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一章
オズワルドお義兄様
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ーアルベルトが、フォルツァ家の子ども?
ーだけど。
アルベルトは、昔から父が言っていたような、野蛮で独善的な人間には見えませんでした。
むしろ逆の、絵本の中から出てきた王子様そのものです。
「そんな、彼はとても優しい人よ」
「君もほだされたのかい?」
クロードは、憐れむようにマリーを見下ろします。
「そりゃ、優しいだろうよ。フォルツァはそうやって姑息に仲間を増やしているのさ。見返りを求めてるなんて、そんなの本当の親切じゃない。だって、ほら、今夜踊ってるお嬢様たちも、皆偉い人たちの娘だろう」
「…そうなの?」
「…君はブライスの本家じゃないの?もう少し勉強してくれよ」
クロードはマリーの無知に呆れたように眉をひそめました。
父親にも、ケイトにもしょっちゅうされる顔です。
落胆と期待はずれ。
「…ごめんなさい」
意気消沈したマリーは、クロードへの別れの挨拶もほどほどに、部屋に戻りました。
もう、今は誰とも話す気が起きませんでした。
「エリザ…」
ベッドの上では、エリザが呑気にお腹を向けて眠っていました。
ふわふわの毛を撫でると、エリザは目をつむったまま、尻尾を一振りします。
「エリザ、大好きよ」
ずっとエリザとだけいたい。
人といるととても疲れるし、彼らはマリーを馬鹿にします。
マリーは、息苦しさから抜け出すように、苦しいドレスを脱ぎにかかりました。
* * *
結局、アルベルトとは一言も交わせないまま、領主の城での三日間は終わってしまいました。
最後の最後までアルベルトは人だかりに囲まれていて、話すことはおろか、近づくことさえ出来ませんでした。
大勢の人がいる場所が苦手なマリーは、やっと家に帰れる、とほっとしていました。
しかし。
「やぁ、君がマリーだね」
自宅へ戻ると、見知らぬ青年がマリーを迎えました。
アルベルトよりも、クロードよりも背の高い男で、痩せていましたが、明るく、大らかな雰囲気を醸しながら、両手を広げてマリーを招きいれます。
まだエントランスだというのに、青年は早く自室へ入りたいマリーを引き止め、勝手に自己紹介を始めました。
「僕はオズワルド・グレッガー。ああ、だけど、ふふ、今日からはブライスになる。養子だ。つまり、君の血の繋がらない兄ということさ」
マリーはあんぐりと口を開けてしまいました。
隣でケイトが「はしたないですよ」と小声で注意しますが、そんなケイトも驚いているようでした。
「…あ、に?」
「そうとも。可愛い妹よ。末長くよろしく頼むよ」
そう言って、オズワルドはマリーの頬へキスを落とします。
「君の代わりに、僕がブライスを引き受けることになったんだ」
ーだけど。
アルベルトは、昔から父が言っていたような、野蛮で独善的な人間には見えませんでした。
むしろ逆の、絵本の中から出てきた王子様そのものです。
「そんな、彼はとても優しい人よ」
「君もほだされたのかい?」
クロードは、憐れむようにマリーを見下ろします。
「そりゃ、優しいだろうよ。フォルツァはそうやって姑息に仲間を増やしているのさ。見返りを求めてるなんて、そんなの本当の親切じゃない。だって、ほら、今夜踊ってるお嬢様たちも、皆偉い人たちの娘だろう」
「…そうなの?」
「…君はブライスの本家じゃないの?もう少し勉強してくれよ」
クロードはマリーの無知に呆れたように眉をひそめました。
父親にも、ケイトにもしょっちゅうされる顔です。
落胆と期待はずれ。
「…ごめんなさい」
意気消沈したマリーは、クロードへの別れの挨拶もほどほどに、部屋に戻りました。
もう、今は誰とも話す気が起きませんでした。
「エリザ…」
ベッドの上では、エリザが呑気にお腹を向けて眠っていました。
ふわふわの毛を撫でると、エリザは目をつむったまま、尻尾を一振りします。
「エリザ、大好きよ」
ずっとエリザとだけいたい。
人といるととても疲れるし、彼らはマリーを馬鹿にします。
マリーは、息苦しさから抜け出すように、苦しいドレスを脱ぎにかかりました。
* * *
結局、アルベルトとは一言も交わせないまま、領主の城での三日間は終わってしまいました。
最後の最後までアルベルトは人だかりに囲まれていて、話すことはおろか、近づくことさえ出来ませんでした。
大勢の人がいる場所が苦手なマリーは、やっと家に帰れる、とほっとしていました。
しかし。
「やぁ、君がマリーだね」
自宅へ戻ると、見知らぬ青年がマリーを迎えました。
アルベルトよりも、クロードよりも背の高い男で、痩せていましたが、明るく、大らかな雰囲気を醸しながら、両手を広げてマリーを招きいれます。
まだエントランスだというのに、青年は早く自室へ入りたいマリーを引き止め、勝手に自己紹介を始めました。
「僕はオズワルド・グレッガー。ああ、だけど、ふふ、今日からはブライスになる。養子だ。つまり、君の血の繋がらない兄ということさ」
マリーはあんぐりと口を開けてしまいました。
隣でケイトが「はしたないですよ」と小声で注意しますが、そんなケイトも驚いているようでした。
「…あ、に?」
「そうとも。可愛い妹よ。末長くよろしく頼むよ」
そう言って、オズワルドはマリーの頬へキスを落とします。
「君の代わりに、僕がブライスを引き受けることになったんだ」
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