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05義務なのだから、しょうがない。
しおりを挟む広く、長い廊下をひたすら歩く。両脇には数々の煌びやかな装飾品が綺麗に並べられている。
自室から歩いてきたが、ここまでの道程ですれ違う人は居ない。
唯々長い廊下が続く先にようやく目的地が見えてきた。
「――参りました、父上。」
「ユリエルか、入りなさい。」
重厚感あふれる扉に声を掛けると、中からの声と共に音も無く扉が開く。
「父上、わたしに何か?」
「うむ。そろそろお主も妃を探す頃合いかと思ったのでな。」
――用意しておいたぞ。
そう言って差し出された筒の中を確認すると、矢羽がついていない矢が十本入っていた。
「父上、再三申し上げておりますが、わたしはまだ妃を娶る気はありません。」
スノーホワイトの髪を揺らしながら、筒を机の上に置く。
「そうは言ってもなぁ、ユリエル。これは謂わば我らの義務のような行事なのだ。次代が規定の年齢になると妃を探し始める。集められた者は、次代が気にいらなければ一年で親元に帰る。
お主の気持ちがどうだとしても、今年が行事の始まりなのだ。」
王の言葉に、王太子は僅かに金色の瞳を陰らせながら淡々と答える。
「…わかりました。とにかく候補者を集めればよろしいのですね。
集められた者達と交流するかは別として、とにかく一年間後宮で暮らしてもらう事とします。」
再度差し出された筒を取り、ここにはもう用は無いとばかりに部屋を後にする。
後ろから父親が何か言っているようだが、聞こえないふりをして扉を閉める。
「はぁ。めんどくさい。」
歩くたびに筒の中でカラカラと音を立てる矢を完成させる為に自室に向かう。
妃候補を選定する矢は、特殊な造りになっている。
矢羽の部分以外は父――つまり国王が自身の神力で具現化させる。
そして、矢羽の部分は王太子――つまり己が髪を媒体に作成する。
そうしてできた“白羽の矢”は意思を持っているかのように、国中に広がって、いろいろなところに降り立つ。
そして、“白羽の矢”を見つけた者や家、もしくは敷地に矢が刺さった者が決めた、ふさわしい人物を王宮へと向かわせる。
その際、選ばれた証拠として、“白羽の矢”を持参する事となっている。
――こんな手間な事をせずに、自身の足で探しに行けばいいのではないか。
“白羽の矢”を造りながら、とりとめも無いことをつらつら考える。
まぁ、“奈落の谷”の対処を怠ることはできない。
それ故、王も王太子も長く王宮を空ける事ができないので、考えても無駄なのだが。
「――か弱いお嬢様よりも、背を護り合える者を望むのは、無理な願いなのだろうな。」
人間は総じて弱い生き物で。
特に女性というものはか弱くあれと育てられるのか、線も細く、希薄な印象を受ける。
最後の一本を手に取ったとき、ふと試してみたくなる。
--もし、願いを込めて“白羽の矢”を造ったのなら、その願いは叶うのか、と。
緩くまとめたスノーホワイトの髪を切りながら僅かばかりの期待を込める。
“志強く、気高き者を、我のもとへ”
そうしてすべての“白羽の矢”が完成した。
後は然るべきところから放つのみ。
「ユリエル様、よろしいですか?」
ちょうど呼ぼうと思っていた人物の声が扉の外から聞こえてくる。
「アルノルフ、ちょうどいいところに来たな。入れ。」
手を掛ける事無く力を流すとひとりでに扉が開く。
基本的に、定められた者しかこの扉は開けることができない。
この仕掛けは王宮の至る所に存在し、王宮内の平和を守っている。
「ユリエル様?なんだか楽しそうですね。王から、妃探しの命が降ってご機嫌斜めかと思っていたのですが。」
「まぁ、な。少し、試してみたい事ができたから。」
そう言ってできたばかりの“白羽の矢”を楽しそうに指先で回して遊んでいる。
「で、アルノルフ。用とは?
妃探しを公表してきたのか?」
「えぇ、その通りです。
今からでも、“白羽の矢”を放つ事ができますよ。」
「では、行こうか。」
ニヤリ、悪戯な笑みを浮かべて腰を浮かす。
――さてさて、どんな候補が釣れるのか。
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