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6章 悔しいのでレベル上げたいです
3.
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「ああ、これは過去に私も叶えたいことがございまして、その時に陣を入れました」
なんてことなく教えてくれたカシルは、くるっと僕のハンカチを腕に巻いた。
「ハルトライア様、結んでいただけますか?」、と言われてそれをきゅっと結ぶ。
長く生きているカシルだ、これまで僕の思いもつかないような体験をしてきているはず。
いったいどんな願いを魔法陣に込めたのだろう。
でも、そう願えることが羨ましかった。
僕の体には、願いをかなえる魔法陣でなく呪いの【つる】がある。
こんなところまで、僕は普通の人と違うんだ。
ああ、すぐ卑屈になってしまう。だめだ、ちゃんとしなきゃ
暗くなっていく思考を吹き飛ばそうと
「カシルの願いはかなったの?」と尋ねた。ええ叶いましたよと答えてくれると想定して。
だけどカシルは僕をぎゅとまた抱きしめた。
「ハルトライア様の、お傍にいることが私の願いですから」
訳が分からない返事だった。体に刻む魔法陣は本人にしか作用しないのに。これはきっと過去に魔法陣を刻みあうほど愛した誰かを失ったのだろう。消さず残しておくなんてよっぽど思い入れのある証拠だから。
でも、そんなこと聞けなかった。
「もう、答えになってないよカシル。言いたくないならもう聞かない。ほら、浄化魔法、フォレストベアにかけてくれる?」
僕はカシルから意識を別のことに移した。
はいと頷いたカシルが緑の魔法を展開する。僕もつるを伸ばして紫玉を作る。しかし大きすぎてベアの瘴気すべてを紫玉に変換する前に魔石に変わってしまった。ゴルフボールほどの紫玉と魔石が草の上にころがる。しゃがんだカシルがそれに手を伸ばし、両方とも握って僕に渡してくれた。
死体が魔石に変わるまで、小さい魔物だとせいぜい1~2分。これくらい大きくても5分程度だ。カシルの浄化魔法の助けを借りても紫玉生成が終わらないことも多い。スピードを上げる方法があったらいいのにな。先生に相談しよう。
立ち上がったカシルが、あたりを見渡す。
「タイリート、どこへ行きましたでしょうか?」
確かこちらに進んで行ったはずですね、とすたすた歩き始めた。僕もカシルの胸に抱かれたままキョロキョロする。数分歩いたところで「ヒヒーン」と左側から呼ぶ声がした。
「あちらですか」
方向を変えさらに歩くこと数分。タイリートの姿が木々の隙間から見えたとき、ざわりと【つる】が動いた。
「っ瘴気?」
僕の声にカシルが駆けだす。バッと僕の体に浄化魔法をかけて。そしてタイリートの傍にたどり着けばやはり彼の周りに瘴気がざわざわと存在していた。
ブルン、ブルンっ、と鼻を鳴らすタイリート。その瞳は紫じゃない。いつものように真っ黒できれいな瞳。良かった。
カシルはすぐタイリートの周りに浄化魔法を展開した。
「タイリートっ、どうしたの?」
手を伸ばすとぱくんとかじられた。そして僕をぐいぐい引っ張る。
そして木々をぬって10メートルほど先に案内された場所は言葉にするのも嫌だった。
「これは……」
瘴気が溢れる直径マンホールくらいの穴があった。黒ずんだ中をのぞいて目を凝らせば、動物が見えた。赤色と緑色。フォレストベアの子どもだ。その体の真ん中を鋭い木の棒が突き抜けている。もう死んでいた。
そして注意深く見れば、この穴の周りにいくつも魔石が転がっている。中にも。地上に近い穴はいびつになっていて、親ベアが子ベアを助けようとあがいた形跡が感じられた。
僕は手の中にある魔石と紫玉を見つめる。この子の親だったのか。
「なんて、残酷なことを……っ」
人間の仕業なのは明らかだ。助けられないくらいの穴を掘り先をとがらせた木の棒を埋め込んで穴の周りに魔石をまく。穴に落ちた仲間や子を助けようと動物が穴の周りを掘れば爪にあたり魔石が砕ける。すると瘴気があふれ出てくる。落ちた生き物はいつか死ぬし、穴の上にいる怒りや悲しみにそまった動物は瘴気にやられて魔物になる。
これを準備した人間は安全な場所で待っていればいいだけ。
僕はずるりとつるを伸ばした。そして穴の中の瘴気を紫玉に変えていく。カシルも浄化魔法で手伝ってくれた。時間は少々かかったが瘴気がなくなる頃にはソフトテニスボールくらいの紫玉が穴の中に出来た。
手が届かないから、この子の体を杭から抜いてあげられないことが悔しかった。
「……痛かったよね」
手にあった魔石と紫玉をそっと穴に落とした。親子だから一緒にいるべきだと思って。するとタイリートが後ろ脚で土をけり始める。穴を埋めてくれるようだ。
タイリートも過去に親を亡くしてつらい思いをしている。きっとなにか思うところがあったのだろう。
そうして親子ベアの埋まった場所をじっと見つめ手を組んだ。この世界ではキリスト教のように両手を組むから。その宗教は一神教、神は女神レジクシレアという。国名であり王家の名だ。カシルは顔の前で剣を立て敬礼をしていた。
祈りの後、手をほどくと杖を出してそっと魔力を通した。
ポンポンポンと軽やかな音が鳴って、眠る彼らの周りに花が咲いた。
「ごめんね、これくらいしかできなくて」
呟けばカシルの両腕に抱きしめられた。「十分、喜んでおりますよ」と慰められる。
それから僕たちは帰ることにした。同じような仕掛けがどこかにされている可能性がある。
最初あのフォレストベアは洞窟からやってきたと思っていた。でもそうではなく魔物化したばかりだった。それはとても危険だ。体力が一番残っているから。数体同時に現れたら危険度は更にあがる。そう大型の動物がまた襲ってくることを考えて進むのをやめた。
フォレストベア親子のお墓からの帰路、カッポン、カッポン、とゆっくりタイリートは進む。僕一人を背中に乗せて。
カシルは左側で手綱をつかんで歩いている。
二人乗りも抱っこも拒否してしまった。「両方やったよね、タイリート慰めたいし一人で乗りたい」って訴えたらしぶしぶ許可してもらえたから。
親子ベアの死にしょげていたタイリートだが、僕だけ乗せたことであっという間に上機嫌になった。
なんてことなく教えてくれたカシルは、くるっと僕のハンカチを腕に巻いた。
「ハルトライア様、結んでいただけますか?」、と言われてそれをきゅっと結ぶ。
長く生きているカシルだ、これまで僕の思いもつかないような体験をしてきているはず。
いったいどんな願いを魔法陣に込めたのだろう。
でも、そう願えることが羨ましかった。
僕の体には、願いをかなえる魔法陣でなく呪いの【つる】がある。
こんなところまで、僕は普通の人と違うんだ。
ああ、すぐ卑屈になってしまう。だめだ、ちゃんとしなきゃ
暗くなっていく思考を吹き飛ばそうと
「カシルの願いはかなったの?」と尋ねた。ええ叶いましたよと答えてくれると想定して。
だけどカシルは僕をぎゅとまた抱きしめた。
「ハルトライア様の、お傍にいることが私の願いですから」
訳が分からない返事だった。体に刻む魔法陣は本人にしか作用しないのに。これはきっと過去に魔法陣を刻みあうほど愛した誰かを失ったのだろう。消さず残しておくなんてよっぽど思い入れのある証拠だから。
でも、そんなこと聞けなかった。
「もう、答えになってないよカシル。言いたくないならもう聞かない。ほら、浄化魔法、フォレストベアにかけてくれる?」
僕はカシルから意識を別のことに移した。
はいと頷いたカシルが緑の魔法を展開する。僕もつるを伸ばして紫玉を作る。しかし大きすぎてベアの瘴気すべてを紫玉に変換する前に魔石に変わってしまった。ゴルフボールほどの紫玉と魔石が草の上にころがる。しゃがんだカシルがそれに手を伸ばし、両方とも握って僕に渡してくれた。
死体が魔石に変わるまで、小さい魔物だとせいぜい1~2分。これくらい大きくても5分程度だ。カシルの浄化魔法の助けを借りても紫玉生成が終わらないことも多い。スピードを上げる方法があったらいいのにな。先生に相談しよう。
立ち上がったカシルが、あたりを見渡す。
「タイリート、どこへ行きましたでしょうか?」
確かこちらに進んで行ったはずですね、とすたすた歩き始めた。僕もカシルの胸に抱かれたままキョロキョロする。数分歩いたところで「ヒヒーン」と左側から呼ぶ声がした。
「あちらですか」
方向を変えさらに歩くこと数分。タイリートの姿が木々の隙間から見えたとき、ざわりと【つる】が動いた。
「っ瘴気?」
僕の声にカシルが駆けだす。バッと僕の体に浄化魔法をかけて。そしてタイリートの傍にたどり着けばやはり彼の周りに瘴気がざわざわと存在していた。
ブルン、ブルンっ、と鼻を鳴らすタイリート。その瞳は紫じゃない。いつものように真っ黒できれいな瞳。良かった。
カシルはすぐタイリートの周りに浄化魔法を展開した。
「タイリートっ、どうしたの?」
手を伸ばすとぱくんとかじられた。そして僕をぐいぐい引っ張る。
そして木々をぬって10メートルほど先に案内された場所は言葉にするのも嫌だった。
「これは……」
瘴気が溢れる直径マンホールくらいの穴があった。黒ずんだ中をのぞいて目を凝らせば、動物が見えた。赤色と緑色。フォレストベアの子どもだ。その体の真ん中を鋭い木の棒が突き抜けている。もう死んでいた。
そして注意深く見れば、この穴の周りにいくつも魔石が転がっている。中にも。地上に近い穴はいびつになっていて、親ベアが子ベアを助けようとあがいた形跡が感じられた。
僕は手の中にある魔石と紫玉を見つめる。この子の親だったのか。
「なんて、残酷なことを……っ」
人間の仕業なのは明らかだ。助けられないくらいの穴を掘り先をとがらせた木の棒を埋め込んで穴の周りに魔石をまく。穴に落ちた仲間や子を助けようと動物が穴の周りを掘れば爪にあたり魔石が砕ける。すると瘴気があふれ出てくる。落ちた生き物はいつか死ぬし、穴の上にいる怒りや悲しみにそまった動物は瘴気にやられて魔物になる。
これを準備した人間は安全な場所で待っていればいいだけ。
僕はずるりとつるを伸ばした。そして穴の中の瘴気を紫玉に変えていく。カシルも浄化魔法で手伝ってくれた。時間は少々かかったが瘴気がなくなる頃にはソフトテニスボールくらいの紫玉が穴の中に出来た。
手が届かないから、この子の体を杭から抜いてあげられないことが悔しかった。
「……痛かったよね」
手にあった魔石と紫玉をそっと穴に落とした。親子だから一緒にいるべきだと思って。するとタイリートが後ろ脚で土をけり始める。穴を埋めてくれるようだ。
タイリートも過去に親を亡くしてつらい思いをしている。きっとなにか思うところがあったのだろう。
そうして親子ベアの埋まった場所をじっと見つめ手を組んだ。この世界ではキリスト教のように両手を組むから。その宗教は一神教、神は女神レジクシレアという。国名であり王家の名だ。カシルは顔の前で剣を立て敬礼をしていた。
祈りの後、手をほどくと杖を出してそっと魔力を通した。
ポンポンポンと軽やかな音が鳴って、眠る彼らの周りに花が咲いた。
「ごめんね、これくらいしかできなくて」
呟けばカシルの両腕に抱きしめられた。「十分、喜んでおりますよ」と慰められる。
それから僕たちは帰ることにした。同じような仕掛けがどこかにされている可能性がある。
最初あのフォレストベアは洞窟からやってきたと思っていた。でもそうではなく魔物化したばかりだった。それはとても危険だ。体力が一番残っているから。数体同時に現れたら危険度は更にあがる。そう大型の動物がまた襲ってくることを考えて進むのをやめた。
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カシルは左側で手綱をつかんで歩いている。
二人乗りも抱っこも拒否してしまった。「両方やったよね、タイリート慰めたいし一人で乗りたい」って訴えたらしぶしぶ許可してもらえたから。
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