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23.逃げる君

620.開かれた痛み

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バサッバサッドサリッ


痛い……少し転移する場所をミスってしまった。
やっぱり転移魔法はあまり得意ではないな…あいつは上手いんだけどな


木の枝を折りながら落下して、湿った土の上の落ちた衝撃の痛みで体が動かせない
痛覚無効ポーションの効き目もキレかけてる。
もう30分もしたら地獄みたいな痛みがくるな…

想定よりキレるのが早かったけど、誰かに見つけてもらわないと悲惨なことになりそうだ


ズリズリっと体を這わせて進んでみるが、腕も足も痛いし体の怠さもひどい
何より、心が折れてしまったように…
もうどうでもいいっという気持ちになってくる
目当ての屋敷はもう目と鼻の先なのに、体を伏せた状態で泥だらけに汚れながら動けなくなってしまった。



ガサッガサガサ!!


「やっぱりアキラでしたか!
どうしたのですか?怪我をしてるのですか?
あぁ…なんて可哀想に、すぐに治してあげますからね」


植木を分け入ってきた人物は、大きな体の茶色毛並みに頭の上には大きな耳がついている。
黒いスーツに蝶ネクタイをしっかりと締めている。
心配してくれてるのはわかるが、開いた歯は肉食獣特有の大きく尖った犬歯が見えて、笑ってしまうくらいに恐ろしい


「バロン…、ごめんなさい、僕っ逃げて来ちゃったんだ
もう…、僕っよくわからなくなっちゃったんだよ」


自分から絞り出した声は、思っていた以上に弱々しくて情けなくて恥ずかしくなってくる。


「あぁ…、よくここまで逃げてこれましたね、いい子ですよ!
アキラにこんな目に合わせた奴は私がしっかりと後で制裁しますからね?
今は体を治しましょう」


バロンが軽々と僕を抱き上げてくれる。服の上からでもフカフカの毛が感じられて気持ちいい

 
「ごめんね…服っ汚れちゃうね…
まだ営業時間でしょ?
僕は店が終わるまで待ってられるから…、そこらへんに放っておいてくれて大丈夫だよ?」

「何を言ってるのですか?
この怪我のアキラを放っておけるわけないでしょ?
副支配人に任せますから大丈夫ですよ!
とりあえず…体の怪我を治して、お風呂ですね」

もうされるがままに体の力を抜いていった。



≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈


「痛っ、あぁあぁ…、ははっダークそんな回復魔法の腕で診療所やっていけてるの?
めちゃくちゃ痛い、うわぁぁ……」

ダークさんがカズマさんに回復魔法をかけていくと、さっきまでの恍惚とした表情は一変して苦痛に歪んでいく


「ご心配なく!普段は痛みなどを考慮して優しぃぃ~くかけてますから
なんなら骨折の治療には麻酔が必須ですから
こんなに無遠慮に高出力でかけたりしませんからね?
せいぜい痛がってくださいよ?
アキラの痛みはこれくらいじゃなかったでしょ?
あんなに大事そうにしていたジョン君を、置いて行ってしまうくらいですからね?」


カズマさんが驚いた様にこっちを見て、痛々しげに顔を歪めた後に、ヘラリッと笑った。


「ははっ…そうかよ、お前も捨てられたのか?
俺の手垢がついたから気に入らなくなったのかな?
アハハ、仲間ができたよ…アキラに捨てられた者同士だ仲良くしような!」


「ダークさん!もっと出力あげれませんか?
その口を塞いでください……めちゃ腹立つ」


「了解です!ジョン君を自分と一緒にするんじゃありませんよ!!
ジョン君は捨てられてないですからね?
さっさと治して迎えに行く手伝いしなさい!」


んぎゃぁああっとカズマさんの悲鳴を聞きながら、さっきのカズマさんの言葉が胸に重くのし掛かる。


大丈夫!
アキラは僕を捨てたりしない
……でもアキラが自ら僕から逃げ出したことなんてなくて
記憶喪失のときだって、シノダ教授が連れ出したからで
…でもあのときでも僕のことずっと


ぐるぐるっと不安な思考に囚われ出してしまう。

おじいちゃんもダークさんもシノダ教授もアキラは許してくれるって、疲れただけだって言ってくれる。
でも、もし…本当に僕がカズマさんみたいに捨てられてたのだったら


「ジョン君や、大丈夫かの?
あのエルフの言ってることなんぞ真に受けたらいかんぞ?
アキラ君はただちょっと疲れただけじゃからな?お前さんを捨てるなんて気はまったくないからな?」


おじいちゃんの言葉でも、僕の気持ちは上がらなくて
でも今、僕にできることは…


「ダークさん、あとどれくらいかかります?
修正したい感じのところあったら教えてください!ポキポキ折り直しますから」

「アハハ、ジョン君ありがとう
高出力だとどうしても仕上がりが雑になるから助かるよ!
足のココと肋のココお願いします。」


早くこの人を治して、アキラに会いに行くことだけだから
っとカズマさんの悲鳴を聞きながら、ボキッと骨を折っていった。
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