今夜は全員徹夜しろ!――異世界奴隷転生した俺の玉の輿戦記

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

文字の大きさ
10 / 49

魅惑の密談

しおりを挟む
 翌朝ーー。
 俺は、美しい姫君の姿に変身したインジェンのお供をして、ある場所へと向かった。
 目的は、インジェンの住む翠玲宮の近くにある、ロウ・リン姫が溺死したという井戸だ。
 俺の格好は、擦り切れた使い古しの青い長袍に、赤い傘の帽子。
 チンチンは無事だが、今の俺はどこからどう見てもピンポンパンと同じ、立派な宦官だ。
 俺は皇子の機嫌を損ねないよう、ひたすら腰を低くしながら、石臼みたいな形の丸い井戸を観察した。
「……なんの変哲もない井戸ですね。強いて言えば、人間を放り込むにはいささか狭いような。こんな井戸に頭から放り込まれたら、もがくことすらできなかったでしょうね……」
「公主の苦しみは相当のものだったはずだ」
 そばに立つ、憂いに染まるインジェンの横顔は、化粧のせいで完全に可憐な美女そのものだ。
 こんな明るい場所で、しかも間近で見てしまうと、王族じゃない俺でもクラクラしてしまう。
 旗袍に焚きしめられた華やかな伽羅の香り、優雅な歩き姿にどことなく色っぽい仕草……。
 ワガママな女王様っぽいところも、好みのタイプなんだよなぁ。
 やばい、俺、呪いにもかかってないのに、恋に落ちてしまいそうだ!
 男だと分かってても、間近で見る女装のインジェン皇子は、立ち居振る舞いも含めて絶世の美人すぎる。
 これで、適度におっぱいが付いてれば。
「……貴様、何を見ている? 無礼者」
 汚物を見るような目をされて、慌てて俯いた。
 ……うっかりしていた。
 この世界じゃ、貴人の顔を舐めるように見るなんて、タブーもいいところだ。
 俺は皇子の足元にひれ伏し、額を地面に擦り付けた。
「――申し訳ございませんっ、お許しください……!」
「この呆れた身の程知らずめが……。ところで、少しでも何か手がかりは掴めたのだろうな? 卑しい妖魔め」
 ハアハア、もっと罵ってくれ。いや違う、Mの性癖をさらしてる場合じゃ無い。
「……恐れながら、今は、全く……」
「何だと……? 貴様、豚の餌になりたいのか」
「申し訳ございませんっ。……ところで殿下。手がかりを得るには、予備知識が必要です……! 二、三、伺わせて頂いて宜しいでしょうか!?」
「何だ」
 うう、凄く嫌そうな顔された。
「有難うございます。……一つ、疑問なのですが……何故、呪いが始まったのが、ロウ・リン公主殺害後、百年近く経過した後だったのでしょうか? 王子たちに復讐するというなら、彼女が死んだ後、すぐでも良かったはずです。五年前、何か、きっかけというか、変わったことはありませんでしたでしょうか?」
「……特に無い」
 ニベもない答えにガクッとなったけど、めげずに質問を続ける。
 気分は名探偵コ○ンだ。
「そっ、それから……ロウ・リン公主の死の状況についてなんですが……何か、当時のことを知る手立てはありませんでしょうか」
 皇子は気怠げに首を横に振った。
「……城の蔵書庫の書物は、この五年で既に私が調べ尽くした。だが、公主に関する公的な記録は殆どなく、わずかな記録も私が生まれて間もなく起きた失火で失われていた。……ロウ・リン公主の名も、その死に様も、老いた宦官の昔語りとして伝わるのみだ」
「……そうですか……」
「そもそも公主に関する記録というのは、名前すら残らない場合が多い。まして王朝最後の混乱期の記録など」
 そりゃそうだよな。皇子ならともかく、若くして亡くなった女性なんて、名前が知られていることすら珍しいくらいだ。
 インジェンが鳥の羽毛のような長い睫毛を伏せる。
「だが、城の外はまだ、私にも調べられていない……」
 赤い魅惑的な唇が漏らしたその言葉に、俺は飛びついた。
「外にも手がかりが!?」
「……。宮殿の北東、王家の墓の集まる場所――都から西に280里(140キロ)離れた玉清陵に、前王朝からの歴代皇帝の墓群がある。そこに、ロウ・リン公主の墓があるはずだ。その墓を開けて遺体や副葬品を調べれば、何か公主に関する事が分かるかもしれぬ」
 何だ、意外と近いじゃないか。
 馬で行けば、余裕で次の満月に間に合うぞ!
 喜び勇んで、俺は顔の前で両手を組んだ。
「では、わたくしめをそこへ遣わして下さいませ。 必ず、何か手がかりを見つけてまいります!」
「駄目だ。お前がそのまま逃げおおせないと誰が保証できる!?」
 ですよねー……。
 なーんて、そう簡単に諦めるわけにはいかない。
「そっ、そんなことはいたしません。そうだ、それならば、誰か信頼のおける方を監視役として私にお付けください」
「……私は十三歳からずっとこの宮殿に幽閉されている。身の回りを世話する宦官達はいるが、彼らは私の秘密を知る為、城の外に出ることを許可されていない。他に私の秘密を知るのは、皇帝の側近たる一部の大臣と、私の武芸の師である老将軍のみ。お前の監視役を務められるようなものはおらぬ」
「そんな……」
 唯一の手がかりがありそうな場所に行けないなんて、無理ゲー過ぎるだろ。
 俺は座して死を待つしかないのか!?
「……だから、私が自らついてゆき、貴様を監視する」
 さらりと言われた言葉に、俺は目が点になった。
「はいっ!? 公主様、自らでございますかっ!? 幽閉されてるのに、どうやって!?」
「お前が妖魔だというなら、人目に触れず、この私を城から抜け出させる方法も知っているのでは?」
 イヤイヤ……俺も流石に、そこまで万能じゃねぇ!
 言葉に窮していると、インジェンは悩ましくも冷たい流し目で俺を見た。
「私はロウ・リン姫の傀儡として生贄を捧げる時以外に人前に立つこともなく、この翠玲宮の周辺で、宦官と書物ばかりを相手に暮らしてきた。……お前の監視ついでに、数日、外の世界を視察するのも悪くは無い」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

処理中です...