デルモニア紀行

富浦伝十郎

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帝都デリドール

君の名は

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「それは良かった」
諦観に包まれていたように見えた娘が喜びに顔を輝かせている。
俺もほっこりした気持ちになった。

「・・・騎士様、だったのですね?」
仮面で隠した俺の顔を覗き込むように訊いて来る。
何だと思ってたのかな?

「賊共の巣窟に潜入せねばならぬ故、盗賊のフリをしておったのだ」
言葉遣いも汚かったしな! 
「怖い思いをさせてしまったかもしれぬ。 許せ」
頭を下げて詫びる俺。


「そんなこと! 目も見えませんでしたし怖くなどありませんでした」
少女が首を振る。
「有難うございます。 この御恩は一生忘れません!」
深々と頭を下げて来た。
照れ臭いな! 

「いや、自分は神命を果たしたまで。 礼には及ばぬ」
俺は娘の手を取って言った。
少女の手からエリクサーの空瓶を回収し、代わりに金貨を握らせる。
「これを取っておけ。 他人に見付からぬようにな」
腐る程持ってる俺には鼻クソみたいな額だが一般庶民には大金だ。

「・・お お金まで! よろしいのですか?」
( エリクサーに比べたらどってことないんだが )
「些少だが、何かの折には役に立つやもしれぬ。 大事にせよ」
「何と申し上げれば良いか・・・重ね重ね有難うございます!」
少女が再び頭を下げる。

「顔を上げるがよい。これからまだ行くところがある」
そう言って 俺は再び少女を抱え上げた。

 視力を回復してやり若干の金を持たせたとは言え、この場に少女を放置して去ればどうなるか分かったものではない。 また強盗の類に襲われて金を奪われるのみならず攫われたり殺されてしまった(ということになった)ら元の木阿弥だ。
後日また同じミッションを繰り返さねばならない 。

 もっと "踏み込んで" 行く。 もっと ”切り開いて” 行く。 
単なるクエストを越えてこのデリドールに新たなエピソードを刻み込んでやるのだ。


「また少し走るが・・」
俺は抱えた少女に声を掛けた。

「その前に尋ねたい事がある。よいか?」
「・・はい、如何様な御質問でも!」
少女が力強い言葉を返して来る。 
「 其方の名をまだ知らぬ。 名は何と言う?」
俺は尋ねた。
「ノーラと申します」
少女が答えた。
「覚え置き頂ければ光栄です」
さっき"誘拐屋" から救出した娘にも名前はあった筈だ。
クエストで受けた時には確か ”概要” に載っていたと記憶する。
しかしこの少女とは今日が初対面。 俺の知らなかったキャラだ。

「良い名だ。 忘れまいぞ」
記憶に刻み付ける。
「・・いや、すまぬ。 我が先に名乗るべきであったな」
はっと気付いて詫びる。
( 騎士を騙るなら基本だろうに!)

「我が名はアキラという」
「アキラ… 様」
少女が復唱する。
「そう。 ”アキラ”だ。 遠い国から来た」
FQ世界デルモニアでは洋名が殆どだ(和名は珍しい)からな。

「恩人たる騎士様の名。 生涯忘れませぬ」
「有難い。 では征くぞ!」
会話を打ち切って俺は走り出す。
御婦人を抱えたままのお喋りは落ち着かないからな。




 夜も更けて来たせいか通りに人影は見えない。
目指すは先程娘を救出してやった大商会の会頭の屋敷だ。
軽く流しても瞬く間に着いた。

「頼もう!」
娘が無事帰って来た為か一人だけ残っていた門衛に声を掛ける。
腕に抱えていたノーラを下ろし隣に立たせた。

「これは騎士様。 当家にどのような御用件でしょうか?」
軽装で比較的高齢だがそれなりに心得のありそうな門衛だ。

「先程こちらの娘御を救い出し警護騎士に届けさせた者だ」
「アン様をお助け下さった騎士様でございますか!」
( そうだ、確か”アン” つったな! )
「如何にも」
「お、お待ちしておりました!」
門衛がバシッと敬礼の姿勢を取る。
「主から朝まで門を開けて待つよう指示されておりまして・・」
そう言いつつ門扉の脇にある紐を引く。 屋敷に報せたのだろう。
「直ぐに迎えの者が参ります故 暫しお待ちを!」
顔の汗を拭く門衛。 ”一仕事終えた” という雰囲気。
俺の方も会頭への取り次ぎを依頼する手間が省けたので助かった。

「・・ところで、そちらのお嬢様は?」
汗を拭き終わった門衛が訊いて来る。
「この娘はあの後     別所にて我が救い出した者だ」
「は、半刻も経ぬ内にアン様の他に もう一人 !?」
あんぐりと口を開ける門衛。
( 少し忙しかったか? )
屋敷の方から別の夜衛が走って来た。

「お待たせしました! どうぞこちらへ!」
敬礼して俺達を屋敷の方へ手招きする。
「主がずっとお待ち申し上げております!」

 俺はノーラの手を曳いて夜衛について行く。
俺達を屋敷の入口まで案内すると 夜衛は戸を開けて中へ入るよう促した。
「大儀であった」
夜衛に声を掛けてノーラと中に入る。
「失礼する」
玄関ホールには男がただ一人で立っていた。 この屋敷の主人だろう。
頭を下げてお辞儀をしている。 案内の夜衛が後ろで扉を閉めた。
広いホールに俺と、ノーラと男の三人だけになった。

「騎士様ようこそお越し下さいました。 リンゲル商会のジェームズでございます」
頭を起こして挨拶を続ける。
「この度はよくぞ私めの娘を・・・ っ!」


口上の途中で会頭と思しき男がいきなりジャンピング土下座をした。




「・・・で、殿下  ?!  」





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