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第十四章 トラブルは付きもの
5 ご褒美の時間
しおりを挟む闘牛士のような見事な手腕で祖父の怒りを回避した李浩然はあまりにも格好良く、呉宇軒はキラキラと羨望の眼差しを向ける。困った時の幼馴染だと言ってよく茶化していたが、これからはもう冗談では済まないかもしれない。
あれだけ大騒ぎしていたのに、心配事がなくなった祖父は上機嫌だ。祖母からの呆れた視線を物ともせず、グビグビとお茶を飲み干している。
見事に話をまとめた立役者の李浩然は、誠実な若者そのものな顔をして祖父に提案した。
「おじいさん……俺たちの交際を認めるのは、ひ孫が生まれてからでも構いません」
「いやいや、わしはもう何も言うまい。その代わり、ちゃんと相手を見つけてくるんだぞ?」
謙虚な彼の言葉にすっかり気をよくした祖父は、念を押されていることにも気付かず調子のいいことを言う。見事な手のひら返しをした夫に、祖母はやれやれとため息を吐く。いつものことで慣れているのか、もはや小言すらない。
「とりあえず、認めてもらえてよかったよ。ああは言ったけど、じいちゃんに反対されたままはちょっと嫌だし」
これでやっと心置きなく幼馴染と触れ合えるようになったものの、呉宇軒は祖父を変に刺激して気が変わってはいけないと、珍しく自重を続けた。
しかし、李浩然の手腕は見事なもので、惚れ直すどころの騒ぎではない。呉宇軒は平静を装いながらも、今すぐ彼に抱きつきたくて堪らなかった。
店を出てからお土産を持って空港に見送りに行く時まで、祖父は終始ご機嫌のままだった。名残惜しく別れを惜しむ祖父を何とか送り出して李家に帰ってきた二人は、李浩然の部屋で今日の疲れを癒していた。
時刻はまだ午後四時を過ぎたところで、家には安おばさんしかいない。従姉妹の李若汐が学校にいるので、彼女の家庭教師をしている李浩然も今は自由時間だ。
呉宇軒は彼のベッドにゴロンと寝転び、目をキラキラさせて口を開いた。
「今日のお前、すっごく格好良かった! よくじいちゃんの話に口を挟まずにいられたな!」
揉めている時に元凶として睨まれている李浩然が口を挟んだら、きっと事態はもっとややこしくなっていたはずだ。彼の発言のタイミングは完璧で、呉宇軒は部屋に戻ってからずっと幼馴染を褒めちぎっていた。
李浩然はベッドの縁にそっと腰を下ろすと、呉宇軒に覆い被さって微笑んだ。
「惚れ直した?」
「うん! もーっと好きになった」
両手を広げて彼を歓迎すると、李浩然は誘われるままにのしかかってくる。その重みすら愛おしくて、呉宇軒は愛情をたっぷり込めて彼の体をぎゅっと抱きしめた。
しばらくの間、呉宇軒は愛しい彼の重みと温もりを堪能していたが、ふと耳をくすぐる甘い囁きが聞こえてきた。
「阿軒、頑張ったご褒美をくれる?」
可愛いおねだりに、呉宇軒は満面の笑みを浮かべる。
「もちろん! 何してほしいんだ?」
紛れもなく、今日一番の功労者は李浩然だ。だからこそ、彼は二つ返事で頷いた。
幼馴染の許可を得た李浩然は嬉しそうに微笑み、そっと体を起こす。彼はベッドから腰を上げると、ベッド脇にあったクローゼットから大きな段ボール箱を持ってきた。
その段ボールは妙に見覚えがあり、呉宇軒は僅かに眉を顰める。
「……その箱、何が入ってるんだ?」
軽率に返事をしてしまったのではと後悔するも後の祭りで、李浩然は段ボールに入ったものを一つ一つ取り出して、ベッドの上に広げ始めた。
見覚えのあるビデオカメラと三脚、折り畳まれたビニールシートに大きなバスタオル。まるで海にでも遊びに行くかのようだ。
しかし、次に現れた箱に書かれた文字を読んで、呉宇軒の胸はどきりと跳ねた。
「こ、ここっ、こここれっ……避孕套って書いてあるんだけど!?」
動揺しすぎてニワトリみたいになりながら、呉宇軒はなんとかそう言った。避孕套とは読んで時の如く、避妊具のことだ。
「安全のために」
「大容量じゃねぇか! 何回ヤる気なんだよ!」
箱の側面には百個入りと書かれている。やる気満々にも程があると驚いていると、李浩然は少しも表情を変えず、平然と言った。
「玩具に被せる分もあるから、全部ではない」
「玩具? あっ、それ!」
段ボールから出てきた見覚えのある物に、呉宇軒は思わず指を差す。それは、前に友人たちと夜市に行った時に引いた、『大人のくじ引き』の景品だ。サンザシ飴のような真っ赤な玉が連なる棒状のもので、李浩然はいつか使い方を教えてくれると約束していた。
彼は唖然とする呉宇軒の前でその棒を手に取り、にっこりと微笑んだ。
「今日はこれを試してみよう」
「試すって何!? ま、まさか……」
お風呂での出来事を思い出した呉宇軒は、たちまち顔が真っ赤になった。李浩然は動揺する彼の心を見透かして、優しげに目を細める。だが、穏やかな表情とは裏腹に、彼の瞳はすでに獲物を狙うように鋭い輝きを放っていた。
「阿軒、ひとまずそこに寝てくれるか?」
淡々としていながらも、その声には有無を言わせぬ響きがあった。それはまるで、彼の内に秘めた情熱が溢れ出しているようだ。
鋭い眼差しは火傷しそうなほど熱を帯びていて、呉宇軒の体までもが熱くなる。一体何をされるのだろうとハラハラしながらも、彼はこれから起きることへの淡い期待を胸にこくりと頷いた。
李浩然はビニールシートにバスタオルを重ねて置き、カメラを設置したりと入念に下準備をして、タオルの上に呉宇軒を仰向けに寝転がらせた。
用意周到すぎて微笑ましく思いながらも、呉宇軒はふと心配になる。昨日の夜と違って、今日は李浩然の叔母が下に居るのだ。
「浩然、安おばさん下にいるんだよな? 部屋の鍵、ちゃんと閉めた?」
不安そうに尋ねると、李浩然は彼の頭を優しく撫でながら宥めるように言った。
「扉は大丈夫。叔母さんは買い物と夕飯の準備があるから、用事がなければ上には来ない。少しくらいなら声を出しても大丈夫だけど、なるべく抑えて」
心地よい手のひらの感触も慰めにはならず、呉宇軒は必死になって彼の言葉を心の中で反復する。しかし、心を落ち着かせる間もなく、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえてきた。
相変わらず、李浩然のズボンを脱がせる手際は見事なものだった。彼は呉宇軒の脚の下に腕を回すと、勢いをつけて持ち上げ、一息にズボンを引きずり下ろす。少しの引っかかりもなくするりと脱げたので、呉宇軒は思わず拍手喝采しそうになった。
だが、彼の手が下着にかかったその時、呉宇軒は思わずその手を掴んでしまう。往生際の悪い恋人に、李浩然は困ったような視線を向けた。
「阿軒、脱がないと始められない」
「わ、分かってるけど、俺だけ脱ぐのやだ!」
自分だけ下半身を丸出しにされるなんて、間抜けな格好をさせられるのは恥ずかしい。しかし、李浩然は無情にも抵抗の力が緩んだ隙に下着を引きずり下ろし、隠された秘所を露わにした。
呉宇軒はサッと膝を曲げて隠したものの、今度は尻が丸出しになる。空気に晒された肌がスースーして、なんとも心地が悪い。
「タオルかけたりしない?」
「見えないと危ないから駄目だ」
もっともらしい返しに、呉宇軒は反論が思いつかず閉口した。こうなったら、腹を括るしかない。
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