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三章 廻転
二十五.陰間
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そろそろ風も涼しくなり、秋に変わろうという九月。
翔隆は信濃に向かっていた。
武田晴信が、信濃の裾花川辺りで上杉景虎軍と戦をしているという情報が入ったのだ。
四月から始まったこの戦いも、まだ続いていたらしい…。
一度は軍を退いたようだが、また同じような所で戦とは……。
取り敢えず前線となっている旭山城に行く。
すると、そこで出会ったのは初対面の原隼人佑昌胤(二十六歳)と栗原左兵衛尉詮冬(二十一歳)、三枝勘解由左衛門尉昌貞(十九歳)。
そして、馬場信房、飯富昌景、真田弾正忠幸隆(四十一歳)らであった。
少しは顔を知っている飯富昌景に話し掛けるが、無視されてしまう。
〈…かなり嫌われているな…〉
当然ではあるが、ここで引き下がる訳にはいかない。
翔隆は兵士に晴信の居場所を聞き出して、そちらに向かう事にした。
とその時、見知らぬ武将と童が言い争うような声がした。
〈何だろうか…?〉
覗いて見ると、その武将は困ったようにその童に何かを語り掛けている。
「あの…どうかなされたのですか…?」
思わず声を掛けると、その人はこちらを見て驚いた顔をする。
「…お主が噂の…織田家臣でありながらも御屋形さまに寵愛を受けている、という者か!」
いきなりの言葉に戸惑うと、その人はニコリと笑う。
「わしは秋山伯耆守虎繁じゃ。お主が〝とびたか〟と申す者であろう?」
「は、はい…」
そう答えると秋山虎繁(二十七歳)は、じろじろと翔隆を見て、何度も頷く。
「ふーむ、なる程…美しい顔立ちじゃな。若き日の源五郎(春日虎綱)も劣りそうじゃ」
その口調から敵意は無い、と感じ取り翔隆は微笑む。
「恐れ入ります。…して、その童は?」
「ああ…」
虎繁は今更のように気付いて苦笑する。
「どうも、陰間らしくてな…」
「か…」
翔隆は唖然として、目をギラつかせているその子供を見た。
つまりこの子は、銭で体を売る男娼。
普通、陰間は宴などに来るものなのだ。
なのに…こんな幼子がわざわざ危険な戦場に来ているとは…。
「まさか…買われたのですか?」
恐る恐る尋ねると、虎繁は困惑して首を横に振る。
「まさか! …我が配下の者が連れているのを見て、咎めて連れて来たのだ。いかに衆道は嗜み、とはいえこんな童を抱くのは忍びない」
「…無口な子ですね」
「うむ。どこから来たか、名は何と申すのかいくら尋ねても答えぬ。〝あんたが買うのか〟と怒鳴ってきた程の気性の荒さだ」
それを聞いて、翔隆は頷く。
「俺に、任せて下さりませぬか?」
「うむ…そうしてくれるとありがたい。わしも行かねばならぬ故…頼んだ!」
そう言いニッと笑うと、虎繁は手を上げて行ってしまった。
それを見送ってから、翔隆はじっとその子を見た。その子もまた、睨み返してくる。
〈…家臣…か。どうせなら、このくらい気の強い方がいいな…〉
翔隆は真顔でしゃがみ、その子と目線を同等にした。
「…名は?」
「禾巳。…粟程の価値はあった方がいいって、お頭が付けてくれた」
…漢字が分かるならそのお頭は落武者か何かか…そう思いながら翔隆は尋ねる。
「年は」
「五つ。親なぞ聞くなよ、いないから。あんたがおれを買うのか? 二銭だぞ」
それを聞いて、翔隆はニコリと笑った。
「違う。――――もし良かったら、俺の家臣にならないか?」
「はぁ…?!」
「そうだな…月に、一金で。勿論、飯も付くぞ」
「いっ…きん?」
禾巳は、目を丸くして驚く。
家臣になれ、などと言われるのは勿論、〝金〟という言葉を聞くのも初めてだからだ。
それを悟って、翔隆は優しく言う。
「えっと…つまりは銭を払うから、俺の家臣になってくれ…と言っているんだ。その代わり厳しいがな…」
「厳しい…? 毎日抱くのか?」
「そんな事じゃないっ! …つまり、俺は…ええと…乱破…うーむ…忍、は分かるか?」
禾巳はコクッと頷く。
聞いていて、こちらが恥ずかしくなるような事を平然として言うものだから、思わず赤面しつつも話を続ける。
「それのようなものだから、仕えるのであれば厳しい修業をつけるし、いつ命を落とすか分からぬぞという意味だ」
そう言うと、禾巳は少し考えてからニッとする。
「そーだな、あんたならいいや。惚れたから、〝ただ〟で付いてってやるよ!」
「…それはありがたい。俺は晴信様に用があるから、暫くここで…」
「共に行く!」
「………」
無口かと思えば、強引で自己主張の強い子供だ、と思いながらも翔隆は仕方なく禾巳を連れて、本陣へ行く。
「おお、参ると思っていたぞ。ん…? その子は、お主の子か?」
会って早々、晴信が言った。
翔隆は跪いて苦笑する。
「いえ、小姓です」
「ほー…」
「それよりも、比度はどのように?」
「うむ。十九日に小競り合いがあって、それきりよ。取り敢えず陣を張っての睨み合いじゃ」
「では、向こうもそのつもりでしょうな。この睨み合い…長くなりまするぞ」
「うむ……」
「俺が、何か謀略でも…」
「いや。こうなれば根気比べよ。わざわざ来てくれたというのに、済まんな」
「い、いえ。約束は、果たしまする…」
その答えに微笑すると、晴信は頷いて言う。
「……まあ、二・三日ゆるりと休んだら…帰って良いぞ」
「はっ…」
それは、晴信の配慮であった。
本陣を去ってから、翔隆は虎繁の陣に向かった。
覗いてみると、虎繁は酒を呑みながら遥か彼方を見据えている。
「秋山殿…」
「ん? おお、お主か」
「先程の子ですが、俺が責任を持って養育する事にしました。…晴信様にお聞きしましたが、この戦長くなりまするぞ」
「うむ…お主も、こっちへ来て一杯やらぬか?」
虎繁は笑顔で盃を向ける。
翔隆は頷いて入り、一献戴く。
「恐れ入りまする」
「そう畏まらずとも良い。わしの事も、虎繁と呼べばいい…他の者のように、おつむが固くはないからの」
「はあ…」
虎繁はニッと笑い、話し始める。
「源五郎がな、会う度にお主の事を口にしてな。…髪が白いの目ん玉が青いのと、それはもう細かぁーく、教えるのじゃ。ふむ…会うてみればなる程、御屋形がご執心遊ばされるのも無理はない。お主は何とも無邪気な笑みをする…」
どうやら虎繁は、ほろ酔いらしい。尚も酒をあおると喋る。
「…成る程、お主はさらりと溶け込めるような、さっぱりした奴じゃ。馬場どのや飯富どの達のように厳つくもないし。…かというて小山田どののように近寄り難くもない。源五郎は、ちとしつこくて敵わんし…家中にお主のような者がおると、実に面白い!」
「面白い…?」
「ふふ…。こうして話していても邪魔をせぬし、まるで旧友であるかのように思わされる。それに側におれば、女子よりも引き立つしの!」
虎繁は悪気もなく、本気でそう言っている。
そんな虎繁の性格は、翔隆も同じように好感が持てた。
「御屋形はのぉ、とても皆に平等で、人情を大切になさる。―――が、やはり贔屓があってな。…知に関してはわしを、勇に関しては飯富源四郎どの、猛では典厩さま、利では原隼人佑どの、謀は春日虎綱、器量は馬場どのか飯富どのかと言われておる。んー…まあ、武田で上手くやっていくのであれば、飯富昌景、馬場信房、工藤昌豊の三名に取り入っておくのだな」
「はあ…」
翔隆には、とても難しい事だ。
他に武将達の事や色々と話す内に、虎繁はそのまま寝入ってしまった。
「…しょうのない方だ…」
翔隆は足軽から寝所を教えてもらい、そのまま虎繁を抱きかかえてそこまで運んだ。
それを見ていた兵達が、その腕力と強さに驚愕して、尊敬の眼差しで見たのはいうまでもない。
「そいつが言ってた三人とは、仲がいいのか?」
ふいに禾巳が話し掛けてきたのでドキッとする。
そういえば話を聞いている間、禾巳も居たのだという事をすっかり忘れていたのだ。
…いや、さして気配すら感じなかった。
〈…どうも、存在感のない子だな…〉
それとも、気配を殺す術でも身に付けているのだろうか…?
「お前が、気に掛ける事はないんだよ」
「〝家臣〟ってのは、主君の身の振りようによるもんだろう? ちゃんとしてもらわなきゃ困る」
しっかりした性格だ…こちらの方が押されてしまう程に。
「まあ、いい。そういう事は、帰ってから話そう。…今は、寝なさい」
それから二日後に、翔隆は禾巳を連れて出た。
出るなり翔隆は、
「俺に追い付いて来い! さもなくば解任だっ」
と言い放ち、走り出した。
当然、翔隆はあっという間に消えてしまう。
それでも禾巳は負けじと走った。
そして、もう駄目だと思ってへたり込むと、翔隆が寄って来て休みを与えてくれた。
そんな事を繰り返したものだから、尾張に着くのに二十日も掛かってしまった。
長屋に戻ると、嵩美が侍女姿で出迎えてきた。
「遅いお帰りで。おや、その汚らしい童はなんですか?」
…そういえば、嵩美が居るのを忘れていた…。
「なんだよ、この男女」
負けずに禾巳が言う。すると嵩美はフッと笑う。
「小童……いい度胸だ」
「やるのかっ?!」
禾巳が睨んで言うと、嵩美が二人の尻を叩く。
「二人共、汚れを落としていらっしゃい! そんななりで家には上がらせませんよ!」
「す、すまん…」
翔隆は禾巳を抱き上げて、井戸に向かう。
「あれも家臣かっ?!」
「ああ、そうだ。…お前には、一族の事を教えねばならんな」
井戸の水で汚れを落としながら、翔隆は苦笑した。
この先、この二人は喧嘩が絶えないのだろう…そう思うと、溜め息がこぼれる。
翔隆は信濃に向かっていた。
武田晴信が、信濃の裾花川辺りで上杉景虎軍と戦をしているという情報が入ったのだ。
四月から始まったこの戦いも、まだ続いていたらしい…。
一度は軍を退いたようだが、また同じような所で戦とは……。
取り敢えず前線となっている旭山城に行く。
すると、そこで出会ったのは初対面の原隼人佑昌胤(二十六歳)と栗原左兵衛尉詮冬(二十一歳)、三枝勘解由左衛門尉昌貞(十九歳)。
そして、馬場信房、飯富昌景、真田弾正忠幸隆(四十一歳)らであった。
少しは顔を知っている飯富昌景に話し掛けるが、無視されてしまう。
〈…かなり嫌われているな…〉
当然ではあるが、ここで引き下がる訳にはいかない。
翔隆は兵士に晴信の居場所を聞き出して、そちらに向かう事にした。
とその時、見知らぬ武将と童が言い争うような声がした。
〈何だろうか…?〉
覗いて見ると、その武将は困ったようにその童に何かを語り掛けている。
「あの…どうかなされたのですか…?」
思わず声を掛けると、その人はこちらを見て驚いた顔をする。
「…お主が噂の…織田家臣でありながらも御屋形さまに寵愛を受けている、という者か!」
いきなりの言葉に戸惑うと、その人はニコリと笑う。
「わしは秋山伯耆守虎繁じゃ。お主が〝とびたか〟と申す者であろう?」
「は、はい…」
そう答えると秋山虎繁(二十七歳)は、じろじろと翔隆を見て、何度も頷く。
「ふーむ、なる程…美しい顔立ちじゃな。若き日の源五郎(春日虎綱)も劣りそうじゃ」
その口調から敵意は無い、と感じ取り翔隆は微笑む。
「恐れ入ります。…して、その童は?」
「ああ…」
虎繁は今更のように気付いて苦笑する。
「どうも、陰間らしくてな…」
「か…」
翔隆は唖然として、目をギラつかせているその子供を見た。
つまりこの子は、銭で体を売る男娼。
普通、陰間は宴などに来るものなのだ。
なのに…こんな幼子がわざわざ危険な戦場に来ているとは…。
「まさか…買われたのですか?」
恐る恐る尋ねると、虎繁は困惑して首を横に振る。
「まさか! …我が配下の者が連れているのを見て、咎めて連れて来たのだ。いかに衆道は嗜み、とはいえこんな童を抱くのは忍びない」
「…無口な子ですね」
「うむ。どこから来たか、名は何と申すのかいくら尋ねても答えぬ。〝あんたが買うのか〟と怒鳴ってきた程の気性の荒さだ」
それを聞いて、翔隆は頷く。
「俺に、任せて下さりませぬか?」
「うむ…そうしてくれるとありがたい。わしも行かねばならぬ故…頼んだ!」
そう言いニッと笑うと、虎繁は手を上げて行ってしまった。
それを見送ってから、翔隆はじっとその子を見た。その子もまた、睨み返してくる。
〈…家臣…か。どうせなら、このくらい気の強い方がいいな…〉
翔隆は真顔でしゃがみ、その子と目線を同等にした。
「…名は?」
「禾巳。…粟程の価値はあった方がいいって、お頭が付けてくれた」
…漢字が分かるならそのお頭は落武者か何かか…そう思いながら翔隆は尋ねる。
「年は」
「五つ。親なぞ聞くなよ、いないから。あんたがおれを買うのか? 二銭だぞ」
それを聞いて、翔隆はニコリと笑った。
「違う。――――もし良かったら、俺の家臣にならないか?」
「はぁ…?!」
「そうだな…月に、一金で。勿論、飯も付くぞ」
「いっ…きん?」
禾巳は、目を丸くして驚く。
家臣になれ、などと言われるのは勿論、〝金〟という言葉を聞くのも初めてだからだ。
それを悟って、翔隆は優しく言う。
「えっと…つまりは銭を払うから、俺の家臣になってくれ…と言っているんだ。その代わり厳しいがな…」
「厳しい…? 毎日抱くのか?」
「そんな事じゃないっ! …つまり、俺は…ええと…乱破…うーむ…忍、は分かるか?」
禾巳はコクッと頷く。
聞いていて、こちらが恥ずかしくなるような事を平然として言うものだから、思わず赤面しつつも話を続ける。
「それのようなものだから、仕えるのであれば厳しい修業をつけるし、いつ命を落とすか分からぬぞという意味だ」
そう言うと、禾巳は少し考えてからニッとする。
「そーだな、あんたならいいや。惚れたから、〝ただ〟で付いてってやるよ!」
「…それはありがたい。俺は晴信様に用があるから、暫くここで…」
「共に行く!」
「………」
無口かと思えば、強引で自己主張の強い子供だ、と思いながらも翔隆は仕方なく禾巳を連れて、本陣へ行く。
「おお、参ると思っていたぞ。ん…? その子は、お主の子か?」
会って早々、晴信が言った。
翔隆は跪いて苦笑する。
「いえ、小姓です」
「ほー…」
「それよりも、比度はどのように?」
「うむ。十九日に小競り合いがあって、それきりよ。取り敢えず陣を張っての睨み合いじゃ」
「では、向こうもそのつもりでしょうな。この睨み合い…長くなりまするぞ」
「うむ……」
「俺が、何か謀略でも…」
「いや。こうなれば根気比べよ。わざわざ来てくれたというのに、済まんな」
「い、いえ。約束は、果たしまする…」
その答えに微笑すると、晴信は頷いて言う。
「……まあ、二・三日ゆるりと休んだら…帰って良いぞ」
「はっ…」
それは、晴信の配慮であった。
本陣を去ってから、翔隆は虎繁の陣に向かった。
覗いてみると、虎繁は酒を呑みながら遥か彼方を見据えている。
「秋山殿…」
「ん? おお、お主か」
「先程の子ですが、俺が責任を持って養育する事にしました。…晴信様にお聞きしましたが、この戦長くなりまするぞ」
「うむ…お主も、こっちへ来て一杯やらぬか?」
虎繁は笑顔で盃を向ける。
翔隆は頷いて入り、一献戴く。
「恐れ入りまする」
「そう畏まらずとも良い。わしの事も、虎繁と呼べばいい…他の者のように、おつむが固くはないからの」
「はあ…」
虎繁はニッと笑い、話し始める。
「源五郎がな、会う度にお主の事を口にしてな。…髪が白いの目ん玉が青いのと、それはもう細かぁーく、教えるのじゃ。ふむ…会うてみればなる程、御屋形がご執心遊ばされるのも無理はない。お主は何とも無邪気な笑みをする…」
どうやら虎繁は、ほろ酔いらしい。尚も酒をあおると喋る。
「…成る程、お主はさらりと溶け込めるような、さっぱりした奴じゃ。馬場どのや飯富どの達のように厳つくもないし。…かというて小山田どののように近寄り難くもない。源五郎は、ちとしつこくて敵わんし…家中にお主のような者がおると、実に面白い!」
「面白い…?」
「ふふ…。こうして話していても邪魔をせぬし、まるで旧友であるかのように思わされる。それに側におれば、女子よりも引き立つしの!」
虎繁は悪気もなく、本気でそう言っている。
そんな虎繁の性格は、翔隆も同じように好感が持てた。
「御屋形はのぉ、とても皆に平等で、人情を大切になさる。―――が、やはり贔屓があってな。…知に関してはわしを、勇に関しては飯富源四郎どの、猛では典厩さま、利では原隼人佑どの、謀は春日虎綱、器量は馬場どのか飯富どのかと言われておる。んー…まあ、武田で上手くやっていくのであれば、飯富昌景、馬場信房、工藤昌豊の三名に取り入っておくのだな」
「はあ…」
翔隆には、とても難しい事だ。
他に武将達の事や色々と話す内に、虎繁はそのまま寝入ってしまった。
「…しょうのない方だ…」
翔隆は足軽から寝所を教えてもらい、そのまま虎繁を抱きかかえてそこまで運んだ。
それを見ていた兵達が、その腕力と強さに驚愕して、尊敬の眼差しで見たのはいうまでもない。
「そいつが言ってた三人とは、仲がいいのか?」
ふいに禾巳が話し掛けてきたのでドキッとする。
そういえば話を聞いている間、禾巳も居たのだという事をすっかり忘れていたのだ。
…いや、さして気配すら感じなかった。
〈…どうも、存在感のない子だな…〉
それとも、気配を殺す術でも身に付けているのだろうか…?
「お前が、気に掛ける事はないんだよ」
「〝家臣〟ってのは、主君の身の振りようによるもんだろう? ちゃんとしてもらわなきゃ困る」
しっかりした性格だ…こちらの方が押されてしまう程に。
「まあ、いい。そういう事は、帰ってから話そう。…今は、寝なさい」
それから二日後に、翔隆は禾巳を連れて出た。
出るなり翔隆は、
「俺に追い付いて来い! さもなくば解任だっ」
と言い放ち、走り出した。
当然、翔隆はあっという間に消えてしまう。
それでも禾巳は負けじと走った。
そして、もう駄目だと思ってへたり込むと、翔隆が寄って来て休みを与えてくれた。
そんな事を繰り返したものだから、尾張に着くのに二十日も掛かってしまった。
長屋に戻ると、嵩美が侍女姿で出迎えてきた。
「遅いお帰りで。おや、その汚らしい童はなんですか?」
…そういえば、嵩美が居るのを忘れていた…。
「なんだよ、この男女」
負けずに禾巳が言う。すると嵩美はフッと笑う。
「小童……いい度胸だ」
「やるのかっ?!」
禾巳が睨んで言うと、嵩美が二人の尻を叩く。
「二人共、汚れを落としていらっしゃい! そんななりで家には上がらせませんよ!」
「す、すまん…」
翔隆は禾巳を抱き上げて、井戸に向かう。
「あれも家臣かっ?!」
「ああ、そうだ。…お前には、一族の事を教えねばならんな」
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