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六章 決別
十三.出立
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寝続けて十六日目にして、翔隆はやっと粥を食えるまでに回復した。
結局、義成の事を何も解決出来ないまま、翔隆は一成を帰した…。
〈もう八月……奥州を回って東海に戻る頃には、年が明けているな……〉
雑穀の粥を四・五杯も食べると体力を取り戻し、元気になってきた。
「この分なら、すぐに良くなられましょう」
そう言いにっこり笑うと、東原は膳を下げた。
側に居た卯松と樋口与六も頷いて立ち上がる。
「ではな。体を厭えよ」
二人が立ち去るのを見送ると、もう夜となっている事に気付く。
浅葱と樟美も寝ているので、独りになってしまった…。
ずっと眠り続けていたせいか、翔隆は目が冴えていた。
〈……信長様…〉
想うだけで、胸が締め付けられて痛くなる。
〈駄目だ! こんな弱気になっていては駄目だっ!〉
翔隆はパシパシと両手で己の両頬を叩く。
〈許して貰わねば……何としても許して貰わねば! …戦で武功など立てられない…そんな事望まれてはいない……どうすれば…――――!〉
出来る限りの事を考えてみた。
あの気性が激しく機嫌のころころ変わる信長に、どうすれば許して貰えるかを懸命に考えた。
〈…婚礼には護衛に当たって……戦があれば助勢しに行って………〉
それだけでは駄目だ…。
その内に、また義成の事を思い出した。
〈…義成が狭霧の長となった………向こうに嫡子が生まれたら、やはり子供を交換するのだろうか? いや! そんな掟糞食らえだっ! ……それよりも…皆は大丈夫だろうか……?〉
そう考えて、今度は奇妙丸の事を思い出す。旅に出てから、一年に一度は文をくれた。
それには、体はどうか、父信長や兄弟達はこうだ、と書かれていた……。
〈…何の返事も出していないな………さぞご案じ召されておいでだろうに……………ああ!どうやって許して貰おうっ!〉
文の返事などよりも、いかに許して貰うか…だ。
考える事があり過ぎて頭が回らない…。
その内に翔隆は眠りに落ちていった…――――。
翌日。
やっと体力が回復した…何故か、心も晴れていて気持ちがいい。
翔隆はすぐに旅支度に掛かる。
すると子供達は卯松達の下に最後の別れを告げに行った。
「…人懐っこい子達だな…」
苦笑している所に、東原が血相を変えて走って来た。
「もう行かれるのですかっ?! 治ったばかりのお体で………傷も癒えておられぬというのに!」
「いつまでもここに居る訳にはいかないんだ…。色々と、面倒を掛けてしまったな」
「せめて御屋形さまがお戻りになられるまで……っ!」
「待っていたいが……北の冬は早い。雪が積もってしまう前に、どうしても北を回らなくてはならぬのだ…。輝虎様には申し訳無いが………いつか必ず参ります…と、伝えてくれるか…?」
「でも…っ」
「…そんな悲しそうな顔をしないでくれ。名残惜しいが…分かってくれ」
翔隆は、ぺこりと頭を下げて優しく言った。
すると東原は、じわりと目に涙を浮かべながらも頷いた。
翔隆は染め粉で髪を染め、《力》で目を染めて別れを告げ、また旅立つ。
…何故か食料として、握り飯や餅をくれた。
〈…輝虎様、いずれまた参ります〉
信濃の方角を見ながら思い、翔隆は影疾の轡を取って歩き出した。
結局、義成の事を何も解決出来ないまま、翔隆は一成を帰した…。
〈もう八月……奥州を回って東海に戻る頃には、年が明けているな……〉
雑穀の粥を四・五杯も食べると体力を取り戻し、元気になってきた。
「この分なら、すぐに良くなられましょう」
そう言いにっこり笑うと、東原は膳を下げた。
側に居た卯松と樋口与六も頷いて立ち上がる。
「ではな。体を厭えよ」
二人が立ち去るのを見送ると、もう夜となっている事に気付く。
浅葱と樟美も寝ているので、独りになってしまった…。
ずっと眠り続けていたせいか、翔隆は目が冴えていた。
〈……信長様…〉
想うだけで、胸が締め付けられて痛くなる。
〈駄目だ! こんな弱気になっていては駄目だっ!〉
翔隆はパシパシと両手で己の両頬を叩く。
〈許して貰わねば……何としても許して貰わねば! …戦で武功など立てられない…そんな事望まれてはいない……どうすれば…――――!〉
出来る限りの事を考えてみた。
あの気性が激しく機嫌のころころ変わる信長に、どうすれば許して貰えるかを懸命に考えた。
〈…婚礼には護衛に当たって……戦があれば助勢しに行って………〉
それだけでは駄目だ…。
その内に、また義成の事を思い出した。
〈…義成が狭霧の長となった………向こうに嫡子が生まれたら、やはり子供を交換するのだろうか? いや! そんな掟糞食らえだっ! ……それよりも…皆は大丈夫だろうか……?〉
そう考えて、今度は奇妙丸の事を思い出す。旅に出てから、一年に一度は文をくれた。
それには、体はどうか、父信長や兄弟達はこうだ、と書かれていた……。
〈…何の返事も出していないな………さぞご案じ召されておいでだろうに……………ああ!どうやって許して貰おうっ!〉
文の返事などよりも、いかに許して貰うか…だ。
考える事があり過ぎて頭が回らない…。
その内に翔隆は眠りに落ちていった…――――。
翌日。
やっと体力が回復した…何故か、心も晴れていて気持ちがいい。
翔隆はすぐに旅支度に掛かる。
すると子供達は卯松達の下に最後の別れを告げに行った。
「…人懐っこい子達だな…」
苦笑している所に、東原が血相を変えて走って来た。
「もう行かれるのですかっ?! 治ったばかりのお体で………傷も癒えておられぬというのに!」
「いつまでもここに居る訳にはいかないんだ…。色々と、面倒を掛けてしまったな」
「せめて御屋形さまがお戻りになられるまで……っ!」
「待っていたいが……北の冬は早い。雪が積もってしまう前に、どうしても北を回らなくてはならぬのだ…。輝虎様には申し訳無いが………いつか必ず参ります…と、伝えてくれるか…?」
「でも…っ」
「…そんな悲しそうな顔をしないでくれ。名残惜しいが…分かってくれ」
翔隆は、ぺこりと頭を下げて優しく言った。
すると東原は、じわりと目に涙を浮かべながらも頷いた。
翔隆は染め粉で髪を染め、《力》で目を染めて別れを告げ、また旅立つ。
…何故か食料として、握り飯や餅をくれた。
〈…輝虎様、いずれまた参ります〉
信濃の方角を見ながら思い、翔隆は影疾の轡を取って歩き出した。
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