真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第五章 準備は万端?

8 運動不足

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 夕飯時まで部屋で過ごした呉宇軒ウーユーシュェンたちは、窓の外がうっすら暗くなってきたのを見て、上着を羽織って外へ出た。夕暮れの空には星がちらつき始め、遠くから夜が迫ってきているのが分かる。吹く風の冷たさに身震いすると、呉宇軒ウーユーシュェン李浩然リーハオランにぴったりとくっつき、彼を風除けにした。

「イーサンたちと西館で待ち合わせなんだっけ?」

 太極拳サークルに強制参加させられることになった王茗ワンミンがしょぼくれながら言うと、元凶の鮑一蓮バオイーリェンが彼の背中を笑って叩きながら口を開いた。

「それ、私たちも行って良い?」

「良いよぉ。食堂だし、先に行って席確保しておこっか」

 彼が二つ返事で頷いたので、鮑一蓮バオイーリェン猫猫マオマオ先輩は喜びのハイタッチをする。
 勝手に許可を出した王茗ワンミン呂子星リューズーシンは何か言いたそうだったが、諦めて幼馴染の背中に張り付いている呉宇軒ウーユーシュェンに話しかけた。

「それで、桑陽サンヤンたちはどうするって?」

 ちょうど謝桑陽シエサンヤンと連絡を取り合っていた呉宇軒ウーユーシュェンは、携帯から視線を上げると彼に画面を見せながら口を開いた。

「向こうで合流するって。サークルの人たちも連れて来るってさ」

 どんどん人数が膨れ上がってきて、呂子星リューズーシンはぎょっとした。恐らくイーサンも友人を連れて来るので、ちょっと食事に行くだけのはずが一気に大所帯になる。心配性の呂子星リューズーシンは、全員が席に座れるか今からハラハラしていた。
 能天気な王茗ワンミンが先陣を切り、西館へ向かって歩いて行く。初めてこの大学に来た日と同じように図書館の中を通り抜けて、正面にある自転車置き場でレンタル自転車を借りた。
 自転車が二台足りなかったものの、王茗ワンミン鮑一蓮バオイーリェンを、呉宇軒ウーユーシュェン猫猫マオマオ先輩を後ろに乗せて事なきを得る。外が肌寒くなってきたせいか道ゆく学生たちの姿はまばらで、西館への道はしんと静まり返っていた。

王茗ワンミン、しっかり!」

 二人乗りの自転車が、悲鳴のように軋んだ音を立てながら進んで行く。鮑一蓮バオイーリェンを後ろに乗せた王茗ワンミンは疲れてヒイヒイしながら必死に自転車を漕いでいたが、その横を同じく二人乗りの呉宇軒ウーユーシュェンが軽快に追い抜いていく。後ろに乗っているのが女子なので、前に王茗ワンミンを乗せた時より漕ぐのはずっと楽だった。
 追い越して行く二人乗りの自転車を見て、鮑一蓮バオイーリェン王茗ワンミンの背中をばしばし叩いた。

「ちょっと、負けてるわよ! 頑張れ頑張れ!」

 囃し立てる声に、限界ですと言わんばかりに悲壮感たっぷりな金属の擦れる音が重なる。二週間の軍事訓練を終えて少しは体力がついているはずなのに、西館へ辿り着く頃には彼は息も絶え絶えだった。

「俺……もう無理……」

 どうにか勤めを全うした王茗ワンミンは、生まれたての子鹿のような足取りで近くのベンチに倒れ込んだ。外は肌寒いのに、まるで真夏みたいに汗だくになっている。後ろに乗って悠々自適だった鮑一蓮バオイーリェンが、そんな彼の尻をペシペシ叩きながら呆れた顔をした。

「もっと体力つけた方がいいわよ。記者は体力勝負なんだから」

 彼女のありがたい忠告に、王茗ワンミンは蚊の鳴くような声で返事をした。この様子では、明日は筋肉痛になりそうだ。


 暗くなってライトアップされた西館は、西洋のカフェ風な見た目も相まって一層お洒落に見える。室内は暖房が入っているのか暖かく、呉宇軒ウーユーシュェンたちは上着を脱いで小脇に抱えた。

「待ち合わせまでまだ時間あるけど、何か見てく?」

 呉宇軒ウーユーシュェンがみんなに尋ねると、呂子星リューズーシンが真っ先に答えた。

「席の確保優先にしろ。座れなくなったら困るぞ」

 軍事訓練の後半組がまだ訓練を終えていないからか、食堂の中に居る生徒は少数で広々とした長テーブルがいくつも空いていた。外はすっかり夜になっていて、大きな窓の向こうにある趣深い錦鯉の池がライトアップされている。
 仲間たちが席を確保している間に、呉宇軒ウーユーシュェンはお目当ての『八大中華フェア』の垂れ幕の所に幼馴染を引っ張って行った。

浩然ハオラン浩然ハオラン、お前の好きそうなものいっぱいあるよ!」

 まるで宝物を見つけたかのように目をキラキラさせて言うと、李浩然リーハオランは柔らかな笑みを浮かべた。

「君の好きそうなものもたくさんあるな」

 二人で何を頼もうか迷っている間に謝桑陽シエサンヤンたちが合流してくる。彼らは初めて来る西館の食堂を物珍しそうに見渡すと、どこで料理を注文しようか見て回り始めた。
 呂子星リューズーシンたちが注文したものをその場で作ってくれるカウンターに並んでいるのを尻目に、呉宇軒ウーユーシュェンはフェアのメニューの中から酸味と辛味の味付けが特徴的な湖南料理のセットに決める。

「お前はやっぱり四川から? 俺のもちょっと分けてあげるね」

「うん。あと、小皿で少し足そうかと思う」

「良いね! 俺も蒸しエビ餃子頼んじゃおっかな」

 追加の注文も決めて頼もうとしていると、遅れていたイーサンが友人を連れて食堂の入り口から顔を覗かせる。彼は先に注文しようとしている二人に慌てて駆け寄ると、ムッとした顔で文句を言った。

「待ち合わせしてたくせに先に頼むな!」

「大丈夫だって。子星ズーシンたちのは今から作るやつだから時間かかるし」

 そう言って反対側にできた列を指差すと、イーサンは後ろを見てきょとんとした。彼の連れ二人も作っている匂いに釣られて呂子星リューズーシンたちの方へ合流している。

「食堂って作り置きだけじゃないのか」

「そうみたいだな。それで、お前は何頼む? おすすめは広東料理か福建料理かな。江蘇料理もいいぞ。あっさり目だから食べやすいと思う。あとは小皿で好きなのを組み合わせても良いし」

 メニューを指差しながら呉宇軒ウーユーシュェンがそれぞれの特徴を教えていると、イーサンは携帯でせっせとメモを取る。勉強熱心な彼は、後で見返して自分で調べる気でいるらしい。

「お前は何を食べるんだ?」

「俺? 湖南料理」

 湖南料理の場所を指差して教えると、辛いものが苦手なイーサンは唐辛子がふんだんに入った真っ赤な皿を見てゾッとしたようで、露骨に顔を引き攣らせた。

「り、李浩然リーハオランは?」

「俺は四川料理だ」

 二人ともが辛い料理を選んでいたため、彼は返す言葉に困り何も言えなくなった。結局決めきれなかった彼のために呉宇軒ウーユーシュェンが小皿から良さそうなものを組み合わせて選び、トレーを持って席へ戻る。各々が好きなように注文したため、まだ料理が出来ずに並んでいる人もいた。
 三人が席に着くと、向かいに王茗ワンミンがやって来る。彼のトレーには炒麺チャーメンが乗っていて、とろりとした餡が湯気を上げていた。

「それは何なんだ?」

 見慣れない料理に、イーサンが興味津々に身を乗り出した。まだまだ中華料理の勉強中な彼に、中国四大料理のうちの三つをマスターしている呉宇軒ウーユーシュェンが答える。

炒麺チャーメンだな。簡単に言うと餡かけ揚げ焼きそばだよ。揚げないものもあるけど」

 炒麺チャーメンは広東料理で、呉宇軒ウーユーシュェンにとっては地元でよく食べられている故郷の味だ。イーサンがふうん、と言ってじっと見ていたので、人のいい王茗ワンミンは彼に向かってそっと皿を差し出した。

「ちょっと味見してみる? 美味しいよ」

 揚げ物も苦手なイーサンはちらりと呉宇軒ウーユーシュェンを見て判断を委ねてくる。まるでお母さんを頼りにする子どもみたいだ。そんな可愛らしい様子に笑いながら、呉宇軒ウーユーシュェンは不安そうな彼の背中を押してやった。

「餡が絡むから大丈夫かもな。ちょっとだけ貰ってみたら?」

 彼の勧めにイーサンは恐る恐る麺を食べ、ぱっと顔を上げた。

「美味しい!」

「良かったな。今度自分でも頼んでみたらどうだ? 安い店だと油が良くないかもしれないから気を付けろよ」

 ひと足先に食べ始めていると、やっと料理が完成した呂子星リューズーシンたちが席にやって来る。周りに人が増えて一気に賑やかになり、みんなからちょっとずつお裾分けを貰った王茗ワンミンは嬉しそうだ。
 李浩然リーハオランが唐辛子と花椒たっぷりの鶏肉を食べさせてくれたので、呉宇軒ウーユーシュェンはお返しに豚肉の唐辛子炒めの皿を彼の側に置いた。ところが彼は箸をつけず、何か言いたげに幼馴染をじっと見る。
 彼の言わんとすることを察した呉宇軒ウーユーシュェンは小さく笑みを漏らした。

「分かった分かった、そんなに見つめるなって」

 一口大に箸で切り、李浩然リーハオランの口に入れてやる。たっぷりの唐辛子で味付けされた豚肉がお気に召したらしく、彼は満足げに目を細めた。
 お裾分けで貰った餃子を食べながら、王茗ワンミンがふと漏らす。

「ここの餃子も美味しいけど、やっぱりさっき食べた軒軒シュェンシュェンの餃子には敵わないな」

軒軒シュェンシュェンの餃子だって!?」

「お前だけ狡いぞ! 俺にも食わせろ!」

 たちまち周りから野次が飛び、俺も俺もと周りが手を挙げる。みんなから詰られた王茗ワンミンが助けを求めるように見てきたので、呉宇軒ウーユーシュェンはやれやれと肩を竦めて口を開いた。

「いつでも作ってやるから、可愛い宝貝バオベイを苛めんなよ」

 現金なもので、食わせろ!と騒いでいた男子たちはその言葉にピタッと大人しくなった。
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