鳥かご童話

ななはら

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一章

フォルツァ家のアルベルトは

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マリーが小枝を踏み折ると、驚いた小鳥たちが木々の間から飛んでいきました。
前を歩いていた少年が振り返ります。

「ここらは木の根があちこちにあるよ。気をつけて」

マリーがこっくりと頷くと、「いいこだ」と少年は頭を撫でます。同じくらいの歳でしょうに、と困惑しますが、そんなマリーの様子には気づかず、少年は歩を進めます。

「そう言えば、君、名前は?」
「マリーよ」

マリーが足元を気にしながら答えると、少年はふふっと息をもらしました。

「猫の方が長いんだね」
「…エリザは猫だけど、友達だわ」
「なるほど」

少し距離が開いてしまうたびに、少年は立ち止まりながら、ゆっくりと森を進みます。

「僕の家で言うところの、アレキサンドロスと同じか」

一際大きな大木に片手をついて、少年は呟きます。

「アレキサンドロス?」

マリーが聞き返すと、少年は両手をいっぱいに広げて見せました。

「僕の犬だよ。とても大きくて利口で可愛いんだ。今はもうお爺さんだけど。僕が小さかった頃は、背中に乗ったりもしてたんだ。もっと昔は、父上の狩りにもお供していたんだって」
「立派なのね」

マリーが頷くと、少年は嬉しそうに目を細めます。

「ああ、アレクは僕らの友達で家族さ。だから、君のエリザも早く探さないとね。心配だろう?」
「ええ、とても」

マリーは、ぎゅっと籠を握り締めました。
残念ながら仔猫のエリザは、アレキサンドロスのように聡明とはいきません。
それこそ、危ない場所に進んで手を突っ込むようなやんちゃ娘でした。マリーの長いクセ毛にじゃれようとしますし、高いところに登って降りられなくなる事は日常茶飯事でした。
屋敷では坪の中に入って出られなくなったこともありましたし、高い食器棚に登って降りられなくなったこともありました。梯子をかけて乳母のケイトが助けてくれましたが、翌日になるとそんなことを忘れてしまったかのようにエリザはまた探検に出かけてしまうのでした。

「早く見つけてあげよう」

少年は力強く頷きます。

「ええ」

と、少年が「あ」と声をあげました。

「あの子かな」

少年の指差した樹上を見上げると、木から太く伸びた枝の先に、エリザがまるまっていました。

「エリザ!」

マリーが声をあげると、エリザは顔を向けて「にゃあ」と高い声で鳴きます。まるで「あら、こんにちはマリー」とでも言っているようでした。

「怪我はなさそうだね」

少年は胸を撫で下ろし、しかし、どうやってエリザを下ろそうかと首を傾げました。
エリザのいる枝は随分と高く、少年にもマリーにも到底登れそうにありません。

「…エリザったら。またあんなところに登って」

マリーが頬を膨らませると、少年は顎に手をかけながら「大人を呼ぼうか?」と振り向きます。

「僕の執事は背が高いし、馬の扱いもなれてる」
「…その人は味方?」

大人、と聞いて、マリーは怒られるのじゃないかと怯えました。執事といえど、いえ、執事だからこそ規則違反には厳格ではないかと感じたのです。
少年は承知したというように頷きました。

「ああ、わかったよマリー。大丈夫。エリザが逃げたことは内緒にしておこう」
「その人、叱らない?突然怒鳴ったりしない?」
「しないよ。ちょっと小言が多いだけだ」
「…」
「早くエリザを助けたくない?」
「…じゃあ、お願いするわ」
「任せて」

少年がそう言った瞬間でした。

「若様」

ガサリ、と草木をかきわけ、長身の男性が足早に現れました。
その面長の眉間には、すでに皺が寄っています。
マリーはさっと少年の影に隠れました。この人が少年の言っていた執事なのでしょう。

「ああ、エド。ちょうど良かった」

少年は、にっこりと男性に微笑みます。
執事は、二十代前半頃の若い男性でした。主人である少年を前にしても、不機嫌を隠しもしません。

「こんなところで何を…」
「こちらのお嬢さんが困っていたので、手助けを。お前も手伝え」
「なにを」
「あちらのエリザベス嬢を下ろすんだ」

少年が樹上のエリザを指さすと、いよいよエド執事はため息を零しました。
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