デルモニア紀行

富浦伝十郎

文字の大きさ
28 / 160
ゲルブ平原

最後の紅茶

しおりを挟む


「君は”本人”なんだから分かってると思うけど、ホントだったよね」
進藤は紅茶に手を伸ばす。

「僕たちがPCを”生まれ変わり”のように捉えてそれを躊躇してるのに対して、
野田君はPCをモノとして捉えているのに”それになる”ことに躊躇がなかった。
進路も聞いた。 驚いたよ。正にウチTFが向かおうとしてる分野じゃないの」
一口啜ってカップを置く。

「…まあ、 ”コレ”の事までは流石に話せなかったけどねw」
得意げに笑う。
間違いなくTFのトップシークレットなんだろう。
( そもそもリアルで会ったんだろうからな。でなきゃこんな体や服のデータ採れないし )

「ウチで働いて貰ってもいいと思ったくらいだよ」
「それは光栄無理ゲーです」
俺も紅茶を飲む。 上等な葉を上手に淹れてある。 これは本当に凄い事だ。
( 俺は今正に文明のフェーズが変わる過程を目の当りにしているのだろう )

「僕は野田君に頭を下げてお願いしたよ。 PCをFQに提供して欲しい、と」
( ”お願い”されたんだな、オレ )

「野田君は言った。『引き受ける。が PCは”申込時”の状態で作ってくれ』と」
( ほ~ )
「その方がADっぽくなるし、”特命エージェント”みたいなのは興醒めだ、と」
( …恰好つけやがって)
「でもその内にADじゃないのは分かってしまうだろう、とも言ってたけどね。
 へぇ~ って感心したよ。 ホントにそうなった訳だけど」

 進藤はもう一口紅茶を飲んだ。

「僕は君にADサーバーを委ねることに決めた」
( だから指を指さないで って )
「作るのはウチのスタッフ。 評価するのはキミ。 これが”開発のスキーム”だ」

 ・・・てことは?

「スタッフが君を評価するのはお門違いだ、と言ってやった」
進藤が鼻を鳴らす。
「オレが低頭して頼んだのに 『怖くなったからBANしました』 とか言えるか?」
( "オレ" って言った ! 今、オレって言った !  )
「…と怒鳴り付けてしまったよ。 スタッフを」
・・・・
「君でNGなら他のプレイヤーではもっと不味いことになるのは明らかだからね。
仕様変更は仕方ないとしても君にはきちんと説明しておくのがスジだと思ったんだ」


 進藤が両手を膝に置いて深々と頭を下げた。


「すまない。  ADサーバーの仕様を変更させて貰った 」







 ”仕様変更” はユーザーにとって”物理法則が変わる” ようなものだ。
ゲームやアプリ(サービス)が全くの別物になってしまうこともある。
進藤が説明してくれた変更点は以下の通りだった。


   1) エコノミープレイヤーは初期状態から人間と会話できる
   2)  KC キーキャラクターはEプレイヤーを攻撃しない
   3) Lvの上昇は5を超えないものとする


 ・・・これで全て。 それ以外の変更は無いそうだ。
無料プレイヤータダ乗り客を ”甘やかす” つもりは些かも無い、ということだろう。
正直、想像していたよりも  ”しょっぱい”。
今までは ”討伐対象” に過ぎなかった者に ”交渉の余地” を与えた、という感じ。
大物食いジャイキリ ” による ”爆上がり” もしっかり潰している。
(・・・しかしまあこんなもんか ? )
 1)に”初期状態から” とあるが 特定の段階で会話能力は獲得できたのだろう。
”人化” のスキルやアイテムも存在する可能性が高い。( 何たって”FQ”だからな )




「…大丈夫ですか? それで 」
説明を終えた進藤に俺は尋ねる。
「? どういうことかな」
進藤が怪訝な表情で問い返して来た。
「やっぱり”エコノミー”が設定になっちゃってるじゃないですか」
きょとんとする進藤。
カンストクリア初期リスタート状態でのエントリーより絶対面白い。 ”新しい”ゲームだから」
進藤の表情が安堵からゆっくりと笑顔に変わる。
「…君がそう言うだろう って云うスタッフもいたんだけど、 ね」
俺はもう一つレーズンバターを口にする。
( …これがFQで食えたらな )
「ADがエコノミーばかりになって赤字になっちゃうかもしれませんよ?」
「全員がエコノミーでも大丈夫、て体制で始めるさ」
進藤は胸を張る。
確かにそうすべきだ。
”テスト”ならどうとでもなるが通常営業となると話は別だ。
どんなプレイヤーが何をやっても”破綻”が起きないようにしなければならない。
その為の”βテスト”だ。


「僕は妥当だと思います」
そう言ってカップの紅茶を飲み干す。( 少し温くなって来ているがやはり美味い)

「…ではそろそろ戻らせて貰いましょう」
俺はソファから立ち上がった。
「お茶とお菓子をご馳走様でした」
同じく腰を上げた進藤に頭を下げる。
「それと、BANを止めて頂いて有難うございます」
進藤は無言で頷いた。
右手を俺の方に差し出して来る。( 握手か?)
握り返すと左手で肩を抱かれた。

「…こちらこそ有難う」
耳元で囁かれた。
「もっと話たかった。 …話しちゃイケナイんだけど」
「いえ、十分です。 PCになった甲斐がありました」

 進藤が一歩下がって陛下にするようなお辞儀をして来た。

「宜しく頼む、と言いたい処だけど ”頑張ってくれ”、かな」
イッチャッテマスヨ シャチョーサン。

 部屋にあの転位光が射して来る。
満ちて来る光の中で 進藤はずっと頭を下げたままだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...