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六章 決別
二.迷霧
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菜種梅雨の続く中で、義成は一人 大木の下で雨宿りをしながら滝を見つめていた。
あれからずっと、どうするべきかを悩んできた。
〈私が…狭霧の、嫡子…〉
そうとは知らずに育った。
いや、何も教えられてはいない。
むしろ隠されて…存在すら隠されて育った。
屋敷の一室に閉じ込められるようにして育ったのだ。
歩き回ると怒られた。
母だけが味方で、五歳の時に人質に来た陽炎だけが親友で。
〈それなのに、嫡子…と…?〉
そんな酷い扱いを受けてきたのに、今更〝長〟になれだなどとーーー。
虫が良すぎるのではなかろうか?
〈…嫡子ーーー〉
しかし、思い返せば京羅は優しかった。
刀術や体術の師匠と、霊術の師匠も付けてくれた。
〈元服名も…〉
元服名も、わざわざ京羅がやってきて共に字を考えてくれた…。
刀や反物等も祝いにくれたし…。
〈いや、だからといって…〉
義成は手を口に当てて考える。
だが、切ったのはそちら…。
重症の時に優しく接してくれた志木や弥生、楓や千太に感謝しているし…懐いてくる翔隆を裏切れない。
〈だが、母上は翔隆のせいでーーーっ!〉
ただ一人の身内として接し、守りたかった母親が殺された原因は翔隆ーーー。
〈ーーーっ〉
義成は、右手で顔を覆いながら目を瞑る。
幼少の頃の仕打ちは、確かに酷かった。
しかし、嫡子であると誰も知らなかったのなら、それも仕方が無い事だろう…。
〈いや…恐らく京羅は知っていた…〉
知っていたからこそ、幼少の頃も…そして操られていた時も、優しく接してきたのだろう。
だからといって…また、翔隆を裏切るのか…?
わざわざ死に掛けてまで、自分に掛けられた術を解く為に戦った翔隆をーーー。
全身で信頼を寄せる翔隆をーーーまた裏切って、狭霧に行くのか…?!
義成は天を仰いで大きく溜め息を吐く。
「…どうしたら、いい…?」
狭霧だとは…初めからそうと知っていれば、こんなに悩みはしなかった。
初めから〝狭霧の嫡子〟として、人質交換の掟に従って不知火に来ていたら、こんな事にはならなかった筈だ。
嫡子同士で師弟関係になり、信頼を寄せるなどという事にはーーー。
「翔隆…ーーー」
今頃、何処にいるのだろうか…?
翔隆を裏切りたくはない。
しかし、狭霧の嫡子であるのならばーーーその務めを、この身の責務を…果たさなければならない。
嫡子は一人しかいないのだから…。
義成は天を仰いだまま目を閉じる。
ーーー翔隆と出会い、楓と恋仲となりいずれは義兄弟となる筈だった。
しかし、それが赦される身では無かったのだーーー。
~だったら、~であれば…などと過去の事を思ってもどうにもなりはしない。
〈狭霧の嫡子であったーーー〉
そう母が書いていた、と…。
何か隠し育てねばならない事情があったのだろうか?
それを聞きたい。
しかし、母はもう死んでいる…。
誰にも、問えない…。
「………」
義成はじっと、天の涙のように降り続く雨を見上げていた。
あれからずっと、どうするべきかを悩んできた。
〈私が…狭霧の、嫡子…〉
そうとは知らずに育った。
いや、何も教えられてはいない。
むしろ隠されて…存在すら隠されて育った。
屋敷の一室に閉じ込められるようにして育ったのだ。
歩き回ると怒られた。
母だけが味方で、五歳の時に人質に来た陽炎だけが親友で。
〈それなのに、嫡子…と…?〉
そんな酷い扱いを受けてきたのに、今更〝長〟になれだなどとーーー。
虫が良すぎるのではなかろうか?
〈…嫡子ーーー〉
しかし、思い返せば京羅は優しかった。
刀術や体術の師匠と、霊術の師匠も付けてくれた。
〈元服名も…〉
元服名も、わざわざ京羅がやってきて共に字を考えてくれた…。
刀や反物等も祝いにくれたし…。
〈いや、だからといって…〉
義成は手を口に当てて考える。
だが、切ったのはそちら…。
重症の時に優しく接してくれた志木や弥生、楓や千太に感謝しているし…懐いてくる翔隆を裏切れない。
〈だが、母上は翔隆のせいでーーーっ!〉
ただ一人の身内として接し、守りたかった母親が殺された原因は翔隆ーーー。
〈ーーーっ〉
義成は、右手で顔を覆いながら目を瞑る。
幼少の頃の仕打ちは、確かに酷かった。
しかし、嫡子であると誰も知らなかったのなら、それも仕方が無い事だろう…。
〈いや…恐らく京羅は知っていた…〉
知っていたからこそ、幼少の頃も…そして操られていた時も、優しく接してきたのだろう。
だからといって…また、翔隆を裏切るのか…?
わざわざ死に掛けてまで、自分に掛けられた術を解く為に戦った翔隆をーーー。
全身で信頼を寄せる翔隆をーーーまた裏切って、狭霧に行くのか…?!
義成は天を仰いで大きく溜め息を吐く。
「…どうしたら、いい…?」
狭霧だとは…初めからそうと知っていれば、こんなに悩みはしなかった。
初めから〝狭霧の嫡子〟として、人質交換の掟に従って不知火に来ていたら、こんな事にはならなかった筈だ。
嫡子同士で師弟関係になり、信頼を寄せるなどという事にはーーー。
「翔隆…ーーー」
今頃、何処にいるのだろうか…?
翔隆を裏切りたくはない。
しかし、狭霧の嫡子であるのならばーーーその務めを、この身の責務を…果たさなければならない。
嫡子は一人しかいないのだから…。
義成は天を仰いだまま目を閉じる。
ーーー翔隆と出会い、楓と恋仲となりいずれは義兄弟となる筈だった。
しかし、それが赦される身では無かったのだーーー。
~だったら、~であれば…などと過去の事を思ってもどうにもなりはしない。
〈狭霧の嫡子であったーーー〉
そう母が書いていた、と…。
何か隠し育てねばならない事情があったのだろうか?
それを聞きたい。
しかし、母はもう死んでいる…。
誰にも、問えない…。
「………」
義成はじっと、天の涙のように降り続く雨を見上げていた。
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