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第十四章 トラブルは付きもの
12 小休憩
宣言通り李浩然が手伝ってくれたので、食事の作り置きは半分の時間で終わった。しばらく留守にするのでまた作りに来ることになるかもしれないが、当面は大丈夫だろう。
ルームメイトたちは外出中だったため、呉宇軒は長テーブルの上にメモを残して部屋を出た。二人で手を繋ぎながら、図書館前にある大きな湖の方へのんびり歩いて行く。
「バイトまで少し時間あるな。何かする?」
繋いだ手をぶらぶらさせながら、呉宇軒は幼馴染に尋ねた。すると、ニコニコとご機嫌に微笑んでいた彼はしばし難しい顔をして考え込んだ。
「そうだな……学生街の方で何か軽く食べるか?」
飲食店の夕飯時は地獄の忙しさなので、バイトが始まってからはほぼ飲まず食わずの状態になる。李浩然は仕事中にお腹が空いて大変な思いをしないようにと、呉宇軒のことを気遣ってくれているのだ。
「いいね! それなら、呂子星のバイト先に顔出してみるか? あそこ、確か軽食もあったよな?」
学生街にあるメルヘンチックなカフェは、パフェとケーキが美味しい店として有名なものの、軽めの洋食も出しているのだ。恐らく今日もそこでバイトをしている呂子星は嫌がるかもしれないが、店の位置的にもぴったりだった。
ちょうど学生街行きのバスが来たので、二人は意気揚々と乗り込んだ。
秋になって日が落ちるのはうんと早くなり、学生街は夕陽に照らされてオレンジ色に輝いていた。冷たい風から逃げるように店に入ると、出迎えた執事姿の呂子星が、案の定顔を引き攣らせる。
「げっ……お前らまた来たのかよ!」
「ちょっと軽く飯食ってからバイト行こうと思って。そうだ、冷蔵庫に作り置きあるから、メモ見て冷凍庫に移しといて」
ちょうどいいと思い、呉宇軒はルームメイトたちの中で一番しっかりしている彼にそう頼んだ。話を聞いて頷きかけた呂子星は、途中でん?と首を傾げる。
「作り置きって、お前また寮に帰ってこないつもりか?」
作り置きがたくさんある時は呉宇軒が外泊する時と決まっているので、察しのいい呂子星はすぐに気が付いた。先ほど幼馴染に絆されてお泊まりを承諾した呉宇軒は、デレデレと嬉しそうな顔をして頷く。
「浩然のやつ、誕生日までは一緒に寝てほしいんだって。可愛いだろ?」
男同士の惚気話を聞かされた呂子星は、たちまち不愉快そうに眉を顰める。そしてこれ以上呉宇軒が何か余計なことを言い出す前に、さっさと空いている席へ案内した。
カフェの中は相変わらず女性客が多いが、ちらほらとスイーツ好き男子たちの姿も見受けられる。呉宇軒と李浩然のツーショットを壁に飾ったのが功を奏したのか、可愛らしい外観に尻込みしていた男子たちが「男も入っていいんだ!」と勇気を出したようだ。中には女子と一緒に来ている男子もいて、初々しいデートの様子が微笑ましい。
向かい合わせで席に座った二人は、早速フードメニューに目を走らせた。カフェらしく洋食が中心で、飲み物やサラダ、デザートなどがセットになったものもある。
こってりしたものを食べたい気分だった呉宇軒はパスタメニューからカルボナーラを、辛党の李浩然は唐辛子が効いたアラビアータを頼んだ。二人とも珍しく直感で選んだため、案内してすぐに呼ばれた呂子星が驚いた顔をして戻ってくる。
「お前ら早いな」
「今日はな。そうだ、食後のデザートに桃のアイスも追加で」
メニューを流し見していた呉宇軒は、薄桃色の可愛らしいアイスを指差した。こってりの後はさっぱりしたものが食べたくなると相場が決まっている。桃のアイスがまさにそれだ。
「おう、それならサービスで付けてやるよ。出店の助っ人のお礼がまだだったろ? パスタもご馳走するって叔父さんが言ってたぞ」
「やったぁ! ありがと星星」
学園祭で奇しくもパンダのマスコット『シンシン』に扮することになった彼をからかうと、呂子星は中指を立ててきた。
「二度とその名で呼ぶんじゃねぇ!」
からかわれた彼は怒り心頭だが、店の取材に来た王茗に正体がバレないように必死で誤魔化していた姿を思い出し、呉宇軒は笑いが止まらなくなる。あの時の出店紹介動画はまだ大学のサイトに上げられたままだ。まだしばらくはその件で彼をからかえる。
李浩然は笑い転げる幼馴染を暖かな目で見つつ、自分も追加にデザートを注文していた。
しばらく談笑しながら待っていると、まだからかわれたことを根に持っているのか不貞腐れた呂子星がパスタの皿を持ってやって来る。平打ちの太麺を見た呉宇軒は、キラキラと目を輝かせた。
「美味そう! 俺、平打ちパスタ初めて食べるんだよね」
「そうなのか? うちのは手製の麺だから美味いぞ」
意外そうな顔をしながら、呂子星はパスタと一緒にこんがり焼けたバケットを並べてくれる。焼きたてらしく、食欲を誘う芳ばしい匂いがふわりと香った。
「わあ、本格的だな!」
「サラダとスープもあるぞ」
どうやら、出店を手伝ったお礼にセットメニューに変えてくれたようだ。呉宇軒が湯気の立つオニオンスープに口をつけると、凝縮された旨味が口いっぱいに広がる。
彼が予想した通り、この店はデザート以外も絶品だ。
一通り並べ終えた呂子星は、他の客の注文を取るためにそそくさと行ってしまった。午後の微妙な時間帯のため、客の注文はフードメニューよりもデザートが多い。
「このパスタ、確かに美味しいな。ソースが濃厚で平打ち麺によく絡む。然然、一口食べてみない?」
いつもの食べさせ合いタイムだ。祖父の目を気にして最近は控え目だったので、こうして堂々とできるのは気分がいい。
李浩然は綺麗に巻いたパスタを一口食べ、顔を綻ばせた。
「うん、美味しい。次回は俺も平打ち麺にしてみる」
「だろ? 飯も美味いなんて、このカフェ最高だな!」
せっかくこんなに美味しいのに呂子星が怒るので、友人たちに紹介できないのが残念でならない。どうにか友人たちにも食べさせられないだろうかと考えていると、李浩然が自分のパスタをフォークで絡めて差し出してきた。
「阿軒、俺のも食べてみる?」
お返しをもらった呉宇軒は、舌がピリリとして眉を顰めたものの、すぐにその味の虜になった。使われているトマトの酸味と甘味のバランスがよく、唐辛子の辛さをよく引き立てている。
「辛い……でも美味しい!」
彼が目を輝かせてそう言うと、李浩然も嬉しそうに微笑んだ。
楽しみを分かち合った二人は美味しいパスタにしばし舌鼓を打ち、食後のデザートを食べさせ合いながらひとしきりイチャつくと、呂子星に別れを告げて店を後にした。
外へ出ると、空にはうっすらと星が見え始めている。そろそろ急がなければ、呉宇軒のバイトに遅れてしまいそうだった。
しかし、相変わらず用意周到な李浩然がタクシーを呼んでくれていたので、二人は帰りのバスを待たずに済んだ。
暖かな車内に入った呉宇軒は、抜かりない幼馴染に感謝の眼差しを向ける。
「助かったよ。お前って本当に頼りになるな」
「これくらい、どうということはない」
平然と返す李浩然は相変わらず格好良くて、呉宇軒はご機嫌で彼の唇に口づけた。
「それでもありがと。で、浩然は先に帰ってるの?」
「俺は図書館で勉強してる。君の仕事が終わる頃に迎えに行こう」
しばらくするとタクシーは客で賑わう黒蓮楼へ到着する。名残惜しいが、李浩然とはしばらくお別れだ。
寂しさを感じながら彼を乗せたタクシーが去っていくのを見送った呉宇軒は、気持ちを仕事モードに切り替えて店の中へ入った。
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