73 / 153
帝都デリドール
初めての夜明け
しおりを挟む汎用スキルは一度必要な要件を満たせば獲得できるけれども、
スキルレベルを上げるには当該動作を100回クリアせねばならない。
( まあ それは”人間の場合” であって モンスターの俺は10回だが )
しかしFQの ”裏の仕組み”をNPCにぶっちゃけるのもどうかと思うしな。
「ガルドス、皆、 聞いてくれ」
俺は一同に向かって話し出す。
「お前らは鍛えればもっと強くなるし速くなる。 鍛 え れ ば、な」
盗賊だった16人は今、兵士の顔になって聞いている。
「ガルドス。 お前が率先して皆を引っ張るんだ」
「はい会長」
軍隊じゃないから敬礼は無しだが、俺の冒険者組合は階級組織だ。
「いいか、鍛錬てのは”繰り返しだ” 。 回数を熟せ。 何百回も な」
「はい会長」
「それと”実戦で勝つ” のも有効だ。 街の外で虫や兎を狩るのから始るといい」
( 俺も初めの頃は只管バグやモールを狩ってたもんな )
「そのうちに狼や豹だって倒せるようになる」
「分かりました」
「任せたぞ」
俺はガルドスの右手をとってがっしり握りながら言った。
「お前の指示に従わない奴や悪さをする奴はお前の”ポイント” にしてやれ」
他の組合員に向かって言う。
「お前達15人は支部長を支えて第一支部を盛り上げるんだぞ ! 」
「「「はい会長!」」」
一斉に返事が返って来る。
・・・俺はガルドスと此の15人にFQ世界初の冒険者組合の設立を託す。
今まではクエストを受ける存在であったNPCに此方からクエストを与えたのだ。
「俺が帰ってくる迄に看板と依頼を張り出す掲示板くらいは作っておけよ?」
ガルドスの肩を叩きながら指示を残す。
NPCにも"意志" と "記憶" があるのなら何事も言葉にしておくべきだろう。
”考え” や ”気持ち” は明確な形で表さないと伝わらないのは人間も同じだ。
「先に言った通り、俺は他の街、他の国にも ”組合” を作っていく」
皆にそう言ってふと気付いた。
( そうか。 それが今回のオレの ”クエスト” って事なのかもな )
このADサーバーの世界にただ一人、テストプレイヤーとして降り立った俺が、
只生き延びて 既存のクエストを熟して行くのではなくデルモニアを変える。
敵性NPCを倒してしまうのではなく強制的にその素性を改変することによって。
そんな事が可能なのかは分からない。 完全な ”無理ゲー” かもしれない。
( ・・ちょっとワクワクして来たな ! )
「見てみろ。 お前達が初めて拝む朝日だ ♪ 」
俺は第一支部の向こうに聳える帝城の天守を指す。
球状をした天守の屋根が朝日を反射して煌めいている。
実際に目にするのはやはり初めてなのだろう。 皆黙って見詰めている。
「これからは毎日の天気を覚えておくんだぞ」
俺は最後に付け加える。
「戻って来たら ”何時雨が降った” か訊くからな ! 」
「「「はい会長!」」」
返事に頷いた俺は支部の二階の屋根まで跳躍した。
路上からガルドス達がぽかんとした顔で見上げている。
俺は更に三階まで跳び、次いで支部が背を接する西壁の上に上がった。
「・・・では暫く留守にする。 皆、励めよ!」
「「「いってらっしゃい会長!」」」
城壁の上から呼び掛けると一同が手を振って見送ってくれた。
朝日が眩しい。
俺は身を翻してデリドールの城壁から外へと飛び降りた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる