上 下
60 / 104

59これが、私の示し方。

しおりを挟む


――“常夜の森”
その、祠のそばで、何やら真剣な表情で思案する二人。

朱の混じった茶色の髪を二人揃って並べつつ、地面に文字や絵を描いている。



「ねぇ、兄さん。」
「なんだい?シエル。」

金赤ブロンズレッドの瞳と、緋色の瞳が交わる。


「僕達は今、フリアちゃんの魔力を借りているじゃない?」
「そうだな。」
「――じゃぁ、なんで、“魔剣”を出せないんだろう…」
「――それは…俺にもわからん…。だが、シエルはまだ、いい。――俺は、確実にバイアーノの血を引いているのに、出せないからな…」

地面に座り込み、ここ数日の実践と考察を書き連ねながら、二人は思案する。





「――やっぱりさ、もう、フリアちゃんに直接聞いた方がいい気がするんだけど…」
「それは、そうだが…。あまり、俺達が王宮むこうに行くと、フリアが羽を伸ばせない。――せっかく手にした束の間の自由だ。出来ればなんの憂いも無く、過ごして欲しい。」

そうは言うものの、先日のこともあり、どうにも穏やかに日々を送っているとは思えないので、心配なのは心配なのだが…。








「――あ、二人とも、こんな所に居たのね。」
「――フリアちゃん!?」
「――フリア?…なぜ、“常夜の森ここ”に?」



音も無く、声と共に現れたのは、今し方話題になっていた張本人。
―――と、

「わぁ!素晴らしいですわ!王宮から一瞬で、バイアーノ領まで!?フリア様ったら、どれ程の魔力を蓄えていらっしゃるの!」
「―――これが…転移魔術…。すごい、本当に、一瞬で…。」

黒髪に薄い金色の瞳をもち、興奮気味にフリアに詰め寄る女性と、呆然と立ち竦むレモンイエローの髪に茶色の瞳を持つ女性。
――その背後に佇みながら、しきりに周囲を見回すその他大勢の人。








――だめだ。
―――突っ込みどころが、多すぎる。







「アレクさんの所に行ったら、シエルはガロンと一緒に居るって言われたのよ。だから、“ガロンとシエル”を座標に転移魔術を使ったの。」
「――なるほど。」




――フリアが“常夜の森ここ”に現れた理由はわかった。





“何処”ではなく“誰”を指定して転移魔術を使った結果、といったところだろう。






「ねぇ、フリアちゃん。そこの、お姉さん達は、だぁれ?」

己が二の句を継げないで居ると、シエルがフリアに向かって言葉を投げる。








「“報酬”として、貰ってきたの。」
「―――――、すまん、フリア。……詳しく、説明を頼む。」







フリアが、王宮で食物を育て、物々交換や、金品を受け取っているということは、前回王宮を訪れた時に聞いている。


それで、そこらの領地よりも潤っているということも知っているし、最近では己の部屋に“領地の運営費”と張り紙をされた、領地の運営費にしても膨大な量の資金が入った袋が転移されてくるので、それなりに自由に楽しく過ごしているのだな、と思っていたのだが…。






――まさか、人間まで報酬として貰ってくるとは……。








「先日、“奈落の谷”での討伐に参加したのだけど、そのときにこの二人が“奈落の底”に落ちてしまってね。それで、私が“奈落の底”に行って、この二人を助けたのよ。――で、その、報酬として、当人二人を貰ってきたの。」
――後ろにいる人達は、この二人のおまけよ。





「―――――、……そう、か…。」




思わず、頭を抱える。


もう、言葉が出てこない。







――つまり、先日の“魔力の巡り”が乱れに乱れたあの時、やはりフリアは“奈落の底”に居たのだ。
それで、“奈落の底”へと降りる原因となった女性二人を、何故か“報酬”として賜った、と。

――で、その他大勢は、女性二人の子飼というところか。
ということは、あの女性達はそれぞれ、名の知れた貴族の令嬢ということになるのだろうか。

何故、貴族令嬢が魔獣討伐に参加したのか。

何故、“奈落の底”へと落ちたのか。

何故、親元ではなく“報酬”としてバイアーノ領に貰われて来たのか。






―――さっぱり、わからん。






それでも、この領を統べる本来の領主であるフリアが“是”というのならば、誰がなんと言おうと覆すことはできない。


「―――それで、その方々は、どうすればいい?」
「リカルダ嬢は、武術に長けているの。だから、バイアーノうちで剣術指南をお願いするわ。そして、ルイーザ嬢は見ての通り魔術が使えるわ。だから、シエルの魔術指南役よ。アレクさんも、快く了解してくれたわ。」





「――リカルダと言います。武器は基本的に選びませんが、剣術には自身がありますので、どうぞよろしくお願いします。」
「――ルイーザですわ。魔術師の家系の出ですので、魔術に関わることであれば、なんでもお聞きになって。」

「――フリアが不在の間、バイアーノ領を預かっている、ガロンだ。」
「――シエルです。もとの魔力量はあまりありませんが、今はフリアちゃんに借りているので、そこそこ使えると思います。魔術を習った事は無いので…わからない事ばかりだとは思いますが、よろしくお願いします。」


それぞれ、指名された者同士が挨拶を交わす。


レモンイエローの髪に茶色の瞳を持つ女性が、リカルダ嬢。
成る程、女性騎士らしく、言葉は随分と固いように思える。


対して、黒髪に薄い金色の瞳を持つ令嬢はルイーザ嬢。

まさに令嬢と思える口調だが、さて、本当にこの二人は何があってフリアに貰われて来たのだろうか。






「――フリア様は、王太子殿下の怒りを買ったわたくしたちを救い上げてくださった。」
「――フリア様のお役に立てるように、持ちうる知識は全て差し出しますわよ!」



疑問が、表情に表れてしまったのだろう。


二人が少しだけ身の上を話してくれた。





――とりあえず、フリアの味方が増えた、と考えておけばいいのか……?
しおりを挟む

処理中です...