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三章 廻転
二十四.甲虫とおかず
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夏も真っ盛りな八月。
武田義信が、信濃の佐久郡を平定。
翔隆も義信に付き添って轡を取っていた。
そんな中、義信が浮かない顔をしていたので、翔隆は心配して尋ねる。
「いかがなさいました?」
「ん? ………いや」
溜め息を漏らして言うと、義信は苦笑する。
「父上の近習のそなたが、わしの戦について来て良いのか?」
「義信様はご嫡男です。合戦には参加する、と約束しましたし…何か不都合でも、ございましょうか?」
逆に聞き返すと、義信はやっと微笑する。
「ほんに…変わり者よ。戻る前に、父上にも会っておけよ?」
「…はい」
微笑んで言うと、翔隆は暫く義信の側に居てから、躑躅ヶ崎館に向かった。
そこで晴信と色々な話をした。
また今年も甲虫の賭けをしていると聞き、翔隆は甲虫を手に義信の元に行く。
「義信様! やりましょう!!」
「以前もやらなかったか…?」
「いいではありませんか! 今度は、賭けませんか?」
翔隆は悪戯っぽい笑みで言う。
「何を」
「夕餉のおかず一品! 負けたら差し上げましょう!」
そう子供っぽく笑って言うものだから、義信は笑って頷いた。
「分かった。では、勝たせて貰おう!」
そう言い、庭に出る。
「ま、負けるな!」
「おお、そのまま飛ばしてしまえ!」
二人で楽しく甲虫を戦わせていると、甲虫を持った四郎(十歳)が駆けて来る。
「わたしもやる!!」
「負けたらおかずが一つ減るぞ?」
負けた義信が四郎に言うと、一瞬たじろぐ。
おかずは、そもそも二つ程度なのだから。
「やる!!」
「よし、三人で勝負だ!」
義信はそう笑って言い、三人でやる事になった。
ーーその日、義信と翔隆は漬物だけで飯を食べる事になった。
翌日、今度は武田晴信が朝餉の前に甲虫を用意して翔隆を呼ぶ。
「昨夜は太郎と四郎を相手に勝負をして負けたそうだな」
「はい。おかずが一つ減って腹も減りました」
笑いながら答えると、晴信は甲虫を手にする。
「では朝餉のおかずはわしと勝負でどうだ」
「ーーー分かりました」
一瞬どうするかと思ったが、主君の言葉には逆らえないので、苦笑して甲虫を選んだ。
すると、やはり四郎が交ざってきて三人での勝負となる。
目印として、それぞれの甲虫の角に違う色の糸を括り付けた。
「それそこだ!」
「負けるなお館様!」
小姓達が声援を上げるが、勝ったのはやはり四郎だった。
「おかずは食べきれないので要りません! 代わりに珍しい物を下さい」
そう言ったので、武田晴信と翔隆は微笑して頷く。
晴信は短刀を四郎に渡した。
翔隆は河原まで行って、丸い小石を見付けてきて渡した。
「白くて丸っこいから、珍しいでしょう?」
「そうだな!」
四郎は短刀よりも小石の方が喜んだ。
わざわざ探してきた珍しい物、という事が尚更嬉しかったのだ。
翔隆は、昼過ぎに尾張に戻る事にした。
武田義信が、信濃の佐久郡を平定。
翔隆も義信に付き添って轡を取っていた。
そんな中、義信が浮かない顔をしていたので、翔隆は心配して尋ねる。
「いかがなさいました?」
「ん? ………いや」
溜め息を漏らして言うと、義信は苦笑する。
「父上の近習のそなたが、わしの戦について来て良いのか?」
「義信様はご嫡男です。合戦には参加する、と約束しましたし…何か不都合でも、ございましょうか?」
逆に聞き返すと、義信はやっと微笑する。
「ほんに…変わり者よ。戻る前に、父上にも会っておけよ?」
「…はい」
微笑んで言うと、翔隆は暫く義信の側に居てから、躑躅ヶ崎館に向かった。
そこで晴信と色々な話をした。
また今年も甲虫の賭けをしていると聞き、翔隆は甲虫を手に義信の元に行く。
「義信様! やりましょう!!」
「以前もやらなかったか…?」
「いいではありませんか! 今度は、賭けませんか?」
翔隆は悪戯っぽい笑みで言う。
「何を」
「夕餉のおかず一品! 負けたら差し上げましょう!」
そう子供っぽく笑って言うものだから、義信は笑って頷いた。
「分かった。では、勝たせて貰おう!」
そう言い、庭に出る。
「ま、負けるな!」
「おお、そのまま飛ばしてしまえ!」
二人で楽しく甲虫を戦わせていると、甲虫を持った四郎(十歳)が駆けて来る。
「わたしもやる!!」
「負けたらおかずが一つ減るぞ?」
負けた義信が四郎に言うと、一瞬たじろぐ。
おかずは、そもそも二つ程度なのだから。
「やる!!」
「よし、三人で勝負だ!」
義信はそう笑って言い、三人でやる事になった。
ーーその日、義信と翔隆は漬物だけで飯を食べる事になった。
翌日、今度は武田晴信が朝餉の前に甲虫を用意して翔隆を呼ぶ。
「昨夜は太郎と四郎を相手に勝負をして負けたそうだな」
「はい。おかずが一つ減って腹も減りました」
笑いながら答えると、晴信は甲虫を手にする。
「では朝餉のおかずはわしと勝負でどうだ」
「ーーー分かりました」
一瞬どうするかと思ったが、主君の言葉には逆らえないので、苦笑して甲虫を選んだ。
すると、やはり四郎が交ざってきて三人での勝負となる。
目印として、それぞれの甲虫の角に違う色の糸を括り付けた。
「それそこだ!」
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「おかずは食べきれないので要りません! 代わりに珍しい物を下さい」
そう言ったので、武田晴信と翔隆は微笑して頷く。
晴信は短刀を四郎に渡した。
翔隆は河原まで行って、丸い小石を見付けてきて渡した。
「白くて丸っこいから、珍しいでしょう?」
「そうだな!」
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翔隆は、昼過ぎに尾張に戻る事にした。
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