「……ウィルバート様は、そのリストを見てどうされるんでしょう?」

 キャロラインの話は詳しくて状況はよく分かったが、一体なぜウィルバートがキャロラインを呼び出したのか、肝心な部分が抜け落ちていてよく分からなかった。

「どうって……顔のチェックとかするんじゃない?」

 何当たり前の事を聞いてるのという顔をしていたオリヴィアが、何かに気づいたように突如として目を見開いた。

「えっ!? もしかしてアリスは全然分かってないの?」

「アリス様は、恋愛面において結構なポンコツですから」

 アナベルが両手を広げてやれやれという感じのポーズをしてみせた。

 誰がポンコツよ!!

 反論する間も無く、アナベルはまるで恋愛博士かのように、ウィルバートの気持ちについての解釈を述べ始めた。

「いいですか、ウィルバート様はキャロライン様がどなたに会ったかには興味はないんです」

「えっ、でも……」

 それこそ意味が分からない。首を傾げる私を見て、キャロラインはふふふっと何やら意味あり気な笑みを口元に浮かべている。

「ウィルバート様は、アリス様が素敵だと言った方を知りたかったんですよ。アリス様がどのような方を素敵だと思ったのか、きっとリスト全員の容姿をチェックしたんじゃないですか」

 アナベルの言葉に、余計に困惑してしまう。

「もしアナベルの言う事が本当だとして、ウィルがそれを知って何になるの?」

「ほんっと、アリスってば鈍いわね。ニブニブよ!!」

 我慢できないといった様にオリヴィアが口をはさんだ。

「だからウィルバート兄様は、アリスが素敵だって言ったその男に嫉妬してるって事でしょ?」

「エッ!?」
 そんなバカな。

 キャロラインもアナベルも、オリヴィアの言う通りだと頷いている。「愛されてますねぇ」なんて言われて嬉しくないわけじゃないけど、なんだろう。三人から向けられる生暖かい瞳が非常にむず痒い。

「それで結局、その男性は見つかったんでしょうか?」

 アナベルの言葉にキャロラインは分からないと首を振った。

「アリス様が素敵だとおっしゃった方が判明した時に、ウィルバート様がどんな顔をされたのか……あのすましたお顔が歪むのを是非とも近くで拝見したかったですわ」

 そう言ってキャロラインは絶世の美女らしからぬ迫力ある笑みを見せた。そのなんとも言えない悪の親玉のようなニンマリとした笑みを見て、キャロラインはエドワードの妹だなっと実感した。
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