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ゲルブ平原
最後の紅茶
しおりを挟む「君は”本人”なんだから分かってると思うけど、ホントだったよね」
進藤は紅茶に手を伸ばす。
「僕たちがPCを”生まれ変わり”のように捉えてそれを躊躇してるのに対して、
野田君はPCをモノとして捉えているのに”それになる”ことに躊躇がなかった。
進路も聞いた。 驚いたよ。正にウチが向かおうとしてる分野じゃないの」
一口啜ってカップを置く。
「…まあ、 ”コレ”の事までは流石に話せなかったけどねw」
得意げに笑う。
間違いなくTFのトップシークレットなんだろう。
( そもそもリアルで会ったんだろうからな。でなきゃこんなデータ採れないし )
「ウチで働いて貰ってもいいと思ったくらいだよ」
「それは光栄です」
俺も紅茶を飲む。 上等な葉を上手に淹れてある。 これは本当に凄い事だ。
( 俺は今正に文明のフェーズが変わる過程を目の当りにしているのだろう )
「僕は野田君に頭を下げてお願いしたよ。 PCをFQに提供して欲しい、と」
( ”お願い”されたんだな、オレ )
「野田君は言った。『引き受ける。が PCは”申込時”の状態で作ってくれ』と」
( ほ~ )
「その方がADっぽくなるし、”特命エージェント”みたいなのは興醒めだ、と」
( …恰好つけやがって)
「でもその内にADじゃないのは分かってしまうだろう、とも言ってたけどね。
へぇ~ って感心したよ。 ホントにそうなった訳だけど」
進藤はもう一口紅茶を飲んだ。
「僕は君にADサーバーを委ねることに決めた」
( だから指を指さないで って )
「作るのはウチのスタッフ。 評価するのはキミ。 これが”開発のスキーム”だ」
・・・てことは?
「スタッフが君を評価するのはお門違いだ、と言ってやった」
進藤が鼻を鳴らす。
「オレが低頭して頼んだのに 『怖くなったからBANしました』 とか言えるか?」
( "オレ" って言った ! 今、オレって言った ! )
「…と怒鳴り付けてしまったよ。 スタッフを」
・・・・
「君でNGなら他のプレイヤーではもっと不味いことになるのは明らかだからね。
仕様変更は仕方ないとしても君にはきちんと説明しておくのがスジだと思ったんだ」
進藤が両手を膝に置いて深々と頭を下げた。
「すまない。 ADサーバーの仕様を変更させて貰った 」
”仕様変更” はユーザーにとって”物理法則が変わる” ようなものだ。
ゲームやアプリ(サービス)が全くの別物になってしまうこともある。
進藤が説明してくれた変更点は以下の通りだった。
1) Eプレイヤーは初期状態から人間と会話できる
2) KC はEプレイヤーを攻撃しない
3) Lvの上昇は1戦闘当たり5を超えないものとする
・・・これで全て。 それ以外の変更は無いそうだ。
無料プレイヤーを ”甘やかす” つもりは些かも無い、ということだろう。
正直、想像していたよりも ”しょっぱい”。
今までは ”討伐対象” に過ぎなかった者に ”交渉の余地” を与えた、という感じ。
”大物食い” による ”爆上がり” もしっかり潰している。
(・・・しかしまあこんなもんか ? )
1)に”初期状態から” とあるが 特定の段階で会話能力は獲得できたのだろう。
”人化” のスキルやアイテムも存在する可能性が高い。( 何たって”FQ”だからな )
「…大丈夫ですか? それで 」
説明を終えた進藤に俺は尋ねる。
「? どういうことかな」
進藤が怪訝な表情で問い返して来た。
「やっぱり”エコノミー”が一番楽しめる設定になっちゃってるじゃないですか」
きょとんとする進藤。
「カンストや初期状態でのエントリーより絶対面白い。 ”新しい”ゲームだから」
進藤の表情が安堵からゆっくりと笑顔に変わる。
「…君がそう言うだろう って云うスタッフもいたんだけど、 ね」
俺はもう一つレーズンバターを口にする。
( …これがFQで食えたらな )
「ADがエコノミーばかりになって赤字になっちゃうかもしれませんよ?」
「全員がエコノミーでも大丈夫、て体制で始めるさ」
進藤は胸を張る。
確かにそうすべきだ。
”テスト”ならどうとでもなるが通常営業となると話は別だ。
どんなプレイヤーが何をやっても”破綻”が起きないようにしなければならない。
その為の”βテスト”だ。
「僕は妥当だと思います」
そう言ってカップの紅茶を飲み干す。( 少し温くなって来ているがやはり美味い)
「…ではそろそろ戻らせて貰いましょう」
俺はソファから立ち上がった。
「お茶とお菓子をご馳走様でした」
同じく腰を上げた進藤に頭を下げる。
「それと、BANを止めて頂いて有難うございます」
進藤は無言で頷いた。
右手を俺の方に差し出して来る。( 握手か?)
握り返すと左手で肩を抱かれた。
「…こちらこそ有難う」
耳元で囁かれた。
「もっと話たかった。 …話しちゃイケナイんだけど」
「いえ、十分です。 PCになった甲斐がありました」
進藤が一歩下がって陛下にするようなお辞儀をして来た。
「宜しく頼む、と言いたい処だけど ”頑張ってくれ”、かな」
イッチャッテマスヨ シャチョーサン。
部屋にあの転位光が射して来る。
満ちて来る光の中で 進藤はずっと頭を下げたままだった。
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