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第十三章 学園祭二日目
27 翻弄される
しおりを挟む戯れ合いながら互いに服を脱がしていくと、あっという間にタオル一枚だけになる。呉宇軒は先陣を切って風呂場に突入したが、扉を開けてすぐ、目に飛び込んできた光景に思わず足を止めた。
シャワーの前に置かれているのは彼が先ほど膨らませたエアーマットだ。パンパンに膨らんだ背もたれ付きのマットは、ちょうど鏡と向かい合うように置かれている。だが、足を止めたのはそのせいではない。
「阿軒? 中に入らないのか?」
入り口で立ち止まったせいで、後ろの李浩然は中に入れなくなり困った顔をしている。しかし、呉宇軒は入り口に立ち尽くしたまま肩越しに彼を振り返り、困惑の表情で尋ねた。
「今日って、最後までしないんだよな?」
何故かエアーマットのすぐ後ろに、ビデオカメラが設置されているのだ。二人の初めてはビデオに撮ろうと約束していたことを思い出し、呉宇軒は今日するのか?とパニックになる。
「今日はしない。ほら、もう入ろう」
ぐいぐいと背中を押され、呉宇軒は嫌な予感がしてきた。李浩然は何もしないと言っているが、この状況を見るに怪しいものだ。警戒心を解くための嘘かもしれない。
ひとまず幼馴染の言葉を信じることにして、呉宇軒はまるで最初からここにありましたと言わんばかりに鎮座するビデオカメラに目を向けた。三脚の上に乗せられているものの、その位置ではシャワーの水が当たってしまう。
「もしかして、さっきの段ボールに入ってたのか? 水付いても大丈夫なのかよ」
李浩然が部屋から持ち出した謎の段ボールの中身が、まさかビデオカメラだったとは。他にも何か入っていそうだったが、特に変わったものは見当たらない。
風呂場で使っても大丈夫なのか心配する呉宇軒に、李浩然は淡々と返した。
「防水だから問題ない」
抜かりない幼馴染に背中を押され、呉宇軒は渋々中に入る。すぐ後ろにいた李浩然は、彼を追い抜いてビデオカメラの方へ行ってしまった。
何やら位置調整をしているようだ。ピッという起動音が聞こえ、呉宇軒は胸がどきりとする。
「誰か帰ってくるかも!」
「君の好きなシチュエーションでは?」
取り乱す呉宇軒にさらりと返し、李浩然はエアーマットに腰を下ろす。背もたれがいい感じで、座り心地が良さそうだ。
図星を突かれて押し黙っていると、李浩然は催促するように呉宇軒を見やり、おいでと手招いた。
「そのマットは一人用だろ?」
エアーマットは李浩然の体にぴったり合っていて、どう見ても二人用の大きさではない。
呉宇軒は彼の隣に来ると、風呂の床に腰を下ろそうとした。ところが李浩然はその動きを手で制し、自分の上に乗るように手を引っ張って誘導してくる。
「いいの?」
前回は君子ぶって途中で止めていたのに、今日は随分と積極的だ。彼にはまだ呉宇軒をからかうだけの余裕があるらしく、挑発的な視線を向けてくる。
「ご褒美が欲しくないのか?」
「言ったな? 覚悟しろよ!」
そんな風に言われては引き下がるわけにもいかない。
喜び勇んで上に乗ったはいいが、二人を隔てているのは腰に巻いた薄布一枚だけだ。李浩然の上に跨ると、必然的に呉宇軒のタオルが捲れ上がる。危うく下腹部が丸見えになりそうになったものの、李浩然は極めて紳士的な仕草で視線を逸らし、タオルを綺麗にかけ直してくれた。
ほとんど裸の状態で向かい合っているので目のやり場に困り、呉宇軒は落ち着かない気持ちになりながら視線を泳がせる。なにせ、腰に巻いたタオルの下には何も身につけていないのだ。そのことを意識してしまうと途端に恥ずかしくなり、だんだん頬が熱くなってくる。
「その君子面がいつまで保つか見ものだな」
動揺を悟られまいとして、呉宇軒は高鳴る鼓動を誤魔化すように強がって笑う。すると、李浩然は悪戯に目を輝かせ、いつになく強気な態度で口を開いた。
「君子になる気はないが?」
えっ?と聞き返そうとしたものの急に腕を引かれ、油断していた呉宇軒は成す術もなく彼の胸の上に倒れ込む。触れ合った肌は、風呂場の湿気のせいかしっとりとしていた。
しかもそれだけはなく、せっかく体重をかけないように気を遣って腰を浮かしていたのに、今ので隙間がなくなるほど下半身が密着してしまった。李浩然はしてやったりの顔で笑っているが、呉宇軒は大パニックで顔から火が出そうになる。
「お、おまっ……お前なぁ!」
すぐに体を起こそうとしたものの、背中に腕を回されて抱きしめられてしまった。そのせいで、呉宇軒は彼の体の上にべったりと張り付くように体を預けたまま身動きが取れず、おまけに顔を隠すこともできない。
唇が触れるほど間近に顔が迫り、羞恥心が限界突破しそうになった呉宇軒は、堪らず李浩然の首元に顔を埋める。これ以上彼と見つめ合っていたら心臓が爆発してしまいそうだ。
いつものように余裕ぶることも悪戯返しもできないでいると、耳元で楽しげな声が響いた。
「緊張してるのか?」
その声音は落ち着いていて、李浩然が全く動じていないことが分かる。
ついこの間、呉宇軒は潔白に見えていた幼馴染の内に秘めた欲望に触れ、彼への見識を改めたばかりだ。しかし、それはほんの序の口だったのかもしれない。
「然然、あんまり俺をいじめないでぇ……」
すっかり弱り果ててそう言ったものの、懇願するその声にはどこか甘やかな響きがあった。まるでもっとしてと訴えるような声音に、李浩然はますます笑みを深める。
「阿軒、いじめられるのは嫌い?」
耳を蕩かす甘い声が鼓膜を揺らし、呉宇軒は小さく息を呑む。今までも何度か耳にした、抗い難い誘惑の声だ。
「……すき、だけど……」
彼に弄ばれるのは何度目だろうか。熱を持っているのはもはや顔だけでなく、まだ湯船に浸かってすらいないのに身体中が熱い。
李浩然の一挙一動に翻弄され、呉宇軒は彼の腕の中で身動いだ。密着した脚の間はいつしか体のどこよりも熱を持ち、由々しき事態が発生していた。
「俺……た、勃っちゃったんだけど」
誤魔化しようもなく、呉宇軒はか細い声で自己申告する。これだけ密着しているのだから、当然李浩然もとっくに気付いているはずだ。
恥ずかしさをぐっと堪えた告白に、背中に回されていた手が緩む。やっと解放された呉宇軒が身を起こすと、李浩然が顔を覗き込んできた。
「痛い?」
「ううん、大丈夫」
まともに目を合わせるのは気恥ずかしくて、つい視線が泳ぐ。だが、続く彼の言葉に呉宇軒は否応なしに視線を向けざるを得なかった。
「俺は少し痛い」
苦笑混じりにそう言われ、呉宇軒はそんなに硬くなっていたのかと恥ずかしさに頬を赤く染めながら、慌てて腰を浮かせる。だが、その途中で彼が本当に言いたかったことに気付いてしまった。
タオル越しに、尻に硬いものが当たっている感触がある。それが何かは言うまでもない。
興奮しているのが自分だけではないと分かり、呉宇軒はほっとして、やっとまともに李浩然の顔を見ることができた。
「お前もかよ! なんで? いつから?」
「だから言っただろう? 緊張しているのか、と。君が上に乗ってからずっとこうだったのに」
彼に指摘されて、呉宇軒は顔がカッと熱くなる。緊張のあまり、尻に敷いた彼の下半身がどうなっているかにすら気付いていなかったのだ。
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